第12回 指宿市 温泉郷の大衆浴場(3) 浜児ヶ水区営温泉「浜ん湯」
砂蒸しで有名な指宿温泉郷で、地元の人々は、どんな温泉ライフを満喫しているのかが気になって、大衆浴場を訪ねている。
「弥次が湯温泉」と「区営鰻温泉」、どちらもそれぞれの地域に根ざした味わい深さがあった。
鰻温泉からさらに6㎞ほど南に下ったあたりに、岡児ヶ水と浜児ヶ水という地域がある。難読、「おかちょがみず」と「はまちょがみず」と読むそうだ。大字名だから郵便番号もそれぞれについている。
岡児ヶ水は、18世紀のはじめ、前田利右衛門が琉球から持ち込んだ甘藷の種子芋を植え付けたところだと伝えられ、300年前に立てられたという利右衛門の墓石もこの集落の墓地に現存している。
薩摩の国にあって、甘藷の栽培がいまなお盛んで、うまい芋焼酎をいただけるのは利右衛門さんの功績があったればこそなのだ。日頃の感謝をこめて瞑目合掌させてもらいました。なお、ここは鹿児島県内では西瓜の名産地としても古くから有名で、夏場「徳光スイカ」のブランド名で店先に並びはじめるとつい買ってしまうほどおいしさは極上だ。
さて、岡児ヶ水の東隣が浜児ヶ水だ。地区に入ると「浜ん湯」への小さな案内板が何ヶ所か民家のブロック塀に貼り付けてある。これを見逃さないように狭い集落道を進んでいくと温泉まで行き着く。駐車場は温泉の手前と奧に20台ほどのスペースが設けてある。
温泉棟は集落奧、海端の崖の上に防風林に包まれるように建っていた。そして、入り口の軒より高い蘇鉄が、南国の暖かさと、「浜ん湯」の歴史を感じさせてくれる。
温泉に入る前に、建屋を右手に見ながら、その先に続いている細道を200mほど下りてみた。ゆったりと弧を描く海岸線に東シナ海の穏やかな波が寄せ、すこし冷たい風も吹いている。
この浜には昔から温泉が湧いていて、昭和初期には露天風呂が地区の人々によって造られ、他所からの客も多く賑わったというが、なるほど、このこころ静まる風景に、当時のひとたちも惹きつけられたことだろう。昭和26年に、屋内に浴室を備えた棟屋が建てられ、その後今から40年ほど前に、そのままの形で浜から上がった現在の場所に移築されたそうだ。
「浜ん湯」は、この浜で湧いている源泉を崖の上の貯湯槽に汲み上げて、そこから浴槽に掛け流している。手前に見える四角い木箱がその泉源ではないかと思う。
「干潮時に広がった砂浜から湧きでる湯気が見たいものだ。」などと考えながら、とぼとぼと坂をあがる。温泉の入り口には、営業時間は9月から5月までは15時から19時半まで、その右に入浴料金は現金130円、回数券(20枚)2,000円を案内する紙が張ってある。これは地区外の人への案内で、区民の負担は現金70円だそうだ。区民回数券は推して知るべし。区営温泉は本物の区民ファーストで運営されているが、一見の私たちにもうれしいお湯である。
浴室は腰壁までタイル張りで、そこから上は木造だ。浴槽は2つあって、向こうがぬる湯、手前があつ湯に設定され、塩泉質の透明なお湯が掛け流しされている。洗い場は6ヶ所だが、使う人はまれなようだ。
湯舟から見上げると、浜の建物として、海から襲いかかる強風に耐えるための太い木材と強固な構造が、そして、40年前の移築の痕跡が現しになっている。頬杖や火打ちの入れ方、梁桁の継ぎの巧みさはもちろん、空いたままのほぞ穴まで、のぼせるまで見ていたくなる。
このような地区で運営されている浴場では、どなたも、きちんと「こんにちは」と挨拶の言葉をかけて入って来られる。会話もそこから始まり、つながっていく。地区外の一見の私たちにも同様である。今回ここでは、建屋の話を詳しく聞くことができた。
区営温泉を誇りに思う浜児ヶ水の人々の温かさと歴史が伝わる、清楚な良い温泉である。
賑やかな温泉郷には、さらに深く、つながりの温泉ライフが営まれているのだ。
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浜児ヶ水区営温泉「浜ん湯」
入湯料 小学生以上130円、小学生未満無料
営業時間 9月~5月 15:00~19:30 / 6月~8月 15:30~20:00
休み 毎月第2及び第4木曜日
参考・引用
公益社団法人 指宿市観光協会HP
いぶすき観光ネット
南日本新聞 2021年11月7日号 12ページ(「浜ん湯」の管理人の方に提供いただきました。)
(M田)
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ヨシハラ (日曜日, 31 12月 2023 22:18)
利右衛門さんありがとう�
ゴエモンブロ・オフロスキー R6.1.3 (水曜日, 03 1月 2024 10:53)
M田さんへ
明けましておめでとうございます。
「ぶらり旅・さつまの国」 いい旅してますねぇ~!
今回は何処だろうとワクワクしながら見ています。
今年もよろしく穴場情報をお願いします。