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★【稲田顧問】タツオが行く!(第75話)
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「これまでのタツオが行く!」(リンク)
75.研究会の総会を終えて
10月25日、「超高層ビルに木材を使用する研究会」の第12期定時総会・記念シンポジウムが福岡で執り行われた。
今年は、安藤ハザマの麻生直木さん、三菱地所設計の吉原正さんに基調講演をお願いし、草創期の大規模木造建築から最新の超高層木造ビルまで、興味深いお話を聞くことができ、大変有益な会合であった。
定時総会・記念シンポジウムを通して考えたことを少し記しておきたい。
私が木質建築に本格的に取り組み始めたのは、2010年福岡大学に教授として赴任してからであるが、その頃から今日に至るまでの、大形木造建築に関する世の中の流れをおさらいしておきたい。
私が福大に赴任した2010年頃、ロンドンとメルボルンで相次いで10階建ての木造の集合住宅が建設されたとのニュースがもたらされた。新建材であるCLT(直交集成板)が用いられているとのこと。
2013年には横浜港北ニュータウンに木造の大規模ショッピングモール「サウスウッド」がオープンする。2016年になると「CLT関連告示」が施行されことにより、ようやく我国でもCLTを用いた建築が建設可能となる。
この告示に基づいて設計されたのが、6階建ての松尾建設新本店(佐賀市)、10階建てのパークウッド高森(仙台市)である。
ちなみにこの頃海外の状況を見ると、カナダでは17階建ての超高層木造ビル「ブロックコモンズ」が、またウィーンでは24階建ての木造超高層「HoHoプロジェクト」が竣工している。
さて、そんなことをしている内に一昨年我国でも、日本橋で17階建ての木造超高層ビルの計画が発表され、既に着工されたとのこと。また昨年は東京丸の内の前川国男氏設計の東京海上ビルの建て替え計画が発表され、20階建ての木造超高層ビルに生まれ変わるとのことである。
地震国日本でも海外に劣らない木造超高層ビルの時代が到来することになったと言えるのだと思う。我々が10年前に「超高層ビルに木材を使用する研究会」で描いた未来の夢は、瞬く間に現実のものとなってしまったのである。
福岡大学を2017年に定年退職した後、山佐木材の顧問として我国の大規模木造建築の推移を見て来たのであるが、今の状況をもってゴールに到達したかのと言えば勿論そういうわけでは無い。例えば林野庁の統計を見ると、世界のCLTの生産量は100万m3を超えているのに対し、我国のCLTの総生産量は全国でも2万m3にも満たない。考えてみれば超高層木造ビルに使用される木材は、我国の木材需要全体から見れば微々たるものに過ぎないのである。
多分「超高層ビルに木材を使用する研究会」は我国の国産木材活用促進のために多少の「種は蒔いた」のかもしれないが、本当の普及段階はまだまだということだと思う。
逆に言えば、まだまだやることがあるということで、今後とも気を引き締めて木材活用促進に取り組むことを決意した次第である。
それにしても、いくつになっても楽しみながら付き合える仕事を持っていることは、幸せなことである。これまでの経緯に心から感謝申し上げる次第である。
(稲田 達夫)