メールマガジン第112号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第68話)

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68.令和5年度木構造振興助成事業を終えて

 

 昨年度は久方ぶりに、林野庁関連の助成事業を受託することができ、慌ただしいが充実した1年を送ることができた。先日最終報告書の提出を終え、また報告会の講演の収録等も完了し少しほっとしている所である。

 

 昨年度の助成事業のテーマは、「鉄骨構造建物向けのCLTを用いた木質パネル制震壁の開発」である。接合金物には、冷間成形角型鋼管を輪切りにしたものをCLTパネルの4隅に配置し、曲げもせん断もその角型鋼管を介して伝達する方式とした。

 同様のテーマで令和元年度にも助成事業を受託しているが、今年度は特に設計法や解析法など鋼木混合構造建物の設計をいかに合理的に進めるかを主なテーマとした。

 

 その成果についてであるが、実大実験については鹿児島県の工業技術センターの大型試験機を用いて進めることにした。大型の実験施設は、作用する力も大きいことから、予期せぬ不具合が生じることがある。

 例えば反力がうまく受け切れないと、試験体に浮き上がり等が生じ力が抜けてしまう場合もある。試験体の挙動を単純で安定したものとするため、大断面のH形鋼を反力機構として採用することにより、試験装置の改善を図った。また本来、木質パネルの損傷メカニズムは複雑であり、どこでどのように壊れているのかが把握するのが難い側面がある。

 しかし今回は最終的にほぼそれら全ての力関係を定量的に解明することができ、結果として、接合金物だけに損傷が限定される安定した性能を有する制振装置の実現に成功した。繰り返し荷重に対しても挙動は安定しており、再現性の高い荷重変形関係を得ることができた。

 

 制振装置を組み込んだ建物の解析法についても、梁と壁を繋ぐバネ要素を増分法解析プログラムに忠実に組み込むことにより、精度の良い解析を行えるようにした。また、増分法解析から得られる荷重変形関係を、そのままマルチリニアモデルとして時刻歴応答解析を行うことができる振動解析プログラムを考案した。その際荷重変形関係は、鉄骨フレームと制震壁に分けて応答値を求めることできるようにすることにより、鉄骨フレームと制震壁の損傷の度合いを明確に分けて把握できるようにした。

 

 本来、耐震設計の要点は(1)エネルギー吸収効率の良いエネルギー吸収機構の確保と、(2)振動現象を安定させるための「柔要素」としての弾性剛性の確保が基本である。特に(2)の柔要素をいかにして確保するかは、難しい課題であるが、今回は(1)は木質パネル制震壁で、また(2)は制震壁で補強された鉄骨フレームがその役割を担うことができることを確認した。

 

 そのようなわけで、今年度の助成事業では当初想定していたよりもはるかに大きな収穫を得ることができたと思っている。助成事業の進行にあっては、工業技術センターの職員の方々や山佐木材の社員の面々、検討委員会の先生方等、多くの方のお世話になったので、心より感謝したいと思っていいる。

 





(稲田 達夫)