今回は、内之浦宇宙空間観測所の南北に隣接する集落に残されている建築物を見てきました。
この建物はロケット打ち上げ時の住民の避難施設、いわゆる「シェルター」です。
現在は、警戒区域外への避難が行われているため、シェルターとしては使われなくなりました。
南隣の長坪集落にある保安退避室(1966年)は、大きな三角おにぎり(失礼、詳しい方に尋ねたところ、この形はルーローの三角形とのこと)を5~6個くっつけて並べたような外観です。
鉄筋コンクリート、現場打ち。球面に四角い小窓。どんな図面で、どんな型枠を使ったのでしょう?しかも、山間の小径しかない狭い土地に。
1ユニットの頂点の高さは4mくらい、正三角形に近いので斜辺、底辺の長さも同程度です。右の空洞が正面入口、真裏にトイレと裏口が設けてあります。
ドアの寸法は2200mm×860mm。観測所内のドアと同じサイズ、同じデザインです。小さな集落にあってもインターナショナルな施設として建てられていることを感じさせます。
ちなみに建物表面の質感はザラリとして、動物園で見たサイかゾウの肌を思わせるものでした。
一つ一つのユニットは内部ではアーチ形の梁で繋がっており、そこには柔らくゆったりとした空間が広がっています。また、各ユニットの天井がドームになっているので圧迫感はまったく感じられません。この「SHELTER」に入って打ち上げを待った人びとは、避難するという緊張感ではなく、きっと緩やかな気持ちでカウントダウンの声を聞いていたのではないでしょうか。
一方、観測所の北に接する川原瀬集落には全く形の違うシェルターが作られました(1971年)。
回転軸の中心から一辺の先端までの長さは4160mm。一番高い屋根の高さは4m程度です。出入り口と窓は手前と裏手の2箇所。
長坪SHELTERと比べるとかなりコンパクトになっています。集落道路の法面下ぎりぎりの小さなスペースに、まさに置くように作られたこの建物は、なんとプレキャストコンクリートブロックの組み上げ。
2つの回転軸を持ったことにより、硬い構造物でありながら柔らかく動く感じがします。伊勢エビの外殻のような動きにも似ています。
こちらは残念ながら内部を見ることはできませんでしたが、2方向から螺旋状にせり上がっていく天井は一見の価値がありそうです。
内之浦宇宙空間観測所には、故 池邊 陽(イケベ キヨシ)教授を中心とする東京大学生産技術研究所により、1960年代、建築としては70棟近くに及ぶシリーズが形成されました。
多くは建築後半世紀を経て、屋根や壁に改修工事が施されているものの、今なお宇宙観測の現場で使用されています。しかもその改修設計にも、「ひとつひとつの建物に対するデザインやコンセプトをそのまま留めたい。」という思いが強く現れているように感じます。このことは、50年という年月を経過したとしても、池邊教授の建築デザインに関する意志が、色褪せることのないものであったことを物語っているのではないでしょうか。
池邊教授は、その著『デザインの鍵 -人間・建築・方法-』の中で
「建築が目に見え、あるいは人間がそれに触れることができるということから、単なる建築を人間が必要としたという以外の多くの対話がそこに始まるといってよい。その対話は、多くの場合に、その建築に人間が集合するという変化を生み出す。」(P3)
と述べられています。
肝付町のJAXA内之浦宇宙空間観測所に、このような建築物群があることをもっと知ってもらい、訪れた人びとが実際に触れて入れるような仕組みの中で、多くの人が集まり、宇宙や建築のことやいろいろな対話できるようになれば、こんな楽しいことはないような気がします。
宇宙編・完(M田)
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