第7回 鹿屋市 夏空の高隈山と山寺鉱泉
大隅半島の中央部、錦江湾よりに位置する高隈(たかくま)山地。最高峰大箆柄岳(おおのがらたけ 標高1,236m)を含め、標高1,000m超の7峰が連座する山塊は、四季を通して、あるいは眺める者の位置によって、それぞれに違う姿を見せてくれる。
また、古くから修験道の霊山として知られ、それぞれの山頂には、祠が残っていて、修験の荒行が行われていた昔をしのばせる。
わたしも友人や家人と、あるいは単独で登ってみたが、どの登山道も整備されてはいるものの易々とはいかない厳しさが印象的だった。しかし、山頂からの眺望はすばらしく、垂水側の大箆柄岳からは桜島の噴火口を眼下に見おろし、運がよければ錦江湾のはるか南に屋久島をとらえることもできる。また、鹿屋側の御岳(標高1,181m)からは鹿屋、肝属平野の広さのさきに、ゆったりと弧を描く志布志湾を望めるのである。登り甲斐のある山々だと思う。
ふもとに住まう人々も、この山の特別な存在感を感じているように思う。わたしの子供たちが通った地元高校の校歌を見てみよう。
鹿屋農業高校 「仰げば高し 高隈の むらさき匂う峯の色~」
鹿屋高校 「山高隈に月影落ちて 北斗消えゆくあけぼのの空~」
どちらも「高隈」の二文字が、畏敬と愛着をこめて読み込まれている。きっとほかの高校も、このあたりの小学校や中学校の校歌にも、同様の思いを伝えるためのこの二文字が入っているのではないだろうか。
梅雨の時期なかなか全貌を見せることのなかった高隈山が、夏空のもとくっきりと姿を見せてくれるようになった。わたしには翼を大きく広げた鷹のように見えるのだが、鳥の見過ぎだろうか。
国道504号線は鹿屋市街地から高隈山地の東麓を北へ輝北・霧島に向かっている。鹿児島交通のバス路線が通っていて、「上祓川」、「寺街道」という名前の停車場が続き、その先に「山寺鉱泉入り口」の黄色い看板が見えてくる。「源泉掛け流し湯」の文言も見て取れる。
ここを左折するとすぐ右手に広い駐車場が案内される。車を停めて一段上がったところに受付と休憩所があり、その奧に浴室棟が設けてある。脱衣場には歴史を感じる木製の大きな椅子が置かれ、背もたれに「ヤマサハウス」のロゴが入っていた。
清潔に管理されている脱衣場から浴室にはいると、左に3畳ほどの浴槽、その手前に半畳くらいの水風呂、右手に4個の洗い場。五角形の浴槽には薄い黄金色の鉱泉が満たされている。42℃を保つようにとの注意書きがあるから、少し熱めだが、気持ちよく浸かれるお湯だ。夏だけど肩まで浸かり、吹き出すほどの汗をかいたら、水風呂に。16℃・キンキンの地下水が身を引き締めてくれる。
先客は、無駄な肉をそり落とした、ブルース・リーのような体つきの先輩だった。聞けば今年80歳になられたという。背筋の鍛え方を実地で示してもらったが、わたしには到底できない動作だった。
止まらない汗をタオルで拭きながら、湯守の谷本さんから高隈山にかかわる興味深いお話を聞かせていただいた。曰く、
『ここの鉱泉は高隈山の山腹に湧く水を塩ビ管で2kmも引いていて、湯ノ花がたまるのでパイプや溜め桝の管理も大変なんだ。成分として多くの鉄分と特殊なミネラルを含んでいるので、昔から切り傷や肌のトラブルによく効くと言われている。
三代ほど昔は、水源に近い「瀬戸山神社」の参道に湯屋があって、竹を割った樋で引水していたらしい。その頃は、修験道や岳詣りの客も多くて、500m近くあるまっすぐな参道には宿屋や僧坊がならんでおり、賑やかだったという。
「瀬戸山神社」は、室町時代から江戸末期まで、修験道の拠点としての「五代寺」と神仏混淆の寺社であった。だから、バス停に「寺街道」の名が残っているのだろう。』と。
夕方ではあったが、夏の陽はまだ高い。「瀬戸山神社」の参道に向かった。
国道は谷川に沿って北上している。地名の「祓川」とは、霊山に入る前に、この清流にはいって、世俗の身を祓い清めた名残なのではなかろうか。
参道は神社に向かって、北西に延びている。鳥居の向こう本殿はうっそうとした杉木立に囲まれているようだ。背後には夏雲に覆われた高隈山地が横たわっている。湯守の谷本さんは、御岳への登山道はこの鳥居から直登するように続いていて、その途中に泉源があると話してくれた。
歩いてみると参道の傍らの公園には五代寺を守っていた仁王像や、梵字の刻まれた石碑と五輪の塔も残されている。薩摩で明治時代にはいって激しく実行された廃仏毀釈まで、長く真言仏教の寺として信仰を集めていた証しだろうと思う。
何百年もの間、修験道に出立する山伏や岳詣りの人々を見守ってきたに違いない。
高隈山地は、その険しさと歴史によって、今を生きる地元の人々に、畏敬と愛着の念を抱かせる魅力を抱かせているのだろう。
谷本さんから、山寺鉱泉の駐車場に車を置いて、「瀬戸山神社」から高隈に登ってみればと勧めていただいた。鹿児島では「夏山には犬(いん)も入らん。」という。
9月の彼岸を待ってお勧めのコースで登ってみようと思っている。タカクマホトトギスの薄黄色の花が咲いている頃だ。もちろん下山後、山寺鉱泉で汗を流すことを楽しみにして。
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山寺鉱泉
営業時間 13時から20時30分
定休日 火曜日・水曜日
入浴料 420円
※参考:鹿屋市史、吉川満著「鹿児島県の山歩き」
(M田)
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黒木 敏彬 (金曜日, 04 8月 2023 14:15)
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黒木敏彬
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