M田のぶらり旅・さつまの国「鹿屋市 山寺鉱泉から高隈山 御岳を目指す」

第11回 鹿屋市祓川 山寺鉱泉(標高74m)から高隈山 御岳(標高1,182m)を目指す

 10月を迎えたとたん、大隅半島は急に秋めいてきた。肝付町から眺める高隈山も、澄んだ空気の中コントラストの効いた引き締まった山容を見せている。

 そういえば夏のはじめに、山寺鉱泉湯守の谷本さんから「うちの駐車場に車を置いて、瀬戸山神社から高隈に登ってみれば」と勧められたのだった。タカクマホトトギスの花季は過ぎてしまったけれど、山頂を目指すのには申し分ない季節になってきた。指宿温泉郷シリーズはひとつお休みにして、谷本さんのお勧めに乗ってみようと思う。

 

 朝7時。山寺鉱泉から集落にはいると、あたりは金木犀の香りに包まれている。二人並んで歩くのにちょうどよいくらいの通りをぬけて、瀬戸山神社へ向かってまっすぐにのびる寺街道にでた。朱の鳥居と高隈山の上には、少し雲はあるものの山歩きには申し分ない青空がひろがっている。

 

 

 鳥居ごしに登山の無事を祈願して、左へ1km近く、よく手入れされた杉林のなか、大きな登山案内板が建っていた。足下にはアルファベット表記で左右ふたつのルートが示されている。「IREIHI」は、かつてこの山に墜落した自衛隊機を忍ぶのための慰霊碑への道筋を、「CLASSIC」は、昔から使われている登山道を示しているのだろう。ここは右のルートへ。

 

 

 ところが、このクラシックルートは歩きやすいふつうの登山道ではなかった。木の幹や枝に巻かれたピンクのテープを頼りに、倒木を乗り越え、沢の浮き石を踏み渡る、キング・オブ・オフロードだった。頂上までの体力を温存するためには休み休み登るしかない。

 息も切れ切れになった標高400mあたりで緩やかな小尾根にでた。スダジイなどの巨木も混じる照葉樹林の中、敷積もった落ち葉のうえを歩くのはなんとも心地よい。息も整い、ふくらはぎも緩んでくる。道すがらヤッコソウやツチトリモチも枯れ葉の間から可愛い姿をあらわしてくれた。特にヤッコソウは「頑張れーっ」と両手を振ってくれているようだ。これはこれは。この森からのご褒美ですな。ありがとう!元気をもらったよ。

 

ヤッコソウ
ヤッコソウ
ツチトリモチ
ツチトリモチ

 

 出発から80分を過ぎたころ、慰霊碑コースとの合流点の看板が見えてきた(標高約460m)。ここから登山道は急勾配を維持しながら、桧の植栽林を抜けたあと、雑木二次林のなかを一気に標高を上げていく。足もとはしっかりしているが、振り向いて景色を見る余裕など与えてはくれない。ひたすら無心に足を進めるしかない。

 合流点から60分ほど、暗い林のさきに、明るい光が射し込んできた。山腹を横切る峰越林道までなんとかたどり着けたところだ。安堵しながら平場に出ると林道沿いに5合目を示す立派な看板が立っている(標高約680m)。

 しかし、まだ半分しか登ってないじゃないか。残りの体力で頂上まで行けるだろうか。案内板の先に延びる登山道を見上げながら、気持ちは下りに傾いてしまう。

 イヤイヤイヤイヤ、時間だけはたっぷりあるぞ。

 ここで、大休止。樹々の間からは、眼下に鹿屋市から志布志湾までの肝属平野を見渡せた。爽快な眺めだ。コーヒーをたて、おやつをゆっくりといただきながら、しぼみはじめた登頂達成への気力を奮い起こすのだった。

 

 

 5合目をあとにして、再び登山道に取り付く。山肌をおおう樹木は低くなり明るい小径に変わってきた。そして、登山道の傾斜も5合目までを遙かにしのぐ厳しさになっている。木の根や設置されたロープを頼りによじ登るために、ストックは使えなくなった。

 急峻な山径を這うように登っていると、その昔ここを飛ぶように歩いた修行僧の高笑いが聞こえてくるようだ。「5合目までは人の道、これが修験の道よ!ふわっふぁっふぁ」と。思わず「懺悔、懺悔、六根清浄」と繰り返し大声で唱えてはみるけれど、登り道の厳しさは増すばかりで、しまいには小声も出なくなってしまう。しかし、登るしかない状況は続くのであった。

 取り付くこと70分ほど。青息吐息で見晴らしのよい岩場にでる(標高約950m)。切り立つ岩壁からは志布志市、そのさきの都井の岬あたりまでの景観がひろがっていた。標高差を実感として捉えることができる風景だ。

 岩壁から更に40分ほど登ると鳴之尾牧場からの登山道と出合う。ここが9合目。このあたりから橅(ブナ)が見え始める。風が強いためか樹高は低く、幹も太くはない。自生の南限といわれている。

 踏ん張って20分で御岳頂上にたどり着いた。12時45分。登山口から5時間の登りがやっと終わった。(標高1,182m)

 

桜島からうっすら噴煙が上がる
桜島からうっすら噴煙が上がる

 

 頂上からのパノラマは360度。北から反時計回りに桜島、鹿児島市内、開聞岳、南大隅の山々、霧島までぐるりと見回すことができる。圧巻の絶景であった。恥ずかしながら、しばし登頂の実感を味わうのであります。

 

錦江湾の向こう薩摩半島 小さく開聞岳
錦江湾の向こう薩摩半島 小さく開聞岳
大隅半島の山々
大隅半島の山々
霧島連山
霧島連山

 

 山頂の昼食は格別だったことはいうまでもない。

 ゆっくり休憩して帰途についた。滑らないよう気を抜けない小径が続く。急な下りに膝が笑い出すが、こちらは登り同様緊張して歩を進めるしかない。

 約3時間ひたすら下って、登山口の看板に到着できた。

 山寺鉱泉の谷本さんに登頂したことを報告したところ、自分のことのように喜んでいただいた。至福のお風呂で標高差約1,100m、山行8時間の疲れをじっくりと癒す。登り甲斐のある地元の山が、まさに身近になった一日だった。

*******************************

参考:山寺鉱泉湯守 谷本久雄さん製作「高隈山・御岳登山ルート」

(M田)

コメントをお書きください

コメント: 3
  • #1

    山寺鉱泉何も専務 (金曜日, 24 11月 2023 20:06)

    登頂おめでとうございます。このコースは、鎌倉・室町時代から修験者が使っていた古の修験道ですので、標高差1000mをほぼ真っ直ぐ尾根伝い登るわけで、厳しいはずです。瀬戸山神社~五合目の蛇王大権現様~御岳山頂の龍王大権現様から、御岳へ登る体力・精神力があるか?試されます。そして、頂上でこのルートを登り切った者だけに、与えられる至福の時間なのです!それを完登したのですから、胸を張ってもいい値打ちはあります。お疲れ様でした。そして、またの挑戦を願っています。

  • #2

    永吉です (月曜日, 27 11月 2023 08:14)

    もう70年ほど前、死んだ父が営林署に勤めていて山に入ると一週間は帰ってこなかったそうです。その頃私が生まれたと死んだ母が言っていました。垂水の官社だったそうです。前田君の友より

  • #3

    大野 義昭 (水曜日, 06 12月 2023 16:52)

    M田さんの記事も写真も毎号楽しく拝見しています。
    山頂からの櫻島から反時計回りに始まる鹿児島市、開聞岳、南大隅の山々ぐるっと回って霧島までの写真も見せて下さいませんか?
     写真部の皆様の素晴らしい作品共々感銘受けています。