「南日本新聞」平成16年(2004年)11月22日掲載
10月下旬から11月上旬にかけて約二週間ドイツ、フィンランドの林業、木材工業の視察に出かけた。後半のフィンランドは自社の製材事業の将来性について模索する必要があって、製材を中心に社内関係者で視察した。
一方、ドイツについてはこれとは別に国産材の位置づけを研究したい林業研究者など四人での視察だった。それぞれの関心から視察先は多岐にわたった。わが国でも名高い「黒い森」周辺、シュバルトバルト、フライブルグ近郊の個人林業家から森林組合、製材、研究所、住宅会社さらには超省エネ共同住宅の「パッシブハウス」にまで視察は及んだ。
豊かな生活の中で産業としての林業が成立している背景。わが国の実態とはかけ離れているが、考えれば当たり前の、やるべきことが当然に行われていることを確認した旅だった。
端的に言えば研究者、行政、森林組合、山主などその任に当たっている人が、その果たすべき本質的役割をきちんと果たしているということである。
森林組合の事務局長との話も刺激的だった。「私たちの運営は森林所有者である組合員の出すお金のみで賄われており、組合員の役に立つよう全力を尽くしている。森林に景観、保養、環境など林業以外の多面的役割を要求する動きもあるが、それは私たちの仕事ではない。林業が活発であれば、おのずと森は社会の役にたつのではないか」ときっぱり言った。
この組合では3700人の組合員の所有する7万6千ヘクタールの森林から毎年安定的に(つまり択伐により)出材される約30万立方メートルの木材を取り扱っている。その手数料は1立方メートルあたり平均100円、総額おおむね3千万円か。これが年間の組合運営費で、数人のスタッフが組合員のために働いている。
顧客(彼の言葉で「カスタマー」)である製材工場との価格交渉、そして先方から要請されている納入数量の取りまとめを行う。よりよい顧客を求めて、新しい顧客の開拓も行う。その日の午後も新しい取引先との交渉だと言っていた。そのほか、丸太のより合理的な配送手配(ロジスティックス)も組合員への重要なサービスの一つである。組合のサービスに対する組合員の評価は極めて高いそうだ。
これとは別に、州の森林局、出先の営林事務所があって、州有林の運営と民有林の指導を行っている。森林官(フォレスター)は林業、流通の専門家であり、徹底して現場主義でまた生涯その職にある。森林所有者は十年に一度施業計画書の提出を義務づけられている。それに基づき、現場に密着した突っ込んだ指導をしているようだ。無料の一般指導と、希望によっては有料のマーケティング、販売斡旋も行う。これらのサービスについては有能な森林組合と競合することもある。これらの営々たる取り組みの中で、着実に国内産業としての林業を実現している。
この旅から帰って三日目の11月7日、前からの約束で鹿児島大学で林学の先生方とお会いした。わが国林業では研究と現場の乖離が大きいとの定評がある。私はこの二週間にわたり、目の当たりにした海外の事情を率直にお話した。そして産学官による「もうかる林業研究会」発足を提案した。
国産材の最大課題である「国際競争力のある国産材の確立」実現のため、現場で汗をかいている者たちとともに取り組んでいただけないか。今輸入材に対し一方的に劣勢にある国産材の挽回は十分可能であることの、私なりの論証も申し上げた。
先生方にもかねてそのお考えがあったようで、思いがけずも強く熱い賛同を得られた。これは誠に心強いことで、普通の林業先進国では大学や林業研究所が林業革新の先導役を果たしている。
「産・官・学」の連携は産業界で成果を上げている。公益性の高い森林は、私有財産ながら一種の公共財の側面を持つ。林業はその公共財に立脚するだけに、林業の改革には行政の関与が一般の産業の場合以上に不可欠である。
選挙期間中、林業の革新のためには「森林の一元管理が必要」と明快な処方せんを示された伊藤知事の誕生は非常に心強い。
民間林業者や森林組合はもちろんだが林業試験場を含む行政や、県内森林の四分の一を占める国有林の協力・参画も必要だろう。ビジョンと目標を明確にして取り組み、国産材が国内産業として確かな存在感を示せるレベルを目指したい。
(代表取締役 佐々木幸久)