「木材工業」1997年(平成9年)11月号「特集:スギ・ルネサンス」より
1.大断面集成材への取り組み
当社は昭和23年製材業よりスタート、以後建設、住宅、家具販売などの事業もグループ会社として、併せて行っている。平成元年から、この中の木材会社の活性化のために、集成材事業を行うことを計画した。造作用集成材から取り組むことも考えられたが、南九州は優秀な集成材工場が多く、後発としては事業化が厳しいと予測された。
一方、大断面集成材については宮崎のM社が全国的な先発会社として実績を持っていたが、当時事情で休止しておられた。大断面集成材事業はまだまだ全国的に揺らん期にあったとはいえ、九州は珍しくこの分野の空白地帯であった。
当時グループは建設業の実績も地域では比較的信頼の高い方であり、木材加工と建設の両面の経営資源を要すると見られる大断面集成材(木造建築)の事業は、多大な困難を伴うことは予想されたものの、当社の新しい事業として適当と考えられた。
その後、幸いに良き指導者(宮崎大学中村徳孫名誉教授)を得て、集成材を含めた木材加工の勉強を続け、かつ担当者に木造建築の勉強をさせた。ようやく事業を行う決断がついたが、工場着工までの先行勉強期間が1年余あったので、当社工場の数棟の建物は設計、製造、建設共に、各方面の指導を受けながらではあったが、時間もかけて自社内で取り組むことが出来た。この時蓄積したノウハウが大きい。
当時、大断面集成材のJASの認証は、造作用、構造用の認証を得たあと申請するよう指導を受けていたので、この3つの認証取得のための作業量は膨大なものだった。
平成3年、構造用集成材のJASの認証を樹種スギで得、大断面集成材については当初ベイマツで受け、その後スギの安定度試験を受け、追加してもらった。以来苦心しながら九州地区を中心に実績を積み、今に至っている。
今年2月に木造専門の設計事務所「ウッディスト・プラン」を設立した(ウッディストはWoodist、Woodestからきている)。
今後より合理的な木材の使い方、よい木造建築のための研鑽を積みたい。
2.各地の木造建築への取り組み
各県の自治体で県産スギ指定の建物が出来ている。九州地区は各県とも熱心で、当社の関係分だけでも、これまでに大小40件位(民間を含む)になっているのではないか。県産材による、一般県民および林業木材業関係者に与えるプラス面の影響は大きい。
鹿児島県ではここ数年、独自の制度を採用、木造建築の振興を図っている。木造建築を計画している県下の自治体が県産材を使用すれば、年間2、3件ではあるが、かなりの額の補助を出すのである。補助は県の単独予算であるから事業費の内、国庫補助外の自治体負担分に充当できる。建物の規模にもよるが、時に自治体負担分の5割に近いこともあり、自主財源に苦しんでいる自治体にとって大きなメリットがある。県としてはその時々で林業行政の目玉になるようなテーマを挙げて呼びかけ、それに応募するプロジェクトの中から相応しいものを選ぶ形を取っている。建築を担当する部署の担当者の木造への認識を高めるのに大いに貢献している事業である。
3.最近の施工事例とその内容
直近のスギ大型物件として次の2件がある。
・大分県林業会館
大分県大分市(大分県森林組合連合会発注)
・平成の森整備事業木造車道橋「杉の木橋」
宮崎県小林市(宮崎県林務部発注)
双方とも県産材の使用をすることが条件であった。大分の場合同県の木材会社の尽力で優良材を入手、現場建て込みを無事終了した。
木材同士の接合に、大分県内で開発された金物と接着剤を併用する独自の接合工法が指定されており、当社もこの工法による施工は初めての経験であった。出来上がった建物は金物が表に出ず、きれいな仕上がりである。
あらかじめ孔をあけ、指定の中空の金物を配置しておく。組み立て後、垂直水平を十分確認、倒壊せぬよう支保工やベルトなどで十分な仮設を施してから、接着剤を漏れなく注入する。3階建ての建物としてはここまでが中々の作業である。
施工時期が厳冬であり、接着剤の硬化に不安があった。十分な硬化をしない内に、支保工を外せば構造体に致命的な欠陥を招来しかねない。工期の迫ったなかで、支保工と仮設をいつ解体するか、ぎりぎりの判断をする必要があると思われた。そこで当社は簡易の試験機を作り、規地で同一条件の中でテストピースを作り、試験し、自立できる程度の強度が発現してから支保工を解体することを提案、了承された。すなわち工事に用いると同等の集成材を用い、T字型に組み合わせ、所定の金物と接着剤を充填したものを試験体としてこれを数体作り、現場で建物と同じ条件で養生、一定期間ごとに一体ずつ、先述の試験機で引き抜き試験をして接着剤の硬化具合いを調べるというものである。結果として冬季には接着剤の硬化にかなりの時間を要することがわかった。
宮崎県の木橋「杉の木橋」では使用したスギ集成材が約250m3、この製造のために1000m3の原木が必要と思われた。設計は旧JASでいうスギ2級であったが、25トンの車道橋であり、かつ支間長が36メートルあり、入念な施工はもちろん、原材料も質の高い木材であることが必要と思われた。
幸い県の英断により80年生の県有林スギ材を処分され、質の高いスギ原木が短期間に、かつ比較的安価に入手できた。このプロジェクトの歳のデータを第1図と第2図に示す。
4.今後の展望
現在スギ集成材は基本的には、注文があったとき、その寸法に合わせて適寸の原木を調達、製材を行うという、原木からスタートする受注生産になっている。このことが極めて効率が悪く、その結果コスト増と納期の長期化を招き、使用する場を狭めている。
従って今後の課題としては、スギ集成材断面寸法の標準化、スギ集成材仕様書の作成普及を図る必要がある。また良質のスギラミナを供給する組織作りも考慮されてよい。
またこうして構造用集成材が標準化されたならば、併せてその建物に付随する壁や天井、床などもコーディネートを図り、スギを上手に利用できるよう、デザイン面、加工面で取り組むべきだろう。たとえば材質面でどうしても構造用に使えない材料も出てくる。それを使って大断面集成材を用いる木造建築にふさわしい建材を工夫している必要がある。
またこれだけ全国各地に公共の建物が普及すれば、次には必ず民間の商業施設などに応用されていかなければならない。設計、デザイン、コストなど課題は多いが、それは大断面集成材の事業に従事するものの将来像としてクリアすべき事だろう。
(佐々木 幸久)