第6回 出水市 梅雨のさなか紫陽花とざる蕎麦 東雲の里草の居
薩摩半島西岸の最北に位置する出水市。鶴の飛来地として名高い町だ。2006年に旧出水市と野田町、そして高尾野町が合併してあらたな出水市となった。旧3市町ともそれぞれ「麓(ふもと)」と呼ばれる武家屋敷群が大切に残され活かされている。
そのような町並みにしっくりと落ち着く木造の支所が、2019年に野田、2020年に高尾野に新築された。両方の構造体を弊社で施工させていただいたのでご紹介したい。
どちらも木の温もりで包み込まれるようなすっきりとした建物で、訪れるかたも働くかたもきっと心地よい役所だろうと思う。出水市街地から長島や阿久根への道すがら、懐かしい町並みをとぼとぼと歩いてみるのも楽しい。
さて、市役所本庁のある出水市街地から国道447号線を伊佐市に向かって10kmほど走ったところに大川内という集落がある。清流が自慢の村で、秋祭りで売り出される新米と鮎の甘露煮は格別のおいしさだ。梅雨に入ったこの時期、北薩では田植えが始まっている。水の張られた田んぼに映る里山がきれいだ。
このあたりの国道沿いに「東雲の里 生そば草の居」の入り口看板が立っている。ここからさらに北へ6km、細い道を登っていく。途中不安になるが「信じて登ってください」と親切な案内板が立っているから大丈夫、迷うことはない。つづれ織りの道は伊佐市に続いている。
夏を前にした道は、進むほどに山の緑が濃くなっていく。渓流も雨を集め水量も豊かだ。初夏の風景に気を取られているとお店への別れ道が案内されているから、右折してさらに細道を登れば駐車場に着く。ここには不思議なギャラリーが建っている。中をのぞくとこれまた不思議な雰囲気の絵画が集められており、目を楽しませてくれるだろう。
石畳の坂道を、両手に咲く紫陽花をめでながら少し歩くと「生そば草の居」の建屋が見えてくる。話し好きのご主人によれば、古民家を移築した建物で、木構造部分は大工さんにまかせたが、土壁や内装はご主人手作りのものだという。
食事の前に、園内約2kmの遊歩道をめぐってみよう。40年ほど前に入手した4万坪を超える森林や耕地跡を開墾して、一本ずつ植えていった紫陽花や楓、満天星(ドウダンツツジ)など手入れの行き届いた山道は、進むほどに感嘆の思いが湧いてくる。
石を積んだ田畑を耕し、沢から水をひいて米を作った人々の思いを、ご主人が受けとめて拓かれた風景が山全体に広がっている。紫陽花のひとむらひとむらがその気持ちの繋がりをのせた風船のように見えてくるようだ。一番高いところにある展望所までの往復は1時間ほどかかるけれども、山の姿は見飽きることはなく、たちまちに過ぎてしまうことだろう。お腹もいい具合にすいてくる。
食堂棟に入って、十割蕎麦をいただくとしよう。初夏にはやはり冷たいざるそばが合う。
焼き物の器はすべてご主人の作品だそうで、蕎麦は、跡継ぎのご子息が朝から打っているものだ。申し分などあろうはずがない。仕上げの蕎麦湯まで飲み干してしまった。6月中は紫陽花祭りで少し品書きが変わるが、四季をとおしてその時期にあった蕎麦をお出しします。とのこと。
「東雲の里」は、国道から6kmも入ったところにあっても、人々を惹きつけてやまない魅力に溢れている。紫陽花の時期が過ぎても標高400mの涼しさを満喫できそうだ。
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東雲の里 生そば草の居
定休日 木曜日・金曜日
※祝日や紫陽花、紅葉時期は休み無く営業
参考:東雲の里ホームページ
(M田)
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志鎌由紀子 (水曜日, 21 6月 2023 05:37)
里山の風景が目に浮かぶよう。いつか訪ねてみたいです。そのお蕎麦、生つばもの!
西之園省三 (日曜日, 02 7月 2023 18:33)
これはある意味桃源郷ではないか!
次回帰省時には是非とも訪れたい。
五右衛門・オフロスキー (水曜日, 05 7月 2023 14:56)
いい所ですねぇ! そして手打蕎麦がおいしそう!
でも、私にはズルズル5口で終わりそう。
軽く3盛はいけそうです。そのうちに行ってみたいです。
O野 (水曜日, 05 7月 2023 21:36)
いつものM田さんの写真や観察力に感動しています。
今回の東雲の里、以前の吹上浜周辺の地を次の帰省の時は訪れたいと思います。毎号素晴らしい写真部の作品に感銘しながらM田さんの撮影、名文に接しています。ありがとう!そして今は亡き佐々木会長を偲んでいます。「ウッディストの便り」を楽しみにしている元気な広島の老人です。