メールマガジン第62号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(44)

 「木造建築物の『法定耐用年数22年』を考える」

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 木造建築物の普及拡大の足枷となっている問題としては、防火と腐朽菌や白蟻等への耐久性対策が重要だと常々言って来た。しかしよくよく考えてみると「法定耐用年数による誤解」も大きな問題だと提起したい。

 税法上の法定耐用年数は、木造22年、鉄骨(S造)34年、鉄筋(RC造)47年と決められている。私が問題とするのは、その標準年数表に起因する誤解が、木材利用で如何に悪影響を及ぼしているかについて、木材関係者は殆ど話題にしていない事が禍根を残してきたと思う。

 

 金融機関の融資条件の基準や考え方を聞くと、「法定耐用年数」と「物理的耐用年数」と「経済的耐用年数」が明確に区別されていないと思われる。特にメガバンクでは「法定耐用年数を経済的残存耐用年数と考えている」との話を耳にする。そして「融資年数は、法定耐用年数の範囲内」で運用されている例が多いそうだ。その結果「木造は、S造やRC造よりも耐用年数で劣る」との間違った考え方を広めている原因となっている。そこで木造建築関係者は、もっと関心を持って対抗策を考えるべきである。幸いに住宅金融公庫や地方の信用金庫等は「法定耐用年数よりも長い融資条件の適用」しているから、誤解から起きている格差の解消運動を全国的に広げる事が、木造住宅の普及拡大への課題だと思う。

 

 法定耐用年数基準は、昭和26年に当時の大蔵省の税務関連の省令「減価償却資産の耐用年数」として発表されている。その後、数回の改訂を経ているそうだが、「木造建築物に厳しい建築基準法が制定された1年後に省令が発表されている」と聞けば、「木造22年の短い耐用年数」が決定された原因が何となく推測される。

  世間では残念ながら、「木材関係者の発言よりも、金融関係者の意見が、影響力が大きい」から、金融機関が説明している「木造の耐用年数は22年と短いから、耐久性を考えれば木造よりもS造やRC造が有利」との考え方がまかり通る事になってしまっている。

 

 木造住宅関係者や、木造住宅に長年住み続けて来た人達で、「木造住宅の物理的耐久年数が、法定耐用年数の22年と同じ」と思っている人は居ないはずだ。そして「木造住宅の使用可能な寿命はもっと長い」と判っているのに、金融関係者の勘違い運用が原因としか思えない問題を、このまま放置していて良いのかと思う。

 建築設計士の中でも、木造建築の管理経験者は「木造の耐久性が低いと思っている人は居ない」はずだが、しかし1級建築士の多くは大型建築物の設計を主体としている事からか、木造建築の設計経験が無い人が多いそうだ。大学の建築科では、木造住宅の授業は数時間程度の所が多いのが実情と聞くし、木造建築の設計未経験者は「木造は、RC造よりも耐久性は劣る」と思い込んで居る人達が多い様な発言が聞かれる事は残念である。

 

 建築関係の書籍等で「賃貸住宅の検討時に、安定した家賃収入を考えるなら、RC造を第一候補にすべき」との説明を読まされると、木材関係者は放置すべきでないとの思いを強くする。

 法定耐用年数は「減価償却資産が利用に耐える年数」と定義され、減価償却資産とは「時間経過と共に価値が減少していく税法上の資産の事で、年を経る毎に価値が下がっていく部分を、損失として費用計上できる金額」とされている。同じ不動産の分類でも「土地は経年変化しないから」との考えから、減価償却の対象とされていない。

 

 「木造住宅の法定耐用年数は、建物の使用寿命年数とは違う」との考え方を一般化させる啓蒙運動が必要と思う。「木造住宅の法定耐用年数は22年」だから、「22年後の木造住宅の価値はゼロ」としている金融機関の耐用基準の考え方が、一般の人々に大きく影響を与えているとしたら、改善運動を起こすべきである。「木造住宅の融資期間は法定耐用年数ではなく、現状の正当な残存評価」で決められる様に変われば、日本人の建物の維持管理の常識も変わってくると期待するが、今の日本ではなかなか改善されそうにない。

 

 建築時の工法材料選定と共に、使用後の持主の維持管理次第で建物の保全状態は大きな格差が生じて来る。欧米では「日曜は家族総出で、自宅のメンテナンスや庭の手入れ等に努める習慣」が一般化している。そして持主は、住宅の取得時よりも如何に転売時に高く売るかを目指し維持管理に努めている。結果として個人住宅の資産価値だけでなく、その居住地区全体の不動産価値を高める事に繋げている。

 日本で同様の意識を育てるには、まずは「金融機関が採用している、法定耐用年数経過後の木造の資産価値はゼロ評価」の現状認識を変える必要がある。それには金融機関へ改善を求めると共に、「財務省の管理下にある木造建築物の法定耐用年数の基準の再検討を求める運動」を始める必要もあると考える。

 そして木造住宅の正当な評価を判定する社会基準が出来れば、市民の建物の維持管理の意識を育て、地域の相対評価を高める気風にもつながると期待できる。

 

 人の健康状態は「幼い頃からの食事や睡眠を適切に取る生活習慣と共に、いつも明るく前向きに生きる姿勢で決まる」と言われる。また「人間は生まれた時の素質も大事だが、育て方や生活態度が健康寿命に大きく影響する」とも言われる様に、住宅も同じで維持管理や適切なメンテナンスが重要なのである。制度よりも人間の生活次第で評価されなければならない。

 木造住宅は設計する時は、「使用部材の選定が重要」と誰でもが知っている。所が、国が決めている法定耐用年数では、「耐久性が大きい材料と認められている『ヒノキ・クリ・ケヤキ』を使っても、逆に耐久性が低い材料を使用しても、「同じ木造住宅として22年の耐用年数」と評価される制度が大いに問題である。また材料以上に重要と言われる施工法や「持主による丁寧な維持管理やメンテナンスが全く評価されない現状制度」のままで良いのだろうか。

 世界で最長寿の木造建築物として有名な「奈良斑鳩の法隆寺五重塔」は、太いヒノキやケヤキ材を使い、1300年前の建設以来の適切な維持管理と、適時適切な高度の補修技能を活用して来たから、世界に誇る文化財を伝えて来ているのである。

 

 日本人は世界中のどの国の人々よりも、「自然素材を利用した木造の良さを活かすと共に、木材の弱点を手入れ修理する高度な建築技術や匠を育んできた」事が、独特の日本文化を作り上げてきた訳で、財務省の「木造住宅の法定耐用年数の一律22年の基準」は、伝統文化の良さを評価しない事になっている。根本的な改善運動を起こせないものだろうか。

 法定耐用年数表を細かに見れば、S造でも鉄鋼厚3㎜以下は木造より短く19年で、4㎜厚以上が34年と、鉄骨厚でランク分けされている。そして住宅用よりも事務所用は少し耐用年数が長く設定され、木造で24年S造は38年RC造は50年と差を設けているのは何処が違うのだろうか。また逆に旅館ホテル用の耐用年数が短いのは節税対策からだと思うが、その根拠を納得できる様に説明してくれる人は少ない。

 最近の高層木造建築は、耐久性や防火性が向上して来たから建築条件が緩和されて来たと思うが、それなら「法定耐用年数も延ばしても良いのでは!」とも考える。また最近話題の木造10階建は、主要構造材が鉄骨で壁と床が木造の建物だが、その場合の法定耐用年数はどうなるのか? 建築基準法では、建物とは「柱・土台や梁等の構造材と屋根と壁を有した構造物」との事だが、その整合性は如何なるのだろうか。

 

 逆に法定耐用年数が短い事は、設備の更新上からは節税面のメリットであるとして活用する人達も居る。金融機関は融資時に「木造の法定耐用年数が短い事によるメリット」も、しっかり説明して欲しいものだ。不動産業者も同様に「法定耐用年数を経た木造住宅の資産価値は一律ゼロ」との根拠の乏しい話は止めて欲しいと思う。そして市民も木造住宅の現状評価を十分に理解できる様に勉強してもらいたい。

 コンクリート造の建築物を、「自然石造と同等の耐久性」があると考えている人達が居るが、大きな誤解である。自然石の建設物は確かに千年単位の使用が期待できるが、練り製品であるコンクリート造には同等の耐久性は期待できず、自然石造や高温度で焼いた陶器類とは根本的に違い、耐久性は遠く及ばない事を勘違いしないで貰いたい。

 

 法定耐用年数は、国の基準だから簡単には変えられないと思い込んでいる人達が多いが、木造建築の技術や性能は、昭和20年代と比べれば大きく進歩向上している。技術の進歩に合わせての法定耐用年数の設定を、木材業界から国へ働き掛ける必要があると思う。

 アメリカでは、「日本は木造住宅を使い捨てにしているらしい。長く使える木造住宅を、20年程度で使い捨てにする可笑しな国だ」と話題としているとの事だ。誤解の発生源は、法定耐用年数22年の規定が影響していると思われる。アメリカ・カナダの住宅は、ほとんどが木造で、10階建てのホテルや集合住宅が普通に建てられている上に、法定耐用年数も27.5年と日本基準との差は大きく無いのに。木造住宅の減価率は1.8%と言われ、日本の3倍も長く住宅を使用していることになり、「100年以上使用するのが当然」との考えが一般的である。米国人が木造住宅を長期間使う現状に比べて、日本人との認識の格差の原因は何処から来ているのだろうか。

 

 日本では、戦後の劣悪な住宅環境と急速な生活様式の転換から、既存住宅が更新されて来た事と、地震の頻発による耐震基準が度々改正されて来た影響が大きいと思われる。

 1971年の十勝沖地震に続き、1981年の宮城県沖地震で「新耐震基準」へと改正された。更に2000年の阪神大震災後による改正等と、たびたび耐震基準が改正されて来た事で、それ以前の建物が「既存不適合住宅」となっている。増改築や用途変更時には、最新基準に適合させる必要性から、大幅な耐震改修を行うよりも思い切って建て替える事例が増えている。(来年6月には木造の使用途変更時の基準が緩和される事は良い政策変更である。)

 

 「3匹の子豚」の話は西欧の昔話だが、「木造りの建物に住んでいた子豚よりも、レンガ造りや石造りの家に住んでいた子豚は安全だった」との話は、アメリカの住宅は大半が木造で長期間使用されている現状から考えると、日本の木造の現実を冷かしている様に思えてならない。そんな話を幼児時代に話す事による、木造住宅へのマイナスイメージは問題と考える。

 

 木造住宅は個人にとって大きな財産だけに、使い捨ての悪循環からの脱却が必要である。

 長期のローンを組んで家を造り、長年の返済が完了したら「資産価値ゼロ」との考え方はおかしな話である。日本の中古住宅の取引を敬遠する考え方は、「古い建物は将来の転用時に、多額の出費が発生するとの不安から低い評価となり、値引きの要求に繋がっている」と思われる。その考え方からすると、木造であろうがRC造であろうが、条件は同じはずなのだが。

 中古物件でも一般の人々が、維持管理状況が判り易く評価できる様な制度が確立されるなら、中古物件も値引きされずに安心して取引される事となり、日本全体の経済資源が浪費されない事になる。所有者も資産の価値向上のために、維持管理費に努力するであろう。

 

 最近は築100年を経過した古民家を活用する動きが見られる事は喜ばしい傾向だ。特に人口減少と衰退の激しい地方で、古民家の価値を再評価し活用する傾向が始まっている事は、都会にはほとんど無いだけに、地方再生のための切り札になると思うので、もっともっと広めたいものだ。

 今年から中古住宅の取引で「宅建業者に、維持管理状況調査が義務付け」られ、運用開始されたそうだ。「維持管理と改修状況の記録の標準化」が早く普及する事を期待する。

 

 建築学会の提言の「わが国の建築物の位置づけと在り方を見直す」にも、「建物は社会的共通資本として長期間維持使用される事は、我が国の社会資本の浪費を少なくし、資本の蓄積を行うことが重要である。日本に比べて欧米の建物を長期活用する姿勢を参考にしなければならない」と述べられている。その通りを考える。

 

 財務省主税局の意見も聞いてみようと思い、霞が関に直接電話して聞いてみた。法定耐用年数の相談は「税制3課の法人税第1係の担当」(☎03-3581-2649)で、いきなりの電話にも関わらず実に丁寧に教えて頂いた。説明によると木造住宅の法定耐用年数は「減価償却資産の耐用年数」であり、昭和26年の開始当時の木造は「30年」だった。昭和41年に「24年」となり、平成10年に22年へと短縮されている。国は制度の改正前には関係者の意見を聞くとの事で、「短縮の希望が多かったから」と考えている。財務省の基準は「あくまでも税法上の計算基準で、建物の価値評価とは全く関係無い」との説明を受けたが、短期間化する事による節税効果を活用するために基準改定は行われて来た様だ。「金融機関が、法定耐用年数で住宅価値が減価するとの話とは別基準」との話を聞き、金融機関の「経過後の資産価値をゼロ評価する現状こそが問題」である事が理解できた。木造住宅の使用者や関係者が、何故対抗しないかの問題の様である。

 

 更に現在建築中の仙台市泉高森の木造10階建ての法定耐用年数設定方法の考え方も聞いた。「建物所有者が木造か、S造で登記するかで決まる。所有者が何の構造で登記するかである」との話だった。一般的には「主要構造材で『構造区分の登記』はされる例が多いから、今回は主要構造材が鉄骨だから「S造」となるのでは」と推測される。

 

 鹿児島市役所の資産税課にも木造住宅の課税方式も確認した。行政では新築情報を入手すると、課税評価担当者が現地確認し一定の評価基準額を決定する。高額分類の建物は25年、普通分類の建物は20年間で、当初評価額の20%まで減額評価した上で資産課税は決められる制度との事だ。残存価格が20%になったら固定の課税額として、その後も課税する制度で、もし100年間住み続けても、建物を除去処分するまで課税は続く事になる様だ。金融機関の担保価値ではゼロ評価となっても、建物の固定資産税は20%評価で払い続ける訳だが、この格差に市民から文句は出ていないそうだ。 尚 土地の課税評価は国土交通省が毎年発表する土地評価額を基準にして市民は税金を払っている。

 

 以上の話から「木造建物は法定耐用年数22年を経過すると、資産価値はゼロとなる」との話は、金融機関の融資基準や担保力の評価方法が影響している事がハッキリした。日本中の不動産業者も追随している事は誤解からであり、「日本人特有の勘違い」により、国民の多くが振り回されていると言うのが実情の様だ。

 要は、木造住宅の価値は「良い設計士に相談し、良い材料を使い合理的な構法で設計して、真面目で良質な工務店に建ててもらう。そして持主は財産価値を高めるために、自分の健康管理と同じ気持ちで維持管理に留意し、適切なメンテナンスを定期的に行う」ならば、「22年経過後も、資産価値はゼロになる事は無い」事を再認識するべきだ。最近、都会で問題となっている「築40年を経過したRC造の高層マンションが、使用に耐えられない状況となって、高額の補修費に困っている例」を多く聞くにつけ、リフォームを考えれば木造が断然有利な事は、多くの経験者が認める所である。

 

 日本人は、アメリカ人の木造住宅維持管理姿勢を学び、持家の木造住宅の財産価値を高めて、転売時に財産価値を高められる様に変身しなければならない。そして国民一人一人が考え方を変える事で、日本の総国家資産額の向上に責任を果たさなければならないと思う。

 (西園)