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★不定期連載「大学研究室だより」 法政大学・網野研究室
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こんにちは。
法政大学デザイン工学研究科建築学専攻修士二年の山本大貴と申します。
私は山佐木材の下住工場にて、自身の修士論文のテーマである「スギ集成材による本実型枠の低コスト化に関する研究」のコンクリート打設実験をしました。
今回はその研究の概要をご紹介するとともに、山佐木材での実験結果をご報告いたします。
本実型枠(ほんざねかたわく)に着目
この研究は、コンクリートの壁面に、型枠に使用する木材の木目を転写させ、意匠的に綺麗に見せる本実型枠に着目したものです。
かつては、杉板による型枠工法が主流で、木目の独特で味わいのあるコンクリート壁面による建築が数多くありましたが、工業化が進み、効率化と低コストが求められる時代となった現代では、手間もコストもかかる本実型枠は裏方に霞み、無機質な壁面を写すコンクリートパネルによるコンクリート型枠が殆どを占めるようになりました。
スギ集成材パネルを型枠に使えないか
私は型枠にスギ集成材パネルを使用することで、手間のかかる本実加工を省き、施工性を向上させることを考えました。さらに集成材パネルの分厚い形状を利用し、パネルを複数回転用することもできるのではないかと考えました。
今回の実験では、実際に集成材パネルを型枠として使用し、型枠業者に施工を依頼することで、壁面の意匠性、施工性、転用性とそれに伴う課題を検証することを目的としました。
意匠性について
意匠性に関しては問題なく転写に成功しました。写真から分かるように浮造りと呼ばれる木目をはっきりさせる加工をすることで、どこかやわらかみのあるコンクリート壁面の施工に成功しました
施工性について
職人さんにお聞きしたところ、「本実型枠の場合は前もって準備が必要で、施工までに数日が必要だが、最初からパネル化されていれば、その手間がかからないですむ上に、型枠に厚みがあるためセメントの漏れ出しが通常の型枠よりはるかに少ない」とのことでした。
施工性に関しても問題なく、工期を短くすることで低コスト化の実現に成功していると言えます。
転用性について
転用性に関して、一番に懸念されたのがパネルの水分吸収による反りでした。これを回避するためにパネル表面に表面強化剤と呼ばれるコーティングを行うことで水分吸収を防ぐことを狙いましたが、結果はコーティングの有無に関係なく、パネルは反ってしまい、そのままでは転用は難しい状態になってしまいました。
しかし、型枠を洗浄・乾燥する過程において、反りに対して上から荷重をかけた状態で乾燥させることにより、反りは使用前の状態近くまで戻り、転用も十分可能であると言える結果になりました。
最後に
今回の実験により、課題も多く発見されました。
例えば、商品化するにあたって使用する型枠部材を限定し過ぎてしまうという点です。この場合、対応できない型枠業者はそのための部材を用意しなければならないのでコストが上がってしまうことも予想されます。いかに一般的なもので施工性が高く、意匠性の高いものをつくるかが今後の課題です。
最後に、今回の実験に多大なご協力をいただいた山佐木材の皆様をはじめ、慣れないもので施工をしていただいた職人の方々に深く感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。
(法政大学デザイン工学研究科建築学専攻修士二年 山本大貴)