森昌子が「ヒュルリー、ヒュルリララー」と情感をこめて歌った「越冬つばめ」。テレビの前で裏声を絞り出しながら口ずさんだムキも多いことでしょう。季節にそむいたために冬の寒さに凍えてしまいそうなはかなさがせつせつと伝わってきて、思わず「大丈夫ですかぁっ?」と声をかけたくなるほどです。
ツバメは、春先3月半ばころに南の国から日本列島に渡ってきて、夏中に子育てをし、秋にはまた南の国へ帰っていく夏鳥です。おおかたは冬を待たずに姿を見せなくなるのですが、本州以南では少数が越冬するそうです。こちら肝付、鹿屋あたりでも真冬に見かけるようになりました。しかしながら、この越冬ツバメたちがどこをねぐらにしているのかは、M田研究不足で知りませんでした。
2月の半ば頃、いつものように西平石油店高山スタンドで会社の車に給油をお願いしていると、メンテナンスピットに飛び入るツバメを何羽か見かけました。「もう、渡ってきたのかな」とも思いましたが、時季としては早すぎます。店のスタッフさんに聞いてみると何年か前から数十羽がピットで冬を越すようになり、ここ2年は150羽を超えているとのこと。なんと、いつも来ているガソリンスタンドが越冬ツバメたちのねぐらのひとつだったというわけです。
ツバメは、昔から農業では害虫を餌とすることから益鳥として大事にされてきましたが、現在では糞の問題とかで、軒先に営巣されるのを嫌がるひとも多いですし、そもそもこのお仕事では車を汚したりすることもあるはずです。それなのに追い出さないのはなーんでか。実はここの社長の深い思い入れに理由がありました。
曰く、「ここに来る一羽いちわに名前を付けたいくらいツバメが大好きなのよ。だから鳩は追っ払ってもツバメは大切に扱うように言っている。天皇陛下もお召しになる最高の礼服を燕尾服というようにとても縁起の良い鳥。迷惑などとは全く思っていない。数が増えてくれるのをとても楽しみしている。」とのこと。恐れ入りました。
ツバメは人に最も近いところに営巣する鳥です。それはかれらの天敵であるカラスから雛を守るためだと言われています。それにしても、このお店では昼間も店員さんたちが働いており、さらには、自動車の出入りも激しいピットです。社長もさることながら、従業員のみなさんも温かく見守っているからこそ、何年も前から居付き、年を経るたびに数を増やしたのだろうと思います。
「夕方になれば、帰ってくるから待ってれば。」と店長さん。日没後、ツバメたちは餌場からこの店の上空に集まって旋回を繰り返し、薄暗くなる6時過ぎには小集団ごとにねぐらに入ってくると言う。見上げれば、エネオスの看板のうえには50羽を超えるツバメが舞っていました。
落ち着いた頃ピットの中をのぞくと、蛍光灯の笠のうえや壁に40箇近い巣が作られており、その中や鉄骨の上あたりに200羽を超えるツバメたちが肩を寄せ合っています。夜にはシャッターがおろされて翌朝まで、凍えるような冷たい風も、恐ろしい猫も入ってはきません。まさに、ここは越冬ツバメのパラダイスなのです。
このブログが配信される頃、鹿児島には南の国から越冬しなかったツバメたちが渡ってきています。その頃から秋まで、このパラダイスは入れ替わり立ち替わりの賑やかな様相を見せてくれることでしょう。
ちなみに、ツバメのさえずりは、力強い声で「虫食って、土食って、渋―い」と聞きなし(※)されるそうです。
(次こそ花かな M田)
(※)聞きなし・・・鳥のさえずりを意味のある人の言葉やフレーズに当てはめて憶えやすくしたもの
ご協力:株式会社鹿屋西平石油店様
参考文献:平凡社『日本の野鳥650』
偕成社『ツバメ観察事典』
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