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★【シリーズ】バイオマスについて(14)代表取締役 佐々木幸久
我が国林業の実力を如何に高めるか
その2 儲かる林業はどう実現するか 日独生産性の違い
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2004年10月、ドイツの林業、木材、木造建築の視察に行きました。
その中で約100haの森林を保有、自ら伐採や保育などの林業経営を行っている、いわゆる「自伐林家」を訪問しました。1日じっくりとドイツの林業事情を聞くことが出来ました。
この人の最近の伐採事例を聞きました。
・所要日数 1人で5日
(但しこの間掛かり木があり1日応援依頼)
・300ユーロ
(1ユーロ150円として45,000円)支払
・伐採量 30本105m3
・使用道具
チェーンソー+ウィンチ付きトラクター
このときの採材方法が下の図です。木材が極めて大きいことが分かりますね。
ドイツは基本的に、120年たった樹木を伐採する、と言うルールになっています。
・売上収入 5,280ユーロ
(1m3あたり約50ユーロ。円換算すると7500円)
120年生の品質の高い丸太にも関わらず、その価格は大変安いと言えましょう。現にこの方も「安い」、「儲からない」と不満がある様子でした。我が国の方が丸太価格は高い水準にあります。
それでも、1週間で80万円の収入が得られたのです。
注目すべきは伐採の作業効率です。
・1人で5日+手伝い1日=6日
・105m3÷6日=17.5m3/日
我が国では伐採量は、普通1人1日当たり3~5m3であり、もし7~10m3であれば、「極めて優秀」と評価されます。
ドイツのこの事例は、作業効率が高いと言われる「皆伐」ではなく、手間がかかると言われる「間伐」(自分の山の中で適木を選択して伐採する)においてです。
比較的高齢の個人が、特別の「高性能機械」を使うことなく、我が国水準の2倍以上の17.5m3を伐採したのです。しかもこれがドイツでは普通であり、特別ではないのです。
実は一本当たりの材積(単木材積)に、伐採効率の秘密があります。
先ほどの事例での単木材積は、105m3/30本=3.5m3/本
我が国で伐採している単木材積は、もちろん山によって大きな差があるのですが、概ね0.3m3くらいでしょう。
例 皆伐 400m3の山(利用率75%で300m3) 残存本数1000本
105m3の伐採実績を上げるためには、300本以上を伐採しなければなりません。
30本伐ればこの数量に達するドイツの林業と比べると、我が国林業は確かに不利でしょう。すなわち伐採効率は、単木材積によって大きく異なるのです。
これを立証する国内の証拠を2つお目に掛けます。
1つは国内でも最も優秀な素材生産業者の1人である、有名な熊本県人吉の泉林業社長泉忠義さんの証言。もう1つは京都大学神崎教授(当時)、新永智士さんのグループが発見した原則です。
泉忠義社長の発言
以前、林業コストの研究会で、宮崎県内国有林内を関係者と共に視察しました。大変立派な山で、泉社長が「この山なら立ち木代として1ha当たり500万円払っても良い」、と言いだしたので、皆びっくりしました。世上「山は儲からない]、「立ち木代は70~80万円(ha当たり)にしかならない、再造林費も出ない」と言われているのです。そこにいた皆さんが、当の山の営林署長さんも含めて「えっ、立木代500万円(ha当たり)?」と大きな声で言いました。
泉さんの講義が始まりました。「単木材積1m3/本以上なら、素材生産は2000円/m3 で出来る」というのです。
この山の木なら、最低13,000円/m3はすると踏みました。
・木材価格13,000円/m3 ー伐採コスト2,000円/m3 =立木代11,000円/m3
もし1ha内に500本有れば、当然材積は500m3以上あり、「この山なら500万円で買っても良い」と言う発言になったわけです。
京都大学の研究成果
森林の伐採現場で径級と作業効率の関連を調べたおもしろいデータがあります。
この調査によって、大径材になると素材生産コストは大きく低減するとの結果が出ました。
日独齢級比較
下の表は、20年ごとに区分けした森林面積の齢級表です。これを見ると、我が国の齢級は「伐採時期に来た」と世上言われていますが、実はドイツ、オーストリアに比べて、まだ極めて若いのです。
ドイツでは国内全体にわたって120年で伐採する形になっているようです。
120年を越えるところから面積シェアが下がっています。
「年数が高い=総じて大径化=伐採コストが低くなる」と言う関係性があります。
我が国林業は今後如何にあるべきか、について次回述べます。
(代表取締役 佐々木幸久)