【新春対談】林経新聞 新年特別新聞

国産材時代における木材利用拡大への道(3)

「林経新聞」2020年(令和2年)1月2日(木)の記事を分割掲載しています。

その(1)その(2)はこちら


― 鋼材と集成材とを組み合わせた材料の話がありましたが、現在盛んに言われている「都市の木造・木質化」という点で、これから利用が増える構法、材料だと思いますが。 

佐々木 「鉄筋コンクリート」に対して「鉄筋集成材」あるいは「鉄筋木材」と呼んでいますが、ヤング率で8倍を目指しています。それは梁背(はりせい)がちょうど半分になるということです。現状で1メートルの梁背が必要な木造5階建ての場合、各階50センチの梁背の計5メートルの半分の2.5メートルで済む計算になり、建築空間も広がります。

 もう少し木造の防火規制基準が緩和されてからの話ですが、5階建て程度の木造ビルが実現していけば、膨大な需要が生まれると思います。ただ現段階では建築基準法の指定材料に入っていませんので、告示などの変更が必要です。それが実現すれば運送費も加工賃も半分になりますのでRC造と比較しても非常に競争力が出てくるでしょう。

 今まで木造では思いも及ばなかった建築物が、木造で実現できることは大きいと思います。これを「まがいもの」と言われたら困りますが、鉄筋コンクリート造も鉄筋とコンクリートを併用して性能が出るわけですから、木材でも並材を利用して、それだけの性能を出せるということであれば、組み合わせて利用することも選択肢になるかと思います。

 CLTでも木造建築物の中で利用するパターンと、鉄筋コンクリート造の中で部材として利用するパターンと二通りありますが、私のところでは今、鉄骨ビルの中の床や壁にCLTを利用することを進めています。これは今までになかった新しい用途です。非住宅建築物で木造は現在1割程度のシェアですから、残る9割近い鉄筋・鉄骨ビルの一部に木材が利用されるということになるわけで、大きな意味を持ちます。無理して木造を追及することなく需要を拡大できます。

 いくつか問題はあります。第1にコスト。CLTが高いという声もありますが、何よりも接合金物が高いのです。コストの3分の1程度を占めることもあります。次に耐火被覆です。接合や耐火被覆のコストは林野庁の補助を受けた事業で研究が進んでいますし、われわれも技術的な削減努力を続けています。

 


人材育成が急務 コスト面も改善点

本郷 林野庁でもこれまで広い範囲で木材利用拡大に努めていますが、継続して成果を挙げていきたいと思っています。建築時に木材を量的に利用できるようになってきたのですが、課題は設計できる人が少ないということですね。建築士の方にもっと木材の性能や部材としての使い方などを伝えないといけません。大学などの教育の場で教えるというのも必要ですね。

 コストの問題は今後の努力で改善されていくと思いますが、接合金物のコストは大きいですね。需要が増えればコストダウンにつながるでしょうが、改善すべき点でしょうね。

佐々木 耐火被覆がCLTの倍くらいのコストがかかる点もありますが、木造建築物の階数制限の緩和対策として耐火性能のみでなく、スプリンクラーの効果も加味できるような施策も必要との意見をよく聞きます。施工に関しては、設計の意図を現場で十分に生かすことが必要です。木ができる可能性があります。施工者のレベルアップが必要です。

本郷 木造で建設する時、留意しなければならないのは人のコストですね。他構造の建築物と競争する場合、乗り越えなければならない課題でしょう。施工の標準化も必要でしょうが、佐々木さんが言われたように木材は決して安定した材料ではないので、現場でそれが分からないと施工が難しいのです。この分野の人材を育てることが大切です。ゼネコンなどにそうした人材を育ててもらう仕組みをつくらなければと思います。都市部をはじめとして建築物の木造・木質化の取り組みが進むよう、施主と建設する側、木材の供給側が「ウッドチェンジネットワーク」をつくっていくべきでしょう。

 

― 都市の木造・木質化に向けて課題がいろいろありますね。 

本郷 施主の方々をどう変えられるかということでしょうね。木造で建てると言ってくれれば話は早いのですが、そこに至るまでにこれまで話した設計・施工で面倒という問題や、やったことがない、木が分かる人がいないということなどで止まってしまいます。

 「木材を使おうよ」と川下の人が意識が変わるよう、施策面でも考えないといけません。最近は経済団体などからもいろいろな提案をいただいていますが、実際にご自身の会社の本社ビルを木造で発注することにはなかなか結びつかないのが現実です。かなり環境は変わってきましたが、まだ本気で木造に取り掛かる状況にはなっていません。

佐々木 欧米にあるような10階建て、15階建ての木造ビルを建てるのは、地震大国ですから難しい面もあります。それならば床とか壁にCLT、内装に木材を利用すれば大きな需要が生まれます。

本郷 内装に木材を使うのは大きいですね。先ほど、良い木を育ててきた山元の方にもっと使われる努力をと言いましたが、年輪幅がそろっているなど特長のある美しい木材を内装で使ってもらえれば、利益も生まれます。ツキ板やフローリングなど使い道は多様でしょう。

佐々木 30年以上前に自宅を建てた時、どこまで木材が使えるか試してみました。坪50万円、50坪で2500万円。結果、40%にあたる1000万円の木材を使いました。普通は10%くらいですが、可能な範囲で木材を利用しました。当時は坪45万円ほどが相場でしたから、1割近く高くなりました。ですから、住宅の建設数が3分の1になっても、使う木材量が4倍になれば現在と同等の需要はまかなえるということです。その点でも内装の需要は重要でしょう。

 広葉樹資源も育っているので、これを製品化できないかと思っています。

 


意欲が湧く林業 もうける林業へ

― 最後に新年への思いをお聞かせください。 

本郷 私は林業として成り立たなかったような山に、持続的林業が成り立つようになってほしいと考えています。再造林を行うコストが出るような利益を挙げ、意欲が湧く林業となるよう、施策を進めていきたいと思っています。

佐々木 日集協としては大断面集成材の需要が期待に反して伸び悩んでいるのが現状ですから、それをもう少し伸びるように模索したいと考えます。個人的には19年、当社の社長から会長という立場になり、少し時間も取れるようになりました。林業には大きな関心があって、これまで10回ほど海外の林業も視察しました。木材加工や林業について整理してまとめたいと思っています。民間の立場から、長官がおっしゃる、もうける林業について考えてみたいと思っています。

― ありがとうございました。 

(おわり)


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