第17回 霧島市 花は霧島 ほどほどの山歩き
鹿児島の代表的な民謡に江戸初期から歌われているという「おはら節」がある。(※1)
出だしが、「花は霧島、煙草は国分、燃えて上がるはオハラハー桜島」で始まるあの歌である。4百年もの昔から薩摩人の自慢は、なによりも霧島山に咲く花々、本霧島と呼ばれる躑躅であったらしい。
また、昭和9年に日本で最初に「霧島国立公園」として、保全、公開されることになったいきさつも、その山容はもちろん、そこに咲く植物の豊かさと美しさあってのことだろう。
霧島山は最高峰韓国岳(1700m)、龍馬とお龍が新婚旅行で登ったことで知られる高千穂峰(1574m)が有名だ。しかし、いざ登山となると体力と時間の余裕がないとなかなかチャレンジするのがむずかしいのが実情だ。そこで、ほどほどの山歩きでそれなりの達成感を得ることができて、「花は霧島」をまわりに自慢できる三拍子そろったコースを歩いてみた。
§1. 大浪の池 まんさくを愉しむ 3月末ころ
まんさくとは花々のなかで一番最初に咲くから「まんず咲く」→「まんさく」だそうな。3月20日過ぎから黄色の毛糸を数本束ねたような可愛い花を咲かせる潅木で、高さは3メートルくらいだ。まんずこれを見に行こう。
霧島温泉郷から県道1号線をえびの高原に向かうと右側に登山口駐車場がある。30台以上停まれる広さだが、すぐに満杯になるので早めに着けるよう計画したほうがいい。登山口からは大樹の森をぬうように石畳の道が続いている。まだ肌寒い季節だが、ゆっくりと歩いても温かくなってくる。左右の樹木の変化や鳥の声を楽しみながら登れば、小一時間もかからずに、分岐点の展望所に着いてしまう。ここには避難小屋が新築整備されていて、長椅子が設えてあり、霧島山や大浪池の説明パネルも展示してある。また、携帯トイレが使える施設もあるから安心だ。
眼下には、お浪という娘の悲しい伝説を秘めた青い池がひろがっている。湖面をながめながら分岐から右手へ。木の階段はこのカルデラ湖の縁を一周する道に続く。ここから10分ほど歩くと、まんさくの群落が花を咲かせていた。黄色のきゃしゃな花々は青空の下、霧島の春を伝えてくれるのである。北に韓国岳、南に高千穂峰をながめながらお茶でも飲んで、来た道を下る。無理せず、ゆとりのある2時間すこしの花山歩きを楽しめるコースだ。
§2.中岳中腹歩道 深山霧島(みやまきりしま) 5月中旬ころ
深山霧島と名付けたのは、1909年、新婚旅行でこの山を訪れた牧野富太郎だった。そして、江戸末期、新婚旅行で高千穂峰に登った坂本龍馬も一面に咲くこの花の美しさを姉に書き送っている。霧島山に初夏を呼ぶ深山霧島の群落は、新婚旅行でなくても見に行けるのである。
霧島神宮から北東に4kmほどく九十九折りの道を行くと広い高千穂峰駐車場に着く。ほぼ9割の人は、天孫降臨伝説をもつ霊峰高千穂の鳥居をくぐって、峰への登山道を登っていくようだ。そちらには背を向けて、ビジタセンターの左、中岳登山口から入っていく。
実は2011年1月の新燃岳噴火後、中岳と新燃岳は入山禁止となっているのだが、中岳中腹までの遊歩道は開放されている。当時の噴石なども両脇に寄せられていて、石畳の道は歩きやすく整備されているのだ。
登山口から15分ほどで深山霧島の群落が現れ始める。遊歩道は中岳登山道とツツジコース、紅葉コースに分岐するが、中岳登山道を登って、ツツジコースを下りてくることにしよう。深山霧島は歩道沿いにも、その向こうにも一面と言っても差し支えないほどの群落を作って咲いている。振り向けば、高千穂峰が圧倒的な迫力でそびえる。登山道の入山禁止看板まで登ると、左から高隈山系、開聞岳、錦江湾に浮かぶ桜島、南さつま野間岳を一望する絶景が広がっていた。
歩道に沿ってあちこちに配置してある休憩用のテーブルでコーヒーでも飲みながら、何度も花と景色を楽しめるコースだ。往復2時間、疲れを感じることはない。
深山霧島の群落と高千穂峰
眼下に広がる薩摩の山々
どちらのコースもタイムスケジュールに余裕ができるのがいい。帰りに寄って一風呂浴びる温泉や、特産品売り場での買い物の楽しみが増えるのもうれしい。
(※1 おはら節のルーツには諸説あります。)
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参考:林 竜一郎著『おてっちき 鹿児島おはら節』国分進行堂
「平成23年霧島山(新燃岳)噴火 国土交通省の対応」国土交通省 九州地方整備局宮崎河川国道事務所
ウィキペディア
(M田)
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西之園省三 (水曜日, 05 6月 2024 20:56)
景色が浮かんでくるような描写が素晴らしく、ユーモアもあり、楽しく読みました!
吉原賢三 (水曜日, 05 6月 2024 21:42)
一年中楽しめる霧島山、良い処ですね。また行きたくなりました。(^^)