メールマガジン第37号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(19)

  「熊本地震を受けて木造住宅を考える」講演会の報告

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 9月21日、熊本県庁隣の熊本テルサで開催された「熊本地震を受けて――今後の木造住宅を考えるシンポジウム」の講演会に参加した。

 最初に主催者「林業・木材産業活性化広報協力事業協議会」佐藤会長が、「報道は木造住宅が地震に弱く、被害を大きくしたと国民へ誤解を与えている。今日の講演会で勉強し、誤解を解き木材振興に努力を」との挨拶で始まった。熊本地震の影響からか約1000人は入る会場は満員に近く、その半分は一般市民が熱心に参加していた。(数年前の鹿児島県内で開催された川内原発説明会とは、参加者の真剣さで格段の違いを感じた。)

 

 来賓として新任の池田九州森林管理局長は「地球温暖化の影響から、最近は極端な気候と災害が続くが、森林の役割と効能と地震関連の知見を集め、科学的根拠をもって報道に対応しよう」と、先月の私のメルマガ原稿と同傾向の「報道への教育の必要性」を話された。

 宮田熊本県森林局長は「地震後の森林・林道・住宅復興に地元産材を活用した木造住宅建設への努力中の状況と、木住への関心が高まっているので、仮設だけでなく復興住宅でも木住建設促進を目指す」と挨拶があった。

  

 基調講演【1】東京都市大 大橋好光教授の「地震と木造住宅」では、1995年阪神大震災では15万戸の木住が倒壊し、死者6400人80%は木造住宅の下敷きで被災死亡した。木住の主な倒壊原因は、①壁量不足 ②耐力壁の偏り ③接合部の不良 ④材料への腐朽と白蟻の進行 ⑤不適切な増築・改築 ⑥無筋RC基礎等と、更に敷地の状況や地盤の地耐力及び液状化の影響等が大きいと説明が有った。

 現建築基準法の「大地震の基準」が300~400galの想定に対し、阪神大震災は800~1000galだった事から、兵庫県の研究施設で実物大振動台実験へ着手した。木住は地震動だけでは倒壊し難いが、柱の引抜き対策用の金具補強が重要で、耐力壁以外の雑壁効果も高い事が判った。2000年制定の品質確保法で「準耐力壁」が規定され、筋違の耐力不足だったとの調査結果から、木住の精度を高める設計法の必要性がある事が判明した。

 木造住宅の地震対策としては、①十分な壁量とねじれない壁配置 ②外れない接合部 ③適切な維持管理の必要性 ④構造性能を落とさない増改築 ⑤耐震性の高い基礎施工等の重要性が確認された。1996年、計測震度表示法が変更されたが、現場の認知不足が混乱を招いている。旧「震度7」は、新「6強」と「震度7」へ分割されているのに、現建築基準法で想定の300~400galは「震度6弱程度まで」で、「震度7では現基準法で倒壊の恐れが有る」との心配が有る。現基準の壁量では必要耐力の75%しか無く、「建物性能は自己決定の時代」と言われる様に、耐震7への対応には耐震常識の改善が必要だ。合板耐力壁の釘間隔(@150を@75)を倍ピッチで打つだけで耐力は1.8倍になる。現行の耐震基準3を最低基準と考える必要が有り、木造住宅業界側から「耐震4とか5」の提案をとされた。

 

 基調講演【2】九大神野達夫教授の「調査報告・地震の概要と特徴」では、熊本地震は「4月14日の前震」も「16日の本震」も震度7だが、マグニテュード6.5と7.3だった。

 布田川断層と日奈久断層帯の別の層で発生した、地震発生総数は多く揺れ方向も違った。益城町では1491galを記録。西原町では土地が2Mも沈下。中越地震で観測点の計測機器設置数を倍増したが、更なる地震危険予測地区の観測点の増設が必要である。

 

 基調講演【3】熊本県立大北原昭男教授の「木住の被害概要と要因」では、今回の地震全壊は8100戸、全壊率は熊本市0.8%で、益城町25.4%、更に益城町の一部損壊以上は95.1%に達した。同じ益城町内でも、地区と築年数と構法(バランスと方向)による被害格差が大きい。1981年の新耐震基準や、2000年阪神大震災後の基準改定による改善影響は出ている。

 枠組壁工法も鉄骨系でも被害は出ていて、伝統工法では接合部次第で被害格差が大きい。戦前の建築物件でも問題無い建物は多かったが、戦後の建築物件は地震に弱く、白蟻と腐朽被害による影響が大きかった。更に地盤の液状化による被害格差が大きく、新耐震基準決定以前の建物の被害が大きい。

 又熊本市内に建つ伝統構法では、戦前の建築物件には致命的被害は無かった。伝統工法での新築は現建築基準法ではアウトだが、熊本県では独自に伝統工法の再建基準を検討しリフォーム出来る様にしたいと提案された。(地域の特徴ある建物を残したいとの意欲が感じられた。)

 


 益城町近辺 営業本部 撮影

 

2016年4月20日熊本城Facebook
2016年4月20日熊本城Facebook

 

 続いてのパネルディスカッションには、田辺県住宅局長、熊本工務店NW久原英司会長、原田木材とランベックス社の原田実生社長が参加されての討論の要点は次の通り。

 田辺氏は「仮設住宅には従来の大手プレハブ全数採用から、4000戸のうち600戸(16%)を地元産木住で建設。復興用の自立木造住宅推進を考えて「モデル木住展示棟」を建築中。

 伝統工法による木造住宅の基準簡素化の検討を開始。地震対策には壁配置バランスが重要と判明。1983年設計士による図面確認の手続きの特例の設定と、又2008年に提言された4号特例再検討の結論を急ぐ必要が有ると要望が出た。大手プレハブ業者も最近は木造指向に取組んでいる傾向なので、地元県産材利用の復興住宅建設を推進する。

 木造は住み易さだけでなく、省エネ対策からも有利と情報提供すべきだ。大手プレハブ業者が宣伝している様な、「地震耐応力だけが家」では無い。熊本県は県産木材でも建築業者にも恵まれている状況を活かし、「同じ環境で育った県産材を使った住宅に住むのが、熊本県人としての理想」とPRし、耐震化対策への補助助成制度を検討するとの話も出た。

 


2016.8.10.熊本県仮設住宅見学会にて 営業本部 撮影
2016.8.10.熊本県仮設住宅見学会にて 営業本部 撮影

 北原熊本県立大教授は筋違構造式より構造用合板利用の壁工法が強いとの報告。

 久原氏は、プレハブ仮設団地での木造集会場建築は好評。地元小規模業者も月1の勉強会開催で耐震性基礎を情報共有し、木住の質の向上を目指す。設計図の構造計算をチェックしてから施工し、第三者の検査証明書の発行が理想だ。「地域の事情に詳しい地元企業での建設」を希望と話された。

 原田氏はプレカット加工累積61,000棟。CAD入力時に認証基準の全数チェックが目標。仕口精度の向上を図り、更に阪神大震災倒壊建物調査で93%が白蟻被害と知り、対策強化策に防腐用加圧注入缶を導入。現在3号機を設置し耐久性能対策を強化している。

 

 今回の地震ではRC造や鉄鋼造の被害も出たが、熊本は木造率が高く古い木住も多いため木造の被害家屋が多くなったのに、報道は「木造被害が多い」と取上げる。被災住宅の点検結果を見ると、リフォームや顧客の無理な要望を取り入れた建物や、壁量バランスの欠けた建物の被害が大きかった。

 現在プレカット加工では設計士の図面は無審査としているので、加工前に許容力や構造計算をチェックしている物件は15%程度。今後は構造計算のチェック率を高める計画だ。構造材の断面を大きくし、金具ジョイントの連結施工状況の確認が重要。最近人気のある天井高2700は、2階床の強度不足の原因となっている。

 今後は「安心安全チェック」を、顧客のオプション制から建築費総込み方式への改善が必要。「木造住宅は軽量である特徴が、耐震性には有利」とのPRが必要。地元木住業者から「木住の耐震等級5の提案」を出して欲しいとの要望が出た。

 古民家造り伝統工法の安全性基準案の作成をとの県への要望や、熊本地方に多い二間続きや広縁希望者へは、事前に構造計算のチェックを行い根拠の有る説明が必要。木住の地震対策へ、県行政と民間が協力しての取組み意欲が感じられた。参考にして鹿児島県の木材と建設業界の協力強化を期待したい。

 

参考資料

建築基準法4号特例建物」とは、建築士による設計図の申請不要との特例。

「1号特例」とは100m2以上、「2号特例」は3F・500m2以上、「3号特例」は2F・200m2以上の防火・準防火地区内の建物、「4号特例」は前号以外の2F・500m2以下の建物規定。

 4号特例とは、建築士の作図した設計図は建築確認申請では、構造計算や壁量計算の提出を省略できるとの規程。4号特例は地震による倒壊事故が起きる度に、「耐震性基準の野放しだ、間抜けな法律が被災者を苦しめる」と言われ、2008年に国交省も見直しの準備に着手したが未だ先送りされている問題基準。都合良く解釈できるザル規定との指摘。聞くほどに設計士側から、自ら改正運動に立上るべき課題だと思う。

 又、「耐震等級1」は、百年に一度起きる程度の震度6の地震を想定しての規程。「耐震2」は1.25倍、「耐震3」は1.5倍の耐震性能の規定だが、基になる耐震1が曖昧である。

 住宅性能表示制度(長期優良住宅制度)の対象建物は、「等級2か、等級3」が条件。出来れば「等級4」に1.75倍を、「等級5」は2.0倍基準を作るべしとの提案が出ている。

 他に地震関連では、1981年までは筋違寸法は30×90だったが、1階は45×90へと改定され、更に2000年に出角柱のホールダウン金具が義務化された。

 

 一般の木造戸建住宅では、耐震基準の事前審査は役所でチェックされておらず、個人責任となっている事を国民は知る必要がある。建主にとり家は大きな財産であり、地震に会えば命に関わる問題だけに、建てる前に次の「3点チェック」が厳守されるべきである。

科学的根拠の有る構造計算。②材料の強度基準をクリアー。③設計通り施工されているかを最低限確かめる重要性を、今回の熊本地震から学んで欲しいものだ。

 そして木材関連と木住業者は自分達の担当分野だけは十分にチェックし、「安心安全な木造住宅を国民へ届ける責任」を果さねばならない。木造住宅は地震や火災に弱いのではなく、国民一人一人が自己責任でチェックすべき事であり、「自分や地域の命や財産を守る」事が重要である。各人が確認する習慣が「地域財産である地場木材資源を活かす」事でもあると、今回の「熊本地震の講演会」は教えている。 

(西園)