メールマガジン第36号>社長連載

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
★【社長連載】 Woodistのつぶやき(4) 

   専門工事業創設の必要性について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 前回と重複する部分があるのですが、今一度専門工事業創設の必要性について整理してみます。

1.住宅と公共建築の施工体制

 木造住宅建築を施工する住宅会社、工務店(一般建築業)は木造建築について通暁している。

  公共建築を施工する建設会社(一般建築業)は鉄骨工事、鉄筋コンクリート工事、木造建築どんな仕事でも条件が合えば受注する。これまで発注例の少なかった木造建築については率直に申して、知識技術に欠ける。木造公共の推進には、建設会社の木造技術向上と共に、しっかりした木造専門工事業の存在は不可欠である。

 

2.住宅と非住宅木造建築の加工架設技能の違いについて

 一般に大工さんと言われる住宅大工と、非住宅建築を担う大工(通常大工とは呼ばない)とは、技術技能の中身が異なる。

  当社が25年前非住宅木造建築部門を創設した時、当社住宅部門の優秀な大工に応援にお願いしたが、既に住宅以外の建築経験のあるものは皆無であった。

 時にチェーンソーを使い、大きな金物を使い、規矩術の通じない加工は全く受け入れられなくて、結局高卒大卒者の新規育成しかなかった。同時に当社で育成したベテランの木造担当者も住宅は作れない。

 住宅大工の華は建築規模ではなく、床の間、茶室、書院などの技術である。

 

3.ローカルだった非木造建築

 従来木造施設に熱心な地域は林業県など全国的にも限定されていた。従って木造公共の空白地帯も存在する。

  木造先進地区では、多くの場合専門工事業の技術者を有する集成材やLVLメーカー等が地元林業関係者らと連携して木造化を実現してきた。

 

4.当社の事例と全国の推計

 当社非住宅木造建築部門の仕事内容は、構造計算、施工図・加工図の作成、加工、金物の選択と手配、現地での建てこみなど。従業者数は製材集成材CLT製造部門を除いて約30名、年間大小約60件施工程度(九州内が80%)。

 

 当社の木造建築における全国シェアが数%と思われるので、これを基に大雑把な全国の推計をしてみると

 従業者数 当社 30人  シェア 5~8%  全国 400~600人

 事業件数     60件                   800~1200件

 

5.公共建築木造化推進法の成立で事情が変わる

 公共建築のうち低層は木造という方向性が示されて以来、「木造公共はローカル」と言うわけにいかなくなった。木造建築の空白地帯では、特に構造設計と施工図作成などの絶対的担い手不足が問題になるだろう。

 木造化推進法、あるいはCLTによる経済活性化、地域創生の試みは担い手不足が足かせとなり、国が思うほどの進捗が見られない可能性がある。

 本来は公共木造推進法制定時に、職種創設を含めた担い手対策を取るべきだったと思われる。しかし次世代公共建築研究会でも、「担い手」のことは議論されなかったようである。

 

6.オリンピックでも問題噴出

 この度国立競技場を初めとしていくつかの競技場で木造が採用された。如何に規模が大きかろうと、ゼネコンは元請けとして全体監理は責任を果たすだろう。

 しかしながら数千m2~1万m2という巨大な木造建築を、しかも衆人環視の中で、実際に木造躯体の材料、加工、組み付けを誰にさせるか大いに悩むだろうと思われる。その際の情報が決定的に不足しているようである。

 

 あるゼネコンは集成材メーカーをいくつか回り、当社にも来社された。担当の部長さんが「なぜ鉄骨のように工場格付けがないんだ?」と慨嘆された。

 あるゼネコンは木造専門工事業を直接選抜することを断念し、業界に詳しい商社に相談して、そこを経由して発注する予定と聞いた。これはこれでメーカー、木造専門工事業からすると残念なことだ。

 

7.CLTなど木材利用は経済対策、地方創生の目玉

 国のロードマップでは、10年後のCLT生産量を50万m3と見積もっている。一現場当たり使用量を100m3として、現場数5000件。その他製材、集成材、LVLなど合わせて、合計7000件になるものと想定できる。                                       

 非住宅建築の木造率は公共民間合わせて3%程度として、これが将来20%程度になるというのは想定できる。

  将来必要な技術者数は、現行の推測数500~700人に対し、その6~7倍の4000人程度、三千数百人の不足、と見込まれる。

 

8.木造建築の担い手を育成するポイント

 木造住宅の担い手の大工は基本的に充足している。それに住宅会社が企業存続を掛けて、大工工事業と連携の上技術向上や後継者育成に取り組んでいる。

 

 問題は公共木造を初めとする非住宅木造建築の担い手である。早急に担い手の育成を図らなければならない。

 そのポイントは、研修、資格付与、工場格付けである。

 参照すべきは「鋼構造建築工事業」の資格制度、工場格付け制度である。

 集成材、LVL、CLT、製材業界で連携してこの課題に真剣に取り組む必要がある。喫緊な課題であり、合意形成は容易であると信ずる。

 

9.なぜ新職種の創設が必要か

 鋼構造建築は一つの職種でカバーしている。そして格付けの基準を「建築面積」で区分けして、能力の審査と施工能力とを関連づけている。

 

 木造建築ではそうはいかない。住宅というのは特に我が国では伝統的審美感があり、細やかな細工や床の間、茶室、書院など面積などとは違う価値観で建築がなされている。これは尊重すべきである。全国民の半数以上が木造住宅に住んでいて、それを担う「大工さん」は一つの職種として既に確立し、完結している。これに新たな制度や資格試験、格付けなどで翻弄すべきではない。 

 一方別の観点から言えば、現行の「大工工事業」のままで資格制度、格付け制度を検討することになれば、検討の場に住宅関係者を除外することは出来ないだろう。

 

 先述したように技術技能は異なるのであり、まとまるものもまとまらなくなる恐れがある。住宅関係者とは別なメンバーで、木造建築の担い手育成の全く新しいシステムを構築すべきなのだ。

  新しい酒を新しい革袋に入れる、新しい担い手育成対策を新しい職種の中で構築すべきと提案するものである。

 

次回は、新しい「専門工事業」のイメージを記します。

 (代表取締役 佐々木 幸久)