メールマガジン第57号>やまたすく通信

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★【新連載】やまたすく通信(1)

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「株式会社やまたすく」設立しました

 先月号のメルマガで、当社代表が「林業会社の設立」として株式会社やまたすくの設立についてご紹介しました。(リンク

 4月着任後の初仕事として、会社法人という公器に命を吹き込む設立業務に携わることができ、大変身の引き締まる思いでした。今回は、この「(株)やまたすく」の設立趣意をご紹介したいと思います。

 

以下、今回役所に提出した設立趣意書をご紹介します。少々硬い文章ではありますが…

 日本の森林資源、その中でもスギ、ヒノキ等を中心とする人工林は、戦後拡大造林期から10齢級以上の利用期に本格的に移行しつつあります。当社の所在する九州内に置きましても、大型製材工場進出による需要の増加、集成材・CLT・合板材の需要の増加、木質バイオマス発電所の燃料材需要の増加、鹿児島県志布志港を中心とする原木輸出需要の増加と、冷え込んでいた林業が成長産業化への兆しを見せているかに感じられます。しかし一方で、主伐後の再造林率は低く(※1)、山元立木価格は横ばいで森林所有者の森林の所有・経営意欲を喚起するには至っておりません。また、今後既存の森林所有者の高齢化や不在村所有者の増加によりますます所有者不明林が増加、結果手入れ不足による荒廃林が増加し、活用しやすい条件の林分ばかりが主伐対象となっていくという悪循環に陥っているのではないでしょうか。このままでは、将来的に持続可能な森林管理が維持されるのか危惧しております。

 

 そのような中、当社設立中の最中にも林野庁において森林環境税および森林経営管理法の立案に向けた審議が行われており、従来の素材生産業や木材加工産業の高度化のみでなく、市町村と「意欲と能力のある林業経営者(※2)」の連携による「新たな森林管理システム」の構築が謳われています。これは従来の「施業地の集約化」のみならず、「経営管理の集積」を行うことで、川上の改革から流通全体の改革まで行おうというものです。自ら「意欲と能力のある林業経営者」を名乗る事はおこがましいかもしれませんが、今回私共が創設しました「株式会社やまたすく」においては、県、所在地域の市町ならびに有識者のご指導を頂きながら、流域全体において時流に応じつつも真に持続的な森林管理、林業経営、木材産業の活性化を目指すべく、事業活動を展開して参る所存です。具体的には、自ら所有林にて林業経営を行うと同時に、県、市町、域内の他の林業事業者様との連携体制を構築しながら、他者様の林地の広域の集約化ならびに森林経営計画等の計画立案、森林施業の実行およびその支援等を行ってまいりたく存じ上げます。皆様のご指導、ご鞭撻を賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます。

 

※1 本県では3割程度(平成27年2月鹿児島県「未来の森林づくり推進方針」より)

※2 高い生産性・収益性を有し、主伐後の再造林を適切に行うなど生産活動の継続性を有する者

(素材生産業者、森林組合、自伐林家等) 

以上が、設立趣意です。趣意書については、何ページにも渡って記載することができず、歯抜けになってしまっている想いがたくさんあります。

 

 例えば、「森林所有者の森林の所有・経営意欲を喚起するに至っておりません」と書きました。この部分については、和歌山で森林所有会社にいた折から、「森林資産管理と森林資源管理、森林環境管理のすべてを森林所有者が責を負うべきなのか」という疑問を抱いてきました。日本の林業の難しさは、「林業を行える森林」と「環境機能を発揮する森林」、「個人資産」と「公益資産」といった区分の曖昧さにあるように思います。もちろん、その曖昧さが故に、過去から多額の税金が投入されており、個人資産に当たる林木の造成が行われ、結果、公益的な機能を発揮できる森林が「量的」にはつくられてきたのかもしれません。しかし、ここにきて「主伐」「木材生産拡大」の呼び声ばかりが大きくなっており、現在の仕組み、技術だけで対応できる林分ばかりに手をつけられ、結果持続性を失うような状況になってきているのではないでしょうか。つまり、森林管理、森林施業と木材生産、木材流通の至るところで持続性を確保する「質的」な部分を維持する能力向上が伴わなくなってきているのではないかと感じています。

 

 まだまだ至らない部分ばかりですが、今回立ち上げた会社では、市町村と連携を行う「意欲と能力のある林業経営者」になることを目指します。ただ、単に国の政策の流れに身を置くだけでなく、

・ 個人資産でもある森林の管理について市町村や所有者以外の林業関係者が効果的に関与できる仕組みづくり

・ 地域に則した環境機能の発揮と木材生産の機能を実現する森林管理と森林施業と木材生産活動の実現

・ 山元に還元することのできる有効な木材利用を目指し、木材流通と木材加工を一つ一つ接続する

といったことを担う、地域の「コーディネーター」でありたい、自身も含めて、そのような動きのできる人材を育てていきたいと考えています。

 


写真1 写真2 スイスでフォレスターが管理する森林と木材生産(皆伐禁止のため択伐施業)

 

写真3 100年前に日本の林学者により人為的に計画造成された明治神宮の森。天然林ではありません。

 

写真4 屋久島の縄文杉、かつては「倒木更新」や「切り株更新」といった技術でバランスを取っていたそうです。


 この3月末まで従事していた和歌山県の林業会社は、広大な面積を有する森林所有者であり、資産・資源としての森林管理と森林施業、事業体経営、税務管理のバランスを取る「番頭」が大きな役割を果たしていました。

 この番頭の機能、スキルを整理すると、

・ 実質的に森林管理と森林施業・林業経営、言い換えると資産保全と収益回収を行う「プロパティ・マネージャー(実物資産管理者)」

・ 所有と経営の分離を行う前提にはなりますが、資金調達・運用を行う「アセット・マネージャー(金融資産管理者)」

・ 事業体経営と租税管理のバランスを取る「アカウンティング・マネージャー(会計管理者)」

・ 販路開拓のみではなく、森林資産価値を全体を高めて収益を売る仕組みづくりを行う「マーケティング・マネージャー(日本語で「マーケティング」の説明は難…)」

・ 森林組合や素材生産事業体、木材加工側、行政との連携体制構築を行う「ローカル・コーディネーター(地域統括者?旗振・船頭役)」

 

 現時点で考えている範疇はこの5つの機能、スキルになります。これらを身に着けた人材の育成を軸にしながら、例えばICT導入、スマート林業といった今後不可欠な新技術の導入にも自ら取り組み、地域全体で森林資産・森林資源の価値向上、森林管理の充実、林業・木材産業の活性化に向け、企画提案、実行改善の行動をしていきたいと考えています。これらの実現は、関係者皆様のご支援を頂かなければ到底不可能だと考えています。ご指導、ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。 

写真5 前任地 紀州和歌山の急峻なスギ・ヒノキ人工林。自慢の番頭さんが重要な役割を果たしていました


会社設立を初体験

 ちなみに、いままで経営コンサルティングやシンクタンク業務、会社運営や企画立案業務には携わってきましたが、「会社設立」そのものは初体験でした。

4月2日に着任してから5月1日に設立登記になるまでは、

・ 上記のような事業内容を盛り込んだ「定款作成」

・ 公証人役場による「定款認証」

・ 設立時の「資本金振込」

・ 法人設立登記に必要な「登記事項書類の準備」

・ 法務局での「設立登記」

 

 登記後も、税務署への届け出(法人設立、青色申告承認)、県・町税務課への届け出(法人税関係)、銀行の法人口座の開設、経理・会計の仕組みづくり、細かく言えば社印の製作といったものまで、どれもこれも初めての体験でした。「やってみないと分からない」とはまさにその通りで、特に設立登記を行うまでの作業は、会社の事業目的や、どのような事業運営、法人組織の運営をしていきたいかについて悶々と考える日々でした。ひとまず会社設立と相成り命を吹き込むことができたように思いますので、先ほどお伝えした初心を貫徹すべく邁進してまいりたいと存じます。

 (新永)

写真6
写真6

写真6 鹿児島の自然環境に合わせてどのような「森林(もり)づくり」と「林業経営」を考えていけるでしょうか

 

(写真は先日足を運んだ鹿屋市吾平の「吾平山上陵(あいらさんりょう)」。岩屋の御陵でとても素晴らしい環境でした。オススメです)