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★【稲田顧問】タツオが行く!(第76話)
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「これまでのタツオが行く!」(リンク)
76.世相
今年もまた、あっと言う間に師走となってしまったが、この1年を振り返って少し気になった最近の世相について書いておこうと思う。
私が大学を卒業し2,3年経った頃のことであるが、かつて今太閤と持て囃された田中角栄氏が逮捕された。その夜、親しくして頂いていた大学の先輩と酒を酌み交わしていたのであるが、話題が途切れたこともあって何となく、「田中角栄が逮捕されて良かったですね」と言ったところ、先輩から「田中角栄が逮捕されたことは君にとって良いことなのか」と聞かれた。それで、「だって悪いことばかりしていたじゃないですか。」と答えると「では君は何か田中角栄が悪いことをした証拠でも持っているのか。」と聞かれたのである。
この辺まで来ると少し面倒な話題を振ってしまったことに気が付いたのであるが、少し酔っていたこともあり苦し紛れに深くは考えず「だって新聞やテレビでいろいろ騒いでいるではないですか」と答えた所、「では君は新聞やテレビで言っていることは全て正しいと思っているのか」と聞かれたのである。その時、この先輩が新潟県の名門「県立新潟高校」の卒業生であることを思い出し、この話についてはそれ以上深入りせず、なんとか必死に撤収したのを覚えている。しかし、先輩の「新聞やテレビで言っていることは全て正しいと思っているのか」と言う一言は、何となくいつまでも気になっていたものである。
時は経って2011年3月15日、東日本大震災が勃発した直後の朝日新聞朝刊の一面トップに「福島第一原発2号機炉心溶融」の文字が踊っていた。(右図がそのコピー)
メルトダウンが起きたとのことで、大変なことになったと思ったのであるが、なぜかその後これについては後追いの記事は他紙を含め一切なかったのである。あの記事はガセネタだったのかと思っていた所、6月頃になって、同じく朝日新聞に「第一原発の2号炉は実は地震直後に炉心溶融を起こしていた」という記事が掲載された。
文脈としては、炉心溶融の事実は伏せられていたとのことのようだが、では一体3月15日のあの記事はなんだったのかというのが、逆に大いに気になったものであった。
今年は東京都知事選挙に始まって、自民党総裁選、総選挙と何かと既存のメディアとネット上のSNSの関係が物議を醸すことが多かった。
特に兵庫県知事選挙では、「パワハラ」「おねだり」と既存のメディアからは総スカンであった斎藤元彦氏が兵庫県議会において全会一致で不信任を突き付けられ失職したのであるが、出直し選挙で逆転再選を果たしたのは極めて印象的であった。
新聞やテレビが誤ったと思われる情報を垂れ流すことについては、驚くことではないし、それについてとやかく言うつもりも無い。ただ、最近少し気になるのは、ネット上のSNSの情報は誤ったものが多く、有権者がそのような情報を信じ、選挙結果に悪影響を及ぼすことがあるので何らかの規制をした方が良いという意見が聞かれることである。
昔、私は「情報」の意味を少し真剣に考えたことがあって、その時の結論は、情報の価値は発信者が決めるものでは無く受信者が決めるものだという事である。例えば兵庫県の有権者は雑多な情報の中から自身の判断において価値あると思われる情報を見つけ出し、それに基づいて貴重な一票を投じたのである。それが民主社会における選挙の本質であり、第三者が情報の価値について規制を加えるようなことはあってはならないと思う。
そのような意味で今年もいろいろあったが、こと選挙に関してはなかなか興味深く、またそれなりに正しく行われたのではないかというのが、現在の感想である。
(稲田 達夫)