建材試験センター「建材試験情報」2015年1月号掲載
●この1年の大きな動き
この1年、木造建築について大きな動きがありました。平成25 年12 月に直交集成板(CLT)のJASが制定され、製造事業所等の認定の受け付けが開始されました。当社でも岡山の銘建工業(株)に続き、JAS認定を受けました。
そして平成26年5月には建築基準法の一部を改正する法律が成立しました。これは画期的なもので、木造建築に携わるものが永年心から望んでいたものです。まさにこの法改正により、国は「木造建築緩和」から、「木造建築推奨」へと政策の舵を切ったものと考えます。
改正法の木造建築関連では、3階建て以上の学校や、これまで厳格に規制されていた延べ床面積3000m2以上の大規模建築物を、一定の防火対策をした上で、木造で建てやすくすると定めています。
また現行基準では対応できない建築材料や新技術の導入を促進するため、一定の要件を満たせば、指定性能評価検査機関でもできるようにするという項目が入っています。かつて法38条が担っていたシステムが復活したものと一般的には受け止めてられているようです。
●CLTという新しい材料の登場
平成26年6月24日に閣議決定された『「日本再興戦略」改訂2014 −未来への挑戦−』を見ると、総ページ数130 ページの中の120 ページ目に、林業戦略4 項目の1 つとしてCLTが取り上げられています。
「新たな木材需要を生み出すため、国産材CLT(直交集成板)普及のスピードアップ等を図る。実証を踏まえ、2016年度早期を目途にCLTを用いた建築物の一般的な設計法を確立するとともに、国産材CLTの生産体制構築の取り組みを総合的に推進する。」
私は、これはCLTを代表とする木造建築に関する新しい技術開発を行い、国内で自給し得る数少ない資源、しかも循環型資源である木材活用を積極的に行うとの「木造建築推奨」宣言と解釈しました。
ちなみに、その林業戦略の内、CLT以外の3 つの項目は、豊富な森林資源の循環利用、木質バイオマス、林業の施業集約化を進めることが上げられています。
●緩和がもたらす技術進展
建築のように材料から構法まで、あらゆる面で法規制の徹底した業種では、規制緩和の動きが出ることで、業界は俄然活性化します。
昭和の終わり頃、日米間で「日米林産物協議」などの交渉があり、これまで厳しく制限されていた木造建築が緩和される方向が示されました。我が国の大型木造建築の先駆者であった三井木材工業(株)をはじめとして、それを追う数社のメーカー、そして全国的に様々なビジネスモデルのベンチャー的取り組みが話題に上りました。
建設業はまことに裾野の広い産業で、必然性があれば誰にも「チャンス」が有ります。当時まさに百花繚乱、「ブーム」到来と思われました。
大隅という全国でも有数の僻地にある当社が、この新しい技術・商品に取り組もうとしたのですから、まさに規制緩和のもたらす電磁波のような伝播力によるものでしょう。平成元年から社内検討を始め、業界情報や特別のネットワークもない中で、業界紙、専門誌、関係のありそうな専門書など、手に入るものをなるべく多く入手しました。
約1年の検討の結果、対象を「非住宅、大型建築」とし、「国産材使用+木材加工+建築技術」というコンセプトで、平成2年に事業準備をスタートしました。
時代のニーズに叶ったのか、十年余りにわたって事業は伸びました。当社だけではなく、全国でも多くのメーカーや建設会社が新しいマーケットの中で様々な取り組みをして、それぞれ成功や失敗を踏まえながらも全体としては大きな成長機運が出来たと思います。
●CLTをはじめとする新しい建築材料、技術
CLTを皮切りに、木材、建築関連業界全体に、再び新しい技術や商品を求める機運が出てきたように思われます。平成の初めの「大型木造建築の緩和」以来、久々の春の到来と期待が持てます。
私はチャンスがあって、平成12 年にオーストリアKLHを視察出来ました。この新しい建築材料に大きな刺激を受け、大型木造建築向け面材料としての大いなる可能性を感じて、視察の翌々年には製作できるようにしました。私の力不足で10年間何も出来ませんでしたが、やっと時代の方が動いてくれ、日の目を見ることが出来そうなのは欣快の至りです。
CLT構法のみでなく、木造軸組構法+ CLTの壁・床という使い方にも魅力を感じます。また、福岡大学工学部 稲田達夫教授のご指導の下、鋼構造軸組+ CLTの床という利用方法についても、可能性が高いものと考えています。
そのほかにも、鹿児島大学工学部 塩屋晋一教授のご指導の下、SAMURAI集成材(鉄筋補強集成材:樹種スギ)の実用化に取り組んでいます。
お二人の先生以外にも、多くの方々のご指導、ご支援を戴きながら、木材利用についての新しい可能性を求めて技術開発に取り組んでいます。
(代表取締役 佐々木幸久)