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★役員からのメッセージ 取締役総務部長 前田 和浩
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はじめて役員メッセージを担当する前田和浩と申します。
昨年6月から総務・経理部の担当役員をさせていただくようになりました。ずっと営業畑で過ごしてきましたので、繊細なこの仕事にあたっては先輩諸氏からのご指導をいただきながらの毎日です。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
あとひと月ほどで3月11日。東日本大震災から丸5年になろうとしています。あらためて犠牲になられた数多くの方々へのご冥福と被災地の一日も早い復興をお祈りいたします。
あの日私は、たまたま東京に出張しており、大きな揺れと、ホテルへの帰宿困難を体験しました。そして、50日後の5月はじめ、仮設住宅の需要調査で大船渡市に入り、津波被害の甚大さを目の当たりにしたのです。わずか1週間ほどの滞在でしたが、現地ボランティア等にも参加させてもらいました。
5年前の体験から得たことは、わたしが、日ごろの生活や仕事に取り組むうえでの大きな糧となっています。この稿で、それらのことをひとつずつでも書かせていただければと思います。
『身の危険を正しく判断しよう』
2011年3月11日、わたしは社長と吉松所長と一緒に東京ビッグサイトで開催されていた「住まいと建築展」に出展していました。わたしたちは午後3時から始まる社長の講演の準備をしているさなか、あの地震に襲われたのでした。
最初はめまいのような感覚でしたが、すぐに立っているのがやっとの揺れがやってきました。天井の鋼製パネルがきしみ、枠からはずれて、その内2,3枚が落下しけがをした人も出たようでした。それもあってか、地震の直後、パニックに近い状態で大勢の人が非常口に集中し、われ先にと外に飛び出して行きました。
暫くして、東京湾への津波の高さや到達時刻が発表され、その後、手持ちのワンセグテレビでは東北地方を襲う大津波の映像を放送していました。「津波の恐れがあるので上の階に避難せよ!」という会場からの指示が出され、わたしたちは、取るものも取りあえず、3階か4階まで移動しました。しかし、避難をせず1階の展示フロアに残って展示品の片付けをしている人が多数いました。下に残っている人びとは、何を根拠に自分たちの命に危険が及ばない、避難は不要と判断したのでしょうか。
「正常性バイアス」という社会心理学の考え方があることを知りました。非常事態に心を平静に保とうという心理が強く働き、結果危険が及びそうな状況下にありながらも、自分は大丈夫、安全なのだという誤った判断に陥ってしまうのだそうです。
今思えば東京ビッグサイトでの避難不要の判断はこの正常性バイアスが働いた典型例ではないでしょうか。実際、会場は津波の被害はなかったのですが、他のところでは同様の事例で被災された方もあったと聞きます。
私たちのまわりで、作業中におこるけがや災害にも同じような心理が働いていると思われる例が多くあります。機械になんらかのトラブルが発生し、チェーンやローラーが回っていてとても危険な状態にあるにもかかわらず、「大丈夫だろう」と(正常性バイアスが働き)手を入れてしまうといったような事故があとを絶ちません。一呼吸おいて、視点を変えて状況を見たり、あるいは人を呼んできて正常性バイアスに支配されていない判断をしてもらったりといったことで、災害から身を守ることができます。
いざというときに、自分自身の体を守るための、落ち着いた処置をとれるようにする訓練を、日頃の生活や仕事の中で積み重ねておきたいものです。
(取締役総務部長 前田 和浩)