社内報「やまさ」平成9年8月号~11月号掲載
当時を振り返って(平成25年10月8日追記)
九州大学農学部の堤寿一先生には、当時よくお目にかかってご指導を受けていました。ご専門は木材理学ですが、そこから林業のあり方、材質を踏まえた育種、育林手法にも一家言を持っておられ、この面でも随分ご指導を受けました。
先生は若い頃ニュージーランドで学んだ時期があって、この国をこよなく愛しておられました。大学を定年でお辞めになってから、ある時ニュージーランドにいらっしゃると聞いて、是非是非一緒に連れていってくださいとお願いしてお許しをいただきました。尊敬するT部長、中村徳孫先生もお誘いして、堤先生のご案内でニュージーランドの林業、林材加工、研究の現場を見て回りました。
移動中の車内で、あるいは宿舎に帰ってからの先生の講義も含めて忘れられない有意義な視察、研修でした。
堤先生が留学中に滞在なさり、その後家族同然のお付き合いをしておられたM氏宅に民宿のような形で滞在した一週間は、こちらも忘れがたい思い出です。そのときのレポートです。
※堤寿一先生 元九州大学農学部教授。2005年9月逝去。73歳。
※中村徳孫先生 2011年逝去。
(代表取締役 佐々木幸久)
ニュージーランド視察旅行の実現
一昨年、FRIのディヴィッド・カウン博士が九州大学堤寿一教授(当時、現在同大学名誉教授)の御案内で来社され、その節ニュージーランドの革新的林業研究の実態をお聞きする。
その後堤先生とお会いした際、平成9年5月からニュージーランドにしばらく滞在する旨お聞きする。先生の滞在中に訪問すれば、何かと有意義に視察が出来るに違いないと考えお願いした所、快く御了解戴いた。
その後何人かの方々にお誘いし、結局中村徳孫先生と、鹿児島県の木材研究者T部長のお二人が、都合がついて同行されることになった。今回私自身も、会社と直接業務上の関わりがあるか無いか不明な事もあって、私費旅行としていたし、お二人も今回全くの自費による旅行である。何はともあれ、同国の事情に極めて詳しい堤先生のガイド付であり、木材加工技術での師であり、親しくして戴いているお二人が一緒に行って下さることは、実に心強いことだ。一足先にニュージーランドに渡られている堤先生からも電子メールを使って詳細な連絡を再々頂戴した。電子メールの便利さ、経済性に目を見張る思いがした。
ニュージーランドの気候
帰りは直行便であったが、約12時間、ちょうど赤道を境に6時間、6時間という感じか。私達が行ったのは北島であり、日本の感覚と逆だが、赤道に近い方が北であり、冬は当然北の方がしのぎ易いだろう。
いま真冬であり、寒さが心配であったが、案ずるほどの事はなく、持参のコートを着るのは夜外出するときと山間部に行くときくらいであった。滞在中ずっと、実にさわやかな晴天であったが、これは季節としては珍しいことであったらしく、行く前日まで嵐で、そして発った後が又すさまじい風雨だったとの事である。快適な旅を楽しむことが出来た幸運を感謝している。
旅の印象もこうした運に左右される部分も大きい。
ニュージーランドの物価
物価が安く、暮しやすい国という感じを受ける。ここ数年の急激な行政改革は確かに国民に戸惑いを与えているようだが、国民が求める暮らし易さを政府と社会が応えようとしていることが感じられる。
オークランドは元首都であり、同国第一の都市だが物価の安さを実感した事例を紹介する。ウォーターフロントのレストランでのこと。クッキーとミルクティー数杯の軽食をとり、しばらく休憩を取った料金が、4人分で5ドル(ニュージーランドドル、1ドルが約80円、以下同じ)である。
ニュージーランドの町並み
南北に細長い国で、気候も景色も相当な差があるらしい。例えば、ロトルアは火山の町で、あちこちで湯気が吹き出している。シャワーだけの生活の中、一日だけだったが温泉にも入った。
ヨーロッパの風景とアジアの風景を持っている。不思議な地名が方々にある。先住民族であるマオリの古名が生きている。
首都であるウェリントンの政府、議会の建物は呆れるばかりのしゃれたしかも実に壮大なビルディングだ。旧政府館はいまヴィクトリア大学の付属施設になっているが、木造ながら荘厳な雰囲気を持っている。
手元に”Wellington's OldBuildings”というウェリントン市内の古い建物を紹介した本がある。ヴィクトリア大学の建築の先生方がまとめたものだが古い(といっても京都当りと比べるべくもない、近代という感じだが)建物への愛情を感じる。都市部では古いヨーロッパスタイルの石造りや、木造の重厚な建物である。少し郊外に出ると、板塀のある木造住宅だ。
舗装はよくなされている。道路工事だけは何回か見かけた。人口と国土の広さから考えると国民一人当りでの負担は大変なものだろう。
木の電柱があり、又ガードレールや、柵が大半木製である。ラジアータパインは防腐剤の注入性能が高くて、防腐処理を施した木材は極めて耐久性に富む。様々な外部用途に数多く使われており、都市や町並みのやわらかさを印象づける大きなファクターになっている。日本はなぜ周囲からこんなに木材を締め出してしまったのだろう、ヨーロッパや、アメリカの街角で抱いた感想を再び持った。
旅行中の宿舎について
最初と最後がオークランド国際空港の近くのホテル「エアポートゲイトウェイホテル」ツインのシングルユースで1泊80ドル。
あと5日目のウェリントン市でモーテルに泊まったが、これは1泊90ドル。これがなかなかよろしい。
日本でモーテルと言うとある連想が自然と浮かぶが、前に広い駐車場があり、広々とした部屋で、厨房があり食器もあって、何日か滞在するに便利である。家族旅行に使うに最適と思われるまことに健全な施設だ。私達はシングルで使うというもったいないことをしたが、3、4人は泊まれる部屋であり、家族や友人と旅行される人にはおすすめである。
そのほかの3日間は、ニュージーランドでの家庭生活の経験も有益ではないかとの堤先生の御配慮で、ロトルア市、マクロード家に。
同家は堤先生が約20年前、1年間のFRIでの研究中、家族5人で1年間下宿していた所で、その後も家族ぐるみのお付き合いだ。御主人のMr.Lawrence A MacLeodはスコットランド人で、小学生の頃こちらへ渡ってきたと言う。経理の専門家としていくつかの企業で働き、今は奥さんと引退しているが、息子さんも大きなゴルフショップのオーナーとして成功、恵まれた生活を送っている。大柄で、なかなか親切なのだが、かなり辛らつなジョークを飛ばす。
奥さんは昔リッカーミシンのモデルをしていたとの事だが、少し口やかましいものの、なかなか世話好きで、料理も美味しかった。
趣味でという感じで、紹介者のある比較的短期の下宿屋をしている。FRIの近くなので、日本の研究者もかなりお世話になっているようで、知っている方々のお名前も出た。
食事について
食事はなかなか美味しかった。野菜なども豊富で、ヨーロッパで感じたそういう物への飢餓感はなかった。行きたかった生鮮食品の店にはなかなかぶつからず行き損ねたが、
レストランやテイクアウト(テイクアウェイと言っている)の店は安く、満足した。アジア系のレストラン(中華、タイ、マレーシア)も多く、私達には助かった。
ホテルのレストランでバイキング(スモーガスボード)の夕食を取ったが、ローストラムは切り分けてもらう。若いウェイトレスが愛想よく、たっぷり取ってくれる。遠慮しなければ、500グラムでもついでくれるだろう。やわらかくてなかなかうまい。もちろん他の料理も沢山あってこれで22ドルだ。
飲物もワイン、ビール安くて美味しい。ホテルのレストランで飲んでもワインは一瓶15ドルから25ドルで、日本のように財布の中身を勘定する必要はない。
それでも福岡空港で買って行った焼酎は重宝した。最初の日の夕方食事前に、中村先生の部屋に3人集まり、焼酎のお湯割をひとくち飲んで、顔を見合わせしみじみ「うまい」という声が出た。3日程は持たせたが、それ以後は地元のウィスキーのお湯割で代行し、満足した。
(「やまさ」平成9年8月号)
ラジアータパインについて
この樹種については従来日本での一般的な評価は高いとは言えない。中村先生もかつて広島の試験場に御勤務時代、この材が港に大量に陸揚げされ、材質試験にタッチされた経験から否定的な見解を持っておられた。ニュージーランドでのこの材の活況をかねて不思議に思っていたところ、現物に触れ、様々な使われ方を見る内に「こら考え直さないけんなぁ」とつぶやいておられた。
つまり構造材として使用してはいけない等級格付けの材を、値段が安いことから大量に輸入、そしてそれを一部(もしくは大部)を構造材として利用したが故に今にいたる不評を残しているようである。
ラジアータパインの特徴
堤先生ほかお一人の監修による、「ニュージーランドパインユーザーガイド」という日本語パンフレットがある(ニュージーランドパイン二次加工業協会、1996年刊)。
この約50ページの、あたかも機械や自動車のカタログのような分かりやすく、しかも必要な事はすべて網羅してある資料と、現地での見聞から、ラジアータパインのいくつかの特質をあげてみたい。
1)資源量
人工林は同国の総森林面積の10%以下で、約150万ヘクタールと比較的少ない(日本の約7%)。それにも関わらず、かなりの存在感があるのは、ラジアータパインの成長性であり、徹底した生産管理であろう。この国ではいま林業は投資利回りの最も高い産業の一つであり、現在年間7万ヘクタールの新規植林が行われている。30年以内に年間供給量6000万立法メートルに達すると予測されている。
2)成長性
約30年の伐期には樹高35メートル、1本当り平均材積2.5立方メートルにも達する。ヘクタール当り600立方メートル以上という驚異的な収穫である。さらに高利回りを求めて30年の伐期を26.27年と短縮化がはかられている。
なお特徴的なこととして植栽本数がわが国に比べ少なく、普通ヘクタール当り800本程度、少なければ600本、多くても1600本ということである。
わが国でも林業の採算性に加えて、利用面での現状と将来を分析し、いくつかのモデル化のもと、最適な植栽本数の調査研究の必要があるのではないか。
3)強度性能
私達木構造の仕事に携わっていると、強度の事が真っ先に気になる。このように成長の良い木材ならば、材質に懸念することは当然である。
天然の素材だから材質にばらつきがあるのは当然だが、ラジアータパインでは、特に利用上かなり厳しい条件づけをしている。すなわち中心から10年輪の部分が未成熟材であり、この部分は強度面、狂いなどでの欠点が多く、構造材に使ってはならない。この部分を除き、節その他の項目によりチェックし、さらに機械等級区分を行った材は、極めて信頼性が高い。年輪幅が広いことは、強度上殆ど影響がない。わが国の日本農林規格(JAS)でもラジアータパインについては他の樹種と別に規格を設けている。すなわちこの材に限って年輪幅の制限が緩やかであり、
逆に未成熟部である髄の部分の使用を制限している。
なお1970年代にラジアータパインに関するタスクフォースが作られ、材質改良の一大プロジェクトが行われた。それが現場の施業で活かされたのだが、20年以上経過し、その材が市場にぼちぼち出て来る時期であるという。材質の飛躍的な向上が期待されているとの事だ。
4)機械加工性
ラジアータパインの特徴として注目されるのは、晩材と早材の密度差が、他の材に比べて少ないことだ。
スギの性質を表現するとき、豆腐の中に鉄が入っているという(少し大げさだが)表現をされることがある。晩材と早材の密度の差が極めて大きいことのたとえだが、これは機械加工の点で影響がある。
密度の差が少ないとき、のこ、かんな、サンダーなどによる加工は大変しやすい。
5)保存性
材そのものは決して耐久性の高い材ではない。むしろ低い部類にはいるのだが、特筆すべき特徴として薬液の注入性が極めて高いことである。適切な防腐剤を注入することで、高い耐久性能を与えることが出来る。日本では最近旗色の悪いCCAが大半を占めていて、先述のように外部用として実に多く使用されている。
わが国ではしばらく前までは使用されていた電柱等での使用が、現在ではなぜ皆無と言って良いほどに無くなったのだろう。もし資源の点だけの理由であったら、現時点ではかなり充実してきているのだが。
視察1日目
マッキントッシュ集成材会社
(Macintosh Timber Laminates Limited )
オークランド空港から車で約20分、規模はそれほど大きくないが、私達がやっている仕事と共通する雰囲気の会社である。即ち製造はもちろんだが、設計から施工までを手掛けている。研究機関ともよく連携を取っており、私達が目指す「木材・木造施設のエンジニアリング会社」であるといってよい。FRIに2年間おられた京都大学の小松先生のお名前も、マッキントッシュ社長の口から出た。
手作りの設備、工具が多く、アイデアにうなるものがあった。創業以来40年の集成材のキャリアのある工場であり、さすがにその蓄積、中間技術ともいうべきノウハウに、教えられることが多かった。
たとえば天井クレーンのガイドレールや、集成材の圧締ラックに木材を使用していることに驚いた。7年前当社の工場を作るとき、私がしたかったにも関わらず、技術的に困難だということで実現できなかったことだからだ。
やはり木材で生きる木材のエンジニアリング会社として、鉄でできることを木材でも実現するという心意気と、そしてそれを支える技術が必要だ。それをやっている工場として面白く、共感を覚えた。
(「やまさ」平成9年9月号)
視察第2日目
今日からの宿の御主人であり、堤先生の永年の友人であるマクロード氏が、オークランドのホテルに迎えにきてくれた。彼の車でロトルアまで行こうという予定であった。車は三菱ギャラン、総員5人はちょっと窮屈だったが、気候もよく景色を楽しみながらの堤先生の車中集中講義は大変有意義だった。堤先生はかつてご家族でこちらにおられたので、ニュージーランドの事情に非常にくわしく友人も多い。彼らの合理的な思考、問題解決のためのシステマティックなアプローチの仕方に深い理解と、あわせて敬意と好意を持っておられるので、先生のお話が私達にも非常に得心がいく。
山の上まで牛、羊、まれに鹿の牧場がある。3時間半余り、快適なハイウェイなどを経由し、ロトルアへ入る。
途中不思議な光景を見た。わが国で言えば国道か県道に当たる幹線道路を、恐らくは百頭を超える牛の群れが歩いていて、そして私達の前で道路を横切った。そういえば先ほどから道端でプラカードを持った人が、車に注意(協力?)を呼びかけていた。車は牛がすべてわたり終るまでのかなりの時間をじっと待っている。到着2日目にまことに珍しい光景に出会った。最近ではこういうこともずいぶん減ってはきたらしい。
FRI(NEW ZEALAND FOREST RESEACH INSTITUTE)
ニュージーランド森林総合研究所
この研究所がニュージーランド林業、林産業の隆盛の基を築いたといって良いのではないか。以前からこの研究所はぜひ見学しておきたかった。以前ここの場長をしていたジョン・キニンモンス博士がずっと案内して下さった。
有名なニュージーランドの行政改革の中で、この研究所も大きな機構改革が行われた。今ではその運営費のうち、極めて基礎的な研究部分を国が委託し、その比率は約30%である、あと70%は民間の研究委託費により成り立っているという。従って産業界が必要とする研究テーマを不断に調査することはこの研究所にとって極めて重要な作業であるし、最初に説明してくれたハズレット氏も産業側のニーズということを力説していた。注目すべきは産業側が研究をビジネスのなかでメリットとして認めて、その恐らくは巨額の負担を負って、この研究所に委託しているということだ。
以前当社を訪問されたデヴィッド・カウン博士はこの部門の責任者Managerである(今回アメリカ出張で会えなかった)。
最初スライドでガイダンスをしてもらったが、加工研究部門の目的としてかかげてある一条に感銘を受けた。まことに簡潔に、明瞭にその役割が述べてある。
「木材加工(一次、二次)産業の国際的競争力を高めること」(後ろに原文引用)。
20、30分おきに次々と担当から担当へとてきぱき案内の引き継ぎが行われていく。恐らくかなり忙しいはずなのだが。堤先生の通訳がなければ話の内容は理解できないのだが、相手の親切と各担当との綿密なスケジュール調整が見事なのはよくわかる。
※参考 NZFRIの「木材加工研究部門の目的」原文
Wood Processing Division
Mission Statement
"To improve the international competitiveness of the
solid wood industry(primary and secondary) through knowledge of resource characteristics,development ofenvironmentally acceptablevallue-added processing technology transfer,and
consultancy".
視察3日目
今日の見学先は元国営の林業施設で、現在すでに民営化されている。山林及び施設がフレッチヤー社という一民間会社にすべて売却された。ただし国有林と言っても日本のそれほど巨大な規模ではない、もともと人工林が150万ha、その一部が国有林であるわけだから。とはいえニュージーランドの林業資本の力に驚く。
カインガロア
伐採現場の近くにある造材処理を行う現場で、いわば中間土場という役割を受け持つ。伐採された木材をここで皮剥ぎ、玉伐り、格付け、そして用材になりにくいものはそのままチップに、という作業をここで行う。見ている内に原木を満載したトレーラーが入って来る。伐倒した後枝打ちしただけの長尺材で32mから35mはあり、一本当り2m3から2.5m3あるという。これで27年生位だ。一台に目の子で3、40本積んできたものを、フォークリフトのおばけのような巨大な機械でこのトレーラーに満載した木材を一つかみでつかんでおろし、そのままコンベヤの投入口に押し込む。トラックが到着してからそこまででものの2分くらいのものだろう。そして先ほど述べた原木処理の工程が、次のトラックがくるまでにあらかた終っている。しかけの規模がけた違いに大きい。しかも流れに一つもよどみがない。働く人達も機械に負けずでかくて、そして猛烈に働いている。呆然としてしばらく眺めていた。どんな大量の注文がきてもどうにでもこなすだろう。
これだけの原木供給サイトがあって初めて製材工場も大規模化が出来るのだと考えた。
ラジアータパイン試験林
ラジアータパインの試験林であり、10種の品種のクローンが純粋保存されている。木材加工上の問題解決や、新しい商品を作るために、品種特性の研究が重要な解決のヒントになることがあり、その試験材がここから供給される。
ここの試験林は樹齢30年未満というが、その成長ぶりは感動ものだ。
もと国立試験場所属の試験林だったのだが、国有林の民営化の時、同時にここも売却された。日本であれば営利目的である民間に経営が移管されれば試験林としての機能を失うとの議論が出そうだが、そういう事にはなっていないようだ。そこに試験林としての価値があるのならば民営下でも十分にその様に扱われている、という事のようである。
後でみたレッドウッド(メタセコイア)の記念林さえも、その歴史的な役割を終っているのだが、これも同時に民営に移管されている。先述の国家的樹種選定の時期、この樹種も重要候補の一つとして植林、育てられてきた。見事な巨木がうっそうと茂った深山の静畢な雰囲気を保ち、都市近郊にあるすばらしい公園として、市民の安らぎの場となっている。
こういうニュージーランド林業の記念碑的な場所も売却する行政改革、そしてそれを買い取った会社が、恐らくは前にも増してそこの保存に意を用いる、という現状。何か不思議な思いがする。
わが国の議論でよくある民営化すれば云々、従って国営でなければいけないという様な議論は何なんだろう。
昼食は美しいレレホワカアイツ湖(LAKE Rerewhakaaitu)のほとりの自然公園で、研究所の方々の心尽しの弁当を戴いた。
ハムとチーズをはさんだパン、鶏手羽元の蒸したもの、スコーン、小粒のニュージーランドりんご、バナナ、オレンジジュースという献立で、バスケットの中から次々に出て来る。楽しいひとときだった。
フレッチャー社(Fletcer Challenge Forests)
元国有林所属の製材工場である。国としてラジアータパインを国の推奨木として行くことを決定した後、マーケット向けにラジアータパインの製品のデモのため、国が作った工場であるとの事だ。従ってここにはラジアータパインの使途の進歩の過程があるという。しかしそれらの役割はすべて終ったので、民営化されたということだ。
「ニュージーランドは原木が高い。従って加工の側で生産性を高めて、コストダウンをはかっていかなければならない。」
案内してくれた同工場のウェイン・ミラー氏の発言である。
ラジアータパインが高い!日本の常識ではラジアータパインは安いということになっているのだが。いったい幾らなのか。ようやく教えて戴いたのが次の通りである。
枝うち材 Pruned
無節(No Knots)
160~170NZ$
非枝うち材 Unpruned
節有り(Knotty)
90~100NZ$
小径材 Small Log
50NZ$
1NZ$が85円として、工場着値で無節材約14000円、中目材約8000円、小径木約4000円ということになる。この値段で工場側はやや不満げである。但し山の方は前述のようにこの価格で十分に利益をあげている。従っていま新規の植林熱が盛んであるという事になる。
この工場で日におおよそ800m3 、年間23万m3の生産量である。原木の値段は工場にとってやや不満かもしれないが、安定した価格で、必要な木材は必要なだけ、先ほどのカインガロアから供給される。原木供給の点に関しては心配ない。従って木材加工産業が近代産業資本として成り立ち、マーケティングと木材研究の成果に基づく商品展開、それにコストダウンなどの経営努力とあわせ、規模の利益を享受している。
なおこの工場では、10万m3をKD(人工乾燥)しており、4万m3は集成材、家具材、モールディング材(建築内装用材)などに二次加工されている。
この3日間シャワーのみの入浴だったが、この夜T部長と真っ暗に近いロトルアの街を歩いて温泉につかりに行った。ここロトルアは「硫黄の街」と呼ばれる温泉の街なのだ。ただし歓楽街らしきものは全くない。私達が行った「インドネシアン・スパ」という温泉も、200円くらいのお金を出して借りた水泳パンツをはいて入る、温水プールのようなものだった。白人系の男女が飛び込みをして盛んに泳いでいる。つかっているので日本人かと思っていると韓国の人々だろうか。
階段を降りて行くと一角に熱いお湯の入った日本の温泉に近いものがあって、T部長としみじみとつかったことだった。「入浴」後、3ドル(250円くらい)の生ビールを楽しんで10時すぎに帰った。
(「やまさ」平成9年11月号)