メールマガジン第104号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第60話)

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60.建設業のGDPから考えること

 前回、我国のGDPの問題について少し触れたが、今回は業種別の特に建設業のGDPについて考えてみたい。

 まず我国全体のGDPの推移のグラフを図1に示す。漸増傾向ではあるが、20年間というスパンで考えると確かに微増に近く、我国経済の停滞が見てとれる。

 次に、建設業のGDPの20年間の推移を図2に示す。明らかに減少傾向が見てとれる。統計によれば建設業のGDPが我が国の総GDPに占める比率は5.8%とある。

 かなり少ない印象であるが、GDPは関連業種の従業員に支払われた給与の総額に近いものと言われており、建設業の総売り上げとは別物である。

 例えば建設に用いられた鋼材等の生産に要する費用は、建設業ではなく製造業でカウントされている。その意味で、GDPは建設業の経済規模そのものを反映したものとは言えないが、しかしこの20年間の推移を見る限りはあまり良い状況とは言えないようにも思われる。

 

 原因を考えてみると、実は以下のようなことが言えるのではないかと思う。図3に、我国の建築の年間新築着工床面積の推移のグラフを示す。図3も、1990年以降明らかに減少傾向にあり、尚且つ図2と図3はかなり良く整合している。

 原因の一つは、かつて戦後の復興のために品質には目を瞑って進められてきた我が国の建築生産が、時代とともに品質改善・高品質化が進み、それに伴う建物寿命の延伸が行われたことにより、結果として建物の新築着工床面積の減少に繋がったことである。このこと自体はSDGs等の観点からも必ずしも悪いことではない。

図1
図1
図2
図2
図3
図3

 もう一つの理由としては、建設業の就労者数の減少が上げられよう。建設業界の就労者数は1997年をピークに減少に転じており、2021年にはピーク時の70%まで減少したとある。その一つの原因として上げられるのは、建設業就労者の高齢化である。これまで建設業を支えてきた団塊世代の熟練工がリタイアする一方、次の世代が育たず、その技術の継承が思ったように進んでいないことが上げられる。

 

 ここ十年の建設業のGDPの推移を見ると、着工床面積は特に増加傾向ではないにも関わらず、GDPは漸増傾向にある。建設単価の上昇が影響しているものと思われる。

 そう考えて来ると、現在話題になっている建設物価の高騰も、必ずしも一過性とは言えず今後常態化する可能性が高い。建設物価の高騰と熟練工不足の問題は、実は木材業界にとってはいずれも追い風である。

 我々木材業界はこのような状況の中でどうふるまうべきか。元々割高であった木材価格と鋼材やコンクリート価格の単価の差が縮まる好機が来ているではないか。あるいは、軽量で乾式の木質パネル工法が、在来工法の熟練工不足を補う切り札となるのではないか。

 大きな変革の時代の中にあって、木材業界一丸となった戦略的対応が強く望まれると思う。

  

(稲田 達夫)