M田のぶらり旅・さつまの国「牧園町 ラムネ温泉 千寿の里で龍馬をおもう」

第5回 霧島市牧園町 ラムネ温泉 千寿の里で龍馬をおもう

 鹿児島県内には温泉が多い。錦江湾岸、薩摩半島、霧島から北薩摩、大隅半島、離島まで、温泉と名のつく入浴施設がない町があるのだろうか。指宿温泉や霧島温泉のような収容人数の大きな温泉旅館から、集落でよりあって運営しているようなところまで多種多様な「温泉」に行く先々でお目にかかれる。

 そもそも錦江湾が巨大なカルデラだというのだから、そのまわりに温泉が湧くのは不思議ではないのだが、実際の数はどれくらいだろうか。

 調べてみると環境省のデータでは、源泉数は2,745、42℃以上の高温源泉が1,806もある。利用されている源泉でみると1,198。国内では大分県に次ぐ源泉数を誇っているという結果だ。まったく実態が予想を上まわってしまった。(環境省自然環境整備課温泉地保護利用推進室 令和3年度温泉利用状況より抜粋)

 そんなわけで、薩摩の国では、犬も歩けば棒に当たる前に温泉に当たるようだ。今後とも有名無名にとらわれず、個人的に気に入っているか、気になっている温泉を取り上げていくことにしようと思っている。

 

 国道223号線は、宮崎県小林市から霧島市まで、霧島山の南麓に沿っていくつもの温泉地をめぐりながら蛇行して南下している。国立公園の森や渓谷を左右に見ながらその道を走れば、四季折々の美しい風景と温泉を楽しむことができるだろう。道筋は、鹿児島県側領域はすべて霧島市で、かつ旧牧園町内を通過している。国道沿いのランドマークとして、2021年3月に完成した霧島市役所牧園総合支所をご紹介したい。

 

左が国道223号線 中央に牧園総合支所
左が国道223号線 中央に牧園総合支所
建設途中
建設途中

 

 集成材とCLTパネルを使った木構造平屋建ての落ち着いた庁舎である。杉構造材の製造と建て方を弊社で施工させていただいた。室内には杉材の表しが多く、この町の自然と調和するように、来訪者を暖かなイメージで迎え入れる建物となっている。

 ここから北に上ると霧島温泉郷へ、南に下ると妙見温泉を経て旧国分市街地へと向かうことになる。

 

 話は幕末に飛ぶ。1866年春、坂本龍馬が新婚の妻お龍とともに京都から鹿児島を訪れている。寺田屋事件で負った手傷の湯治が主な目的だったが、西郷隆盛と小松帯刀に奨められたこともきっかけとなったようだ。大阪から鹿児島まで、薩摩藩の蒸気船「三邦丸」に西郷、小松も一緒に乗船しているから、警護付きのVIP待遇だったにちがいない。

 龍馬夫婦が旧暦3月16日から4月11日まで、塩浸温泉、硫黄谷温泉、栄之尾温泉など牧園に現存する温泉場で過ごした記録が残っている。よほど気に入ったとみえて、塩浸温泉には合わせて18泊もしている。この旅が、日本の新婚旅行第一号といわれていることをご存じの方も多いだろう。

 塩浸温泉は、牧園総合支所から南へ3kmほど下った川沿いにある。2010年に「塩浸温泉龍馬公園」として改称・改装され、資料館もあり、龍馬とお龍の銅像も建っている。大河ドラマでも紹介されたので、いつ通っても観光客で賑わっているようだ。資料館には、龍馬が姉の乙女に宛てた書状などが展示してあるので、じっくり読んでみるのもおもしろい。

 温泉棟もあるが、残念ながら、あのころ龍馬夫妻がはいった湯治場のイメージとは、かなりかけ離れた印象を受けてしまう。

 

 

 さて、ここから国道223号線を牧園総合支所方向に1㎞ほどあがった右手に「ラムネ温泉 仙寿の里」の電光看板が立っている。気にはなっていたが、訪れたことはなかった。看板から200mほど細い坂道を行った先に駐車場と建屋が現れる。遊歩道を廻らせた緑豊かな広大な敷地に温泉棟と家族風呂、宿泊棟が建てられている。

 受付をすませて、温泉棟に向かうと飲泉のための四阿があって、コップなども用意されているから、まずはここで水分補給をしておこう。炭酸水素イオンがたっぷり含まれているお湯は飲んだあと口がすっきりと感じる。硫黄臭さなどはもちろんない。

 効能書きによると飲用は、つい暴飲暴食がすぎて、胸焼けやγGTPを気にしがちなこの身体にぴったりあっているようだ。ただし、有効成分が飲みすぎないようにと注意書きがついている。過ぎたるは及ばざるがごとしか。

 

 

 温泉棟の正面に「仙寿の湯」と効能書き、男湯の入り口が案内されている。浴用は老人性の諸症状から切り傷ややけどにもいいらしい、これはからだの内と外から健康になりそうである。

 

 

 建屋の中に入ると、桁と梁が丸柱で支えられた浴室は素晴らしく明るい。正面には壁はなく、虫除けの網が張ってあるばかりで、開放感に溢れた造りになっている。ご主人の話では、材料はすべてこの敷地に立っていた杉を使っているという。梁の加工も大胆だが手が込んでいる。

 6畳ほどの浴槽には少し白濁したお湯が惜しみなく掛け流されていて、床などは濃い温泉成分が石化した独特のざらつきが心地よい。正面から右手に少し長い階段を降りたさきに、内湯よりずっと広いつくりの露天風呂が、新緑の中で満々とお湯をたたえていた。 

 

 

 手前に湯源があって滝のように流れて「あつい」、むこうは自然に冷めて少し「ぬるい」湯舟になっているので、交互に浸かってからだの芯から温まろう。

 この日はやさしい春雨が火照った肌を冷やしてくれた。露天ならではの楽しさである。そして、お湯の中から見まわせば、四季折々に訪れてみたくなる鹿児島らしい風景が広がっている。きっと龍馬もお龍とともにこんな温泉で、こんな風景を眺めたのかしれない、などと想像もふくらんでしまう。

 

 あがり心地もさわやかな「ラムネ温泉」で、身もこころもスカッとした。少し遠回りして、龍馬夫妻も立ち寄ったという和氣神社で、満開の藤を堪能してみよう。

 

参考 塩浸温泉龍馬公園のパンフレット 

 

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仙寿の里 ラムネ温泉 鹿児島県霧島市牧園町宿窪田3549

定休日 毎月第3火曜日

(M田)