メールマガジン第61号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(43)

 「九州初の『木造4階建て福祉施設』見学会の報告」

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 九州初の木造4階建の福祉施設」が、昨年10月に鹿児島市草牟田に完成した。国道3号線沿いに建つ「見るからに純木造の外観の美しい4階建ての建物」は、デザインも注目されるが入居者にも働く職員にも好評と聞き、そこで「ゆうかり学園・水流源彦理事長」に特別にお願いして見学会を開いた。

 木造建築の利用の可能性が広がる良い機会と考え見学希望者を誘ったら、宮崎や熊本を含めて有力設計事務所から25名が集まり、9月25日に見学したので報告記を纏める。

 

 地域生活支援拠点ゆうかり学園」は、運営目標として「あなたの笑顔は、みんなをHAPPYにする!」を掲げ、障害を持つ人でも街中で地域の人々と交流しながら、意欲と自信をもって自分らしく暮らせる事をサポートするを目指している「介護と養護の複合施設」である。

 建設施工は、鹿児島市の深野木・川井田特定建設工事共同企業体が担当し、設計事務所は大阪市の無有建築工房である。 

 従来は、街中での中層建築物を検討する場合は、耐火構造が条件付きのため、安易にRC造をと考えられて来た。しかし、ゆうかり学園では理事長の意向で、4階建て木造の計画が進められた。

建築概要は次の通り。

 

 用途地域は、商業地域と第一種住居地域で、準防火地域である。

 木造5階建て以上は、耐火建築物として2時間の耐火条件が求められるが、4階建ては1時間の耐火条件で建築可能である。

 軒高14.5m、建物高さ14.9mの4階建ては、建築面積395m2で、延べ床面積が1297.5m2。基礎は厚さ1mのコンクリートベタ基礎。屋根仕上げはガルバリウム鋼板で、外壁は米杉板貼と、部分的に窯業サイディング貼りを採用している。

 設計は平成27年9月から1年を掛け、施工期間は平成29年3月~9月であった。

 

 国道3号線に面した面格子デザインは、外からは内部が見え難いが、内部から国道の通行状況は良く見える。しかし遮音効果は高く交通量の多い国道の外部音は気にならない。

 当敷地は、当初マンション建設が計画されたが、斜線制限から高層建築が困難と判った。そこで「4階建ての地域生活支援拠点の施設なら建設規制をクリアーできる」との話から、ゆうかり学園が土地を入手し、設計の検討に3年が費やされた。

 当初はRC造も検討されたが、甲突川沿いの軟弱地盤のため「長さ25mの地下杭の施工」が必要と判明した。コンクリート基礎杭の建設コストが高くなる事から、設計士と相談し軽量と言う特徴を活かす事の出来る木造となった。

 最初は「当時新しい木製品として話題となり始めたCLTの採用」も検討されたが、計画した頃は未だ開発段階だったCLTを利用した中高層の建築許可を受けるには、特別な認定審査が必要な上に手続きも簡単ではなかった。

 

 そこで「2×4工法の木造4階建」とするなら申請手続きは難しくなく、また木造4階建にすると建物の総重量が軽くなるメリットを活かして、高額のコンクリート基礎杭工事を止めて「1m厚のベタ基礎」で建設が可能と判り、コストを大幅削減できた。2017年3月に着工したところで、建築場所の余裕スペースが無かった事による資材置場の確保問題や、熊本地震等の影響による建築関連の人手不足等もあり、当初計画より数か月遅れて2017年9月に完成し、10月に開所する事が出来た。 

 

 ゆうかり学園は、鹿児島市岡之原に在る「本部施設」の他に、谷山地区にゆうかり保育園を運営しているが、2件とも木造建築である。前理事長が関西地区の同業者の建物設計が気に入り、大阪の「無有建築工房」に設計を依頼した経験から、今回も同事務所に木材活用を条件で発注したとの事である。

 

 水流理事長の「施設に住む人も、働く人も快適に!」との思いと、木造の建物なら「和み安心できる木のぬくもりや、柔らかい雰囲気を醸し出す」事が出来ると考え、そして身障者や子供向け施設には、「人に優しい木造がふさわしい」との思い等から木造に決めた。

 

 外観は空に向かって並んで伸びる二つの三角屋根と、木製手すりが印象的な木造4階建てである。施設の1階は相談支援事業関連施設と、地域交流スペースとしての子供食堂や映画の上映等で地域に開放されている。2階は生活介護施設のショートステイ通所介護用に20名を収容できる。3階と4階はフロアー毎に、男女別の2ユニットのグループホームとして、定員は14名である。

 鹿児島市から委託を受けて職員が24時間体制で常駐し、安心して地域生活を送れる様に緊急時の対応が出来る体制を敷いている。

 

 外階段はバルコニーとしても利用されるが、外壁はレッドシダーの耐火仕様となっていて、またエレベーターで連絡する専用エントランスも木材に囲まれたソフトな感じで、使い易く配慮されている。

木材(レッドシダー)の外壁耐火使用による階段室
木材(レッドシダー)の外壁耐火使用による階段室

 主要構造部は、全国的にも未だ事例が少なく鹿児島県で初の木造4階建ての耐火構造で、床・壁・屋根は2×4工法用材(さつまファインウッド社が杉材主体で納入)を使用した大臣認定工法が採用されている。各階を貫き大きな力が掛る部分は、タイロットで基礎と強固に緊結し、更にたわみや木材収縮対策はタイダウンシステムを取り入れている。一般的な木造耐火構造では、石膏ボードで二重被覆する工法が採られるため、「構造材を現し」を活かせていないが、今回はスプリンクラーを設置した事で「内装制限の緩和対象」となり、あらゆる所に積極的に木質系の素材を使用できている。床は上下二重張りにして耐火条件をクリアーし、屋根材は発泡成形ポリスチレンを心材に、構造用面材(OSB)でサンドイッチにした断熱パネルを使用している。この方式を採用した事で、スパンを5mまで飛ばせる事となり、垂木が不要となってスッキリ見え離るだけでなく工期も短縮が出来た。

 「難燃剤を注入した耐火認定材のFRウッド・260×320角材」(住友林業製)が、大黒柱のイメージで取り入れられた柱や棟木は、「不燃処理した燃え止り層の木材」で被覆されている。

 

FRウッドの断面
FRウッドの断面

 従来の考え方での耐火木造では木材の良さが隠れてしまいがちだが、スプリンクラーを設置した事で、今回は表面に木質仕上げ材を使用できたため、誰が見ても木造と実感できる設計となり、「利用者への優しさ」が溢れていると好評だった。

 主要構造材ではない部分の柱に、背割りした120角のヒノキ無垢柱を使用した事で、集成材とは異なる天然木の良さ古民家風な意匠性が素晴らしい。

 

  ヒノキの化粧柱は、廊下や通路部分にデザイン性とリズム感を与え、手すりの役目も果たしている。現場に居合わせた入所者が、「ぶっつかっても痛くないよ」と自慢気に話してくれた事も印象に残る。壁板は主に国産杉材が使用され、屋外床材にはレッドシダーを、屋内の床にはカバザクラのフローリングが使用されている。

FRウッドの柱
FRウッドの柱

 理事長の、「4階建て木造にした事で、躯体重量が相当に軽くなり、そのため長大なコンクリート基礎杭の工事費が大幅削減された。今後、建築件数を重ねれば、更に施工期間の短縮が可能となると思った」との説明も記憶に残った。指摘された2点は「木造では今まであまり話題とならなかった新たな着目点」として活用すべきと思った。非住宅建築の「木材活用のモデルハウス」と言えるほどの素晴らしい建築である。

 カナダ林産業審議会(COFI)が主催する「2×4工法による4階建て以上の、中層の木造建築デザインアワード」の特別表彰を受けたとの事だが、さもありなんと思う建物だ。

 

 ゆうかり学園の入所者は自立を目指すために、黒豚を飼育している。その黒豚を使った「しゃぶしゃぶ用の黒豚肉」「ウインナーやソーセージ」「黒豚餃子」を、系列の「遊花里」で、身障者の自立のための収入事業として、加工し販売している。私は買って帰り自宅で食べてみたが、お買い得価格であるし味も本格的だと思ったので、皆様にもお勧めします。

 周囲の私達が少しでも、自立を目指す人達への協力を提案したいと思うので、「ぽぉーく・しょっぷ遊花里」(鹿児島市西伊敷3-33-15☎099-220-3855)への注文を期待します。

 

 来年6月には、建築基準法の木造の高さ制限が13mから16mへと改正され、木造建築の設計の幅が広がり、更に木造建築物のリフォーム条件も緩和される。「4階建て以上の中高層木造建物」の拡大により木材需要が増え、地方の林業や木材産業振興に貢献する事に期待するものです。

 

 末尾になりましたが、御多忙な中を丁寧にご案内頂いた水流源彦理事長に感謝申し上げると共に、これからも木材活用にご協力をお願い致します。

 (西園) 


参考・引用文献:「鹿児島建築士70」 公益社団法人鹿児島県建築士会 平成30年1月発行

        ゆうかり学園リーフレット