【連載】国産木材・林業との歩み(第二回)

国産材・林業の自立を促す

建材試験センター「建材試験情報」2012年10月号掲載


「我が国の森林」

 我が国は国土の67%が森林で、この森林率の高さはOECD30ヵ国のうちフィンランドやスウェーデンなどの林業大国にこれだけ多くの人々が暮らしていけるのも、森林が沢山の降雨を川や海にいたずらに流出させず、山に蓄えてくれるおかげです。

 ところが木材生産においては、未だに大量の木材を輸入しています。この点フィンランドやスウェーデンはもちろん、森林率30%のドイツでも、ほぼ完全に自給した上、輸出もしていて、林業が経済面でもかなりの貢献をしています。


国産材はどこで負けている?

 集成材がここ十数年、ヨーロッパから大量に輸入されています。またラミナを輸入して作る集成材も国内メーカーが量産しており、輸入集成材に対して強い競争力を保持しています。

 輸入材が大量に入っているということは、つまり国産材が負けている訳ですが、さてそれではどこで国産材が輸入材に負けているのでしょうか。国産材のラミナを使った集成材が、最近かなり善戦してはいるものの、シェアは低く劣勢は否めません。

 つまり国産材は「集成材を作るところ」で負けているのではなく、「ラミナ(国産材)を作るところ」、すなわち「林業+製材」で負けていることがわかります。

 

林業は儲からないのか

 以前某県の林業公社経営検討会で、会長になられたある大学(林学)の先生が、「(我が国)林業で利益が出ることはあり得ない」と、会議冒頭挨拶されました。このような「林業は儲からない=補助事業で全て面倒を見るべき」というような認識に基づく発言が、当時一部の林業界であったように思います。

 このことがあったあと平成16年に、九州内林業関係の産学官有志で、「儲かる林業研究会」※を設立しました。鹿児島大学の竹内教授が会長、同じく寺岡助教授(いずれも当時)が事務局、という陣容で発足しましたが、思いがけず多くの方々の共感と賛同を得て、大変活発に活動しました。

「林業はやりようで儲かる」こと、そのためには育林コストと素材生産コストを劇的に下げること、林業と加工は車の両輪であり連携し合うべきもので、片方だけが得したり損したりということがあってはならないなど、有効な具体策が提案・検討され、かなりの成果を上げました。さまざまな事情が重なり、完結できなかったのは残念でした。

 

資源の自立

 高度成長期には世界中から安くて良いものを調達し、実に効率的な生産システムを作り上げてきました。

 近年の我が国は消費生活を楽しむ恵まれた時代だったと思いますが、我が国二千数百年の歴史の中では異質の暮らしぶりであり、例外的期間だったと考えられます。ご飯よりもパンがおいしいから、手間が掛からないからといって、我が国古来の米作りを減らして小麦を輸入する、というのはどう考えても、何か異常です。また江戸時代に蓄積した自然素材(木,竹,わらなど)を利用する技術や生活様式は世界に冠たるものだったと思いますが、それをまさに捨て去るように短期間で素材の転換をしました。

 今や多くの国々と資源調達のバトルがあり、世界中から好きなものを好きなだけ調達できる時代は終ったと考えられます。我が国は基本的には資源小国で、自給できる資源項目は限られています。

 戦後強力に造成された森林は、問題を抱えながらも十分成長してきており、大量輸入をやむなくされた時代から、自給可能な状況になろうとしています。国産木材を建築や産業の資材やエネルギーにと無駄なく効率よく活用して、資源自立に近づけたいものです。

 自国資源である国産材を建築材料やエネルギー源として今後多用しようとする場合、輸入材や鉄、コンクリート、石油よりも不便で不利な点が出てきます。その不利や不便を克服して有用に使いこなすのがまさに技術であり研究であります。このような使命感に立脚すれば、研究機関の活動にもまた一本芯が通ってくるのではないかと思う次第です。

 

資源としての国産材

 都道府県別に森林率(図1)を見ると、最も少ない大阪、茨城、千葉などが31%、最も多い高知県は何と県土の84% が森林です。我が国の森林は、全国くまなく広く薄く満遍なく存在しています。

 国産材の材質について「スギは弱い」というのは定説ですが、樹齢が高まれば強度が高まることは前回述べました。ほかに「人工林カラマツは狂いやすい」と言われますが、これも樹齢が高まれば改善されると言えます。また加工段階でこの狂い易さは技術的に解決されているようです。

 「弱い」スギを「強く」する方法もいくつかあって、既に実用化されているものや、一日も早く実用化したい優れた技術もあるので、次回以降で述べます。

図1 都道府県別森林率
図1 都道府県別森林率


木材の用途

 木材はその価値に応じて,カスケード利用するべきだと言われています。前回で書いたように、我が国では近年木材の用途をほぼ住宅用(それも在来工法)に限定していました。その用途にそぐわないものはほとんど活用しないできたのです。

 ところで、むく材のみが自然素材であるという主張がありますが、集成材は林業に大変貢献しているのです。市場ではむく製品が取れる通直な良質丸太をA 材と呼び、曲り材などの丸太をB 材と呼んでいます。B 材はA 材の半分以下の価値で、チップにするか林内に放置することが多かったのですが、B 材から集成材のラミナ向け生産が始まるや否や、B 材の価値がA 材と同等近くにまで上り、林業関係者を驚かせました。

 さらに燃料(木質バイオマス)への活用が進むなど、良質材から低質材までのカスケード利用が進展すれば、伐採された木材の利用率が大幅に高まりますから、若干単価は安くても全体の林業所得は向上します。林業の概念が変化して、価格が安いのでやっていけないという思い込みから林業者が脱皮して活力を取り戻していければ,林業がいずれ地域経済に貢献するに至ると期待できます。


※参考「儲かる林業研究会」設立趣意書(平成16 年)

  1. 国産材が苦況にあることは異論がないところである。
  2. その解決のために、行政の最も主要な課題の一つとして「需要拡大」策が取られており、それなりに一定の効果が上がっている。
  3. しかしながら国産材が苦境にあるのは、数値などから見て「需要そのものが低迷している」のではなく、「輸入材の大量流入による価格の低迷」と、「シェア低下による売上げの低迷」とがより本質的な原因である。
  4. 何故「輸入材」、しかも丸太でなくて製品が、かくも大量にわが国に流入しているのか。それは素材製品の競争力の原点である「品質、価格、供給力」において、輸入材が国産材より上位にあるためである。
  5. ここでは最もわかりやすい価格の問題を取り上げよう。主要な輸入先が欧米であることから、低価格の原因が人件費(低賃金)でないことは確実である。
  6. 木製品のコストは、丸太代と加工費(製材費+乾燥費)から構成される。
  7. 製材機械の革命的な発展により、北欧を中心にここ10年、製材費の大幅な低減が実現している。北欧材がこの10 年わが国に大量に流入しているのは、この製材システム発展と同時並行である。このシステムを導入することで、国産木製品の価格競争力は大幅に前進するだろう。
  8. ただし、この製材システムが導入できるためにはかなりの量の丸太が供給されることが前提である。ヨーロッパでは丸太の出材システムが非常に良くできているのでこの製材システムが活用され、その普及とともに世界最強の競争力を確保した。
  9. 丸太は良材すなわち一定の径級以上の直材だけである必要はない。現在では切り捨て間伐されているような低質材、すなわち小径、曲がり材などが混じっていても十分に対応可能な、画期的製材システムが出来ている。
  10. 低質材でも対応可能とは言え、これだけの量の丸太を、ある一定の価格で安定的に調達するにはどうしたらよいかが、ひとつの大きなポイントになる。
  11. 現今の行財政事情から補助金の大幅な増額を期待してはならない。

(以下略)

(代表取締役 佐々木幸久)