建材試験センター「建材試験情報」2014年2月号掲載
昨秋10 月27 日から11 月3 日にかけて、ヨーロッパに行きました。私も所属員である国産材製材協会を呼びかけ人とする視察団で、視察団名が「欧州における木によるサステナブル戦略の視察ツアー」というユニークなものです。内容が「木造建築,製材産業,木質エネルギーの活用形態等を見る」と幅広く、さまざまな視察目的を持った人に対応できるようになっています。
同協会の所属協会員を含めて、参加者は北海道から鹿児島、宮崎まで、年代は20 歳代から70 歳代まで総勢17 名、いずれも大変向学心に満ちた方々でした。極めてハードなスケジュールながら、楽しくも誠に有意義な視察となりました。
以前の視察でヨーロッパでは省エネへの関心が極めて高く、建物の断熱レベルは我が国と比べて桁違いに高いことは承知していました。今回、改めてそのことを認識しました。原子力や化石エネルギーから自然エネルギーへの転換という方向性は間違いないのですが、実はもっと重要なことは、徹底した省エネルギーが先行するべきだということです。徹底した省エネが実現すれば、冷暖房に要するエネルギーは極めてわずかで済みます。
積雪1.5m という高地の村で、断熱の徹底、三層ガラス、二重ルーフ、日照の活用など省エネの行き着くところ、地熱利用と換気のみで、暖房エネルギーゼロを実現しているという事例がありました(オーストリア フォアアールベルク州ザンクト・ゲーロール村,写真1)。
オーストリア第2 の都市グラーツ市ヴェッツェルスドルフ( Wetzelsdorf)地区で建設中の新しい街で、建築中の集合住宅を見学することができました。
5階建てでメインの構造材料は、壁が14cm、床が18cm のCLT ですが、開口部の梁には構造用集成材も使われています。使用したCLTは4,500m3 だったとのことで、かなりの規模といってよいでしょう。
耐火に関しては、木材は耐火75分(日本流でいうと準耐火?)ということでした。その木材を耐火ボードで被覆している部分、していない部分があり、それぞれ半々くらいの感じです(写真2)。
写真3で分かるように,中央部の階段室は鉄筋コンクリート造りになっています。
なお外壁にはCLTの上に厚い断熱材( 30cmくらい?写真4)が直付けになっています。極めて高い断熱性能が確保され、冷房はなく、暖房と給湯のすべてを賄うのは地熱と太陽熱、それに5,000 リットルのバッファタンク(貯湯槽)のみです。このアクティブハウスと呼ばれる建物でのエネルギー消費は、ここで生産されるエネルギーより少ない、つまりエネルギー収支はプラス(エネルギー消費≦エネルギー生産)ということでした。
ちなみにこれで分譲価格は,90m2 のとき、3,500 〜4,000万円(1 ユーロ140 円として)だそうです。
これだけ徹底した省エネのためには、良質の断熱材が大量に必要になります。断熱材はその性格上比重が軽く、空気を運ぶようなもので、安価に入手するためにはなるべく近くで生産、供給されることが望ましく、今回の視察中に見た材料は、鉱物系あり、羊毛あり、セルロース系あり、発泡スチレンありと、その地域で入手しやすいものが使われるのでしょう。あれだけの量が使われるなら、安価での供給体制も整うと思います。
我が国でかつて高度成長期に、全国津々浦々に生コン工場ができたようなものでしょう。旺盛な需要があれば生産体制は整い、競争原理からコストは下がるのです。
これと反対の現象が、防腐・防蟻処理でしょう。我が国の処理費は海外に比べかなり高いと聞きますが、悪循環になっているように思います。費用が高いから、土台など限られた部分に使用する。さらには耐久性が高いと思われている樹種を使用することで,処理を免れることもあります。その結果、処理量は伸びず、コスト低減はさらに遠のくという悪循環にあるように見受けられます。木造建築の長寿命化を図るには、安価で良質の保存薬剤により家全体の木材の処理をすることが重要で、同時に処理量の増大により、コストの半減も可能になります。
今我が国では膨大な国民負担による自然エネルギー造成対策が行われつつありますが、併行して居住空間の省エネルギー対策も徹底して講じていかなければ、エネルギー対策としては片手落ちだろうと思います。
それには新築はもちろん、既存建物も徹底した省エネ対策を進めることが必要です。省エネの推進には良質の断熱材を安価に供給されることが不可欠です。そして安価な供給を可能にするにはかなりの量を使用することが欠かせません。この善循環を構築できれば、我が国のエネルギー問題は大いに進捗を見るように思います。
(代表取締役 佐々木幸久)