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★【シリーズ】バイオマスについて(11)代表取締役 佐々木幸久
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温泉の追い焚き用薪ボイラー
鹿児島県内某町に町営温泉があります。泉質はよいと評判ですが、泉源の湯温が低いので追い焚きが必要です。重油が安い頃は良かったのですが、最近燃料代が経営を圧迫するようになりました。そこで町は今年薪焚きボイラーに転換しました。
薪焚きボイラー転換の内容
①燃料代(重油、灯油)は年間4000万円に達した。
②町は燃料を薪に切り替えることにして、温泉に薪ボイラーを設置。
③なお、温泉施設は2ヶ所あるので、ボイラーもそれぞれ一つずつ2基設置された。
④温泉ではボイラーの薪を供給するため、1ヶ所1人計2人を配置した。
⑤町は森林組合に「未利用材」を伐りだして、薪割り機で割り、薪を作って温泉に供給する事業を依頼、見積もり後契約した。
⑥森林組合の見積もりは1m3当10,000円、薪供給のために数人が従事している。
⑦10,000円では温泉の収支改善が見込めないので、町が1m3あたり2,000円補助し、温泉には、8,000円で供給する。
⑧始まって数ヶ月なので、温泉の収支は明らかでない。
町の判断への所感
1)薪ボイラーの選択の適否
もう一つの選択肢は、当然町でも検討されたものと思いますが、チップボイラーがあります。自動運転出来るのは長所ですが、難点は価格が高いことです。残念ながら国内産でヨーロッパ製品に匹敵するものはなく、輸入のために商社を経由することなどで高くなるのです。従って①初期投資は高いが、毎年の運転コストは安い、②初期投資は低いが、運転コストは高い、この比較です。
以前比較試算したときは、冬場しか稼働しない農業の温室用は、年間稼働率が低く、初期投資の負担が低い薪焚きの方が有利と考えられました。通年使う浴室の場合は稼働率100%で、初期投資の高さは比較的気にならなくなるのです。しかしこれはもう、それぞれ事業体の価値観です。
2)森林組合への委託の適否
森林の健全性維持や、未利用材の活用はいわば国策ですから、その有力担い手である森林組合に委託すること自体は問題ないと思います。なお他の林業事業体とも、コストや手法について比較検討されたかどうかは私も知りません。
3)森林組合の見積もりの適否
未利用材とは普通の木材利用に適さない木材のことですから、径が小さいとか、曲がりくねっているとか、一般材よりも出材コストもかかるのが通例です。薪割り機で割る作業とか含むのであれば、この価格は「よく頑張っている」と評しても良いでしょう。
なお以上はすべて伝聞等によるもので、自分で調査や現場検分はしていません。従って薪ボイラーの機種、能力や、以前の石油燃料の調達価格や使用量も知りません。
これだけの情報で、この燃料転換が温泉経営にどのような収支改善をもたらすことが出来るのか、試算してみようと思います。
石油から薪に転換したことの収支試算
1)薪の発熱量は、4,300Kcal/kg(絶乾時=水分率0の時)
通常木材は多量の水分を持っています。木材を伐って暫く乾かしても、概ね100%前後といわれます。すなわち、水分率100%の場合、1kgの絶乾薪を得るには、純粋の木質1kgと、水1kg、合わせて2kg必要です。
含水率100%の木材の正味発熱量は、絶乾換算1Kg当3,600kcalである。
※根拠
水1kgを蒸発させるために必要なエネルギーを、木材の発熱量から控除する
25℃→100℃ 75Kcal
気化熱(100℃) 540Kcal
排気熱損失100℃→200℃ 100Kcal
合計 715Kcal 約700kcalとする
4,300Kcal ー 700Kcal =3,600Kcal
2)石油の発熱量
灯油1Kg当り10,500ー11,200Kcal(平均10,850)
比重0.78ー0.84(平均0.81) 8,800Kcal/L
重油1Kg当り 9,000ー11,100Kcal(平均10,500)
比重0.82ー0.96(平均0.89) 9,000Kcal/L
3)重油1Lは、木材の何Kgに相当するか、それは材積でいくらになるか
9,000Kcal/3,600Kcal =2.5Kg 1000倍で、2.5ton
重油1Kl =木材2.5ton=木材材積2.5ton/比重0.4=6.25m3
重油1Klの熱量に匹敵する木材量は、6.25m3
4)同熱量での価格対比
木材 温泉の買い上げ価格 8,000円/m3
8,000円/m3 × 6.25m3= 50,000円
重油価格 80円/Lであったとすれば、1Kl当 80,000円
50,000円/80,000円×100%=62.5%
5)温泉の収支予想
年間4000万円の燃料代を払っていた。これの62.5%で済むとすれば、
4,000万円×0.625=2500万円 1500万円の節約になる。
但し、ボイラー要員を二人雇用しているから、約800万円かかったとすれば、
正味 1500万円-800万円=700万円の経費削減が可能であろうと予想出来る。
注①カロリー、比重などのデータは手元にある「理科年表」(昭和59年版=私が38歳の時)を用いた。
注②ボイラーの熱効率は石油焚きも薪焚きも同じと仮定した。薪焚きが少し悪いかもしれないと思う。
注③石油価格は灯油、重油平均80円とした。もしこれよりも高くで買っていたとすれば、より経費削減効果は高いことになる。
当社が薪を供給するなら
当社でも薪の見積もりをしてみました。当社は1m3当3500円で出せるということです。「え、未利用材より安いの?」と反問されそうですが、実はそれが当然なのです。それは柱や板などを取ったあとの残りもの、つまり副産物だからです。この価格でも当社も少しだけ儲かります。
では、この価格で温泉運営の立場ではどうなるでしょうか?
3,500円×6.25m3=21,875円/m3
21,875円/80,000円×100%=27.3%
4000万円×0.273=1092万円 約1100万円(一年間の薪代)
4000万円ー1100万円ー800万円(人件費)=2100万円
年間2100万円の年間節約の見込みに成ります。
(代表取締役 佐々木幸久)