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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(20)
「リオ・オリンピックの表彰台はイペ?」
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今回のテーマは、リオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピックが終わって直ぐに書く予定だったが、少し時間が過ぎたので皆さんの記憶から薄れているかもしれない。オリンピック競技の熱戦後に皆が注目した、「メダル授与式と表彰式台」を思い出して欲しい。私は表彰式を現地で見た訳ではないが、テレビに映し出された表彰選手達の足元の木目模様を見て、「おお!オリンピックのメダル授与式の表彰台が木製だ」と気付き驚いた。メダル授与の表彰台を木製にするとは、「日本人の感覚では、考えもしなかった材料選定だ」と感動した。私は表彰台の材種名を確かめた訳ではないが、「イペ材」だと推測する。その根拠はブラジルの「国花がイペの花」だそうだからだ。
今回のリオ・オリンピックではテーマに「環境との調和」が掲げられ、入場式では選手皆が手に「ポット苗」を持ち入場した。サンバのリズムに乗りながら参加選手全員が、メインスタンド横に設置された大型パネルに、ポット苗を喜々として順番に埋めて行く姿が微笑ましかった。その後あの苗木達は何処に植栽されたのか、知りたいものだ。
考えてみれば「ブラジル奥地のアマゾンは、地球最大の熱帯森林地帯」である。所が現状は「開発」の言葉に踊らされ、世界最大規模で森林破壊も進んでいる状態で、環境問題から注目を集めている。「地球温暖化防止対策」として、「石油石炭等の化石燃料の使用制限による二酸化炭素の抑制」が求められている。そのためには「森林破壊の縮小削減と、植林推進や木材資源の活用」がポイントである。
ブラジルは経済的には新興国だが、今回のリオ・オリンピックで掲げた「環境との調和」では、「先進国の低炭素化社会実現への努力不足を指摘するデモストレーション」となったと気付かされた。(オリンピック後に中国とアメリカが、急遽パリ協定COP21へ調印した事へも影響したのだろうと私は思っている。)
人々の多くは「環境破壊対策には、まず植林から!」と安易に考えるが、リオ・オリンピックでは「メダリスト達の栄えある表彰台に木材を活用」を考えた。ブラジルの「木材活用提案こそが、森林維持や二酸化炭素抑制運動には重要課題だ」との具体例を聞き嬉しい。日本でも多くの国民や行政は未だに「植林優先思考」に陥りがちだが、「森林は永続的に維持更新させるのが、二酸化炭素の削減の最終目標である」と、リオ・オリンピックは提案していた訳だ。
人々が最も注目する競技の勝利者達を讃える表彰台に、「環境と調和のシンボルとして木材を活用」した総合デザイナー達の「熱い思い」に拍手を送るべきだ。そして次回大会の「オリンピック開催旗」を引き受けた小池都知事と日本国民は、「環境との調和」と、「低炭素化運動と木材活用運動」も引き受けるべきだと思う。
ブラジル原産の「イペの花」は大輪で美しく、「イペ材」は丈夫で耐久性の高い材料として世界中で活用されている。鹿児島水族館横のデッキ等の景観材へ使用されているほどの「ブラジルを代表する木材」だから、私の「表彰台の材料はイペだとの推測」は間違い無いだろう。
日本人のメダリスト達や観客で、表彰台が環境保全のシンボルとしての木製だった事に気付いた人が何人居ただろうか。テレビアナウンサーや解説者で「表彰台が木製である事」を話題とした人は居なかったと思う。総合デザイナーの「環境保全と木材利用への思いを伝えて欲しかった」と残念に思う。
次回の東京オリンピックのメイン会場となる国立競技場は、隈研吾氏の設計を採用した。そして「日本的な伝統文化を伝える手段として、大量の木材が使用される」事は皆が知っての通りだ。だから東京での表彰台にも是非日本の木材を採用してもらう提案活動を始めて欲しい。木材案をもし採用するとしたら「樹種は何か。どんな加工木材」を利用するか。
私は「日本の環境問題と木材利用へ関心を持ってもらうために、再生産可能で蓄積量も多いスギ材が最適」と思う。そして高層ビルへの木材利用を可能とする、新しい木材加工製品として近年話題の、「スギCLTを採用すれば木材振興だけでなく地域振興にも環境保全にも大いに役立つ」し、話題にもなると期待する。
所で「イペの花」は黄色で華やかで、「情熱的な国のブラジルのイメージにピッタリの花」だが、我が国でも神戸市の「イペの並木通り」が話題だと聞く。
*鯉川筋のイペ〔中央区海岸通・海岸通1丁目~山本通3丁目・4丁目付近〕
鯉川筋は、かつてはブラジル移住のために多くの人々が歩いた道として知られています。「ブラジル移住100周年」である2008年に、ブラジルの国花であるイペが植栽されました。
※イペ:ノウゼンカズラ科の落葉高木。春にサクラのように葉に先立って鮮やかな花をつけます。花色は、赤、紫、白、黄などがありますが、黄色い花はブラジルの国花とされています。
鹿児島とイペの縁は「ブラジル国の郵便切手に、西郷隆盛がデザイン」されていて、シートには「西郷とイペの花がセット」となり販売されている。最近は鹿児島の「木市」等でも「イペの苗木」を時々見かけるが、庭園木として興味を持たれ売れているのだろう。先日孫と鹿児島平川動物園を訪れた時にも「イペの植栽」に気付いたが、「ブラジルと日本の花と木材利用促進」への縁を感じた。
耐久性が高くアウトドア用木材やデッキ材に採用されている「南米産のイペ材」を参考にして、国産木材の景観材料への利用が広がる事を期待する。所でインドネシア産「セランガンバツ」のアウトドア材への利用例を時々見るが、気を付けたいのは輸入木材の植生環境と日本は気象条件が違う事だ。生産国と同様な耐久性が期待出来るかは別問題であると考えた方が良い。
屋外で長期間木材利用するには、「施工時の防水対策と定期的な保全処置」を忘れてはならない。人間だって定期健康診断等の維持管理が重要で、同じ生き物だからこその定期的維持保全対策は絶対に欠かせないのである。
(西園)