メールマガジン第40号>CLT番外編

鋼構造オフィスビル床のCLT化

~スギCLT床二時間耐火構造~

一般財団法人日本木材総合情報センター「木材情報」2016年12月号掲載


1.はじめに

1.1 CLTの普及

 直交集成板(CLT)の日本農林規格が平成25年12月に制定され、本格的にCLTの建築材としての利用が促進された。さらに平成28年3月31日及び4月1日に建築基準法に基づき、CLTパネル工法を用いた建築物の一般的な設計手法等に関する一連の告示(CLT関連告示)が公布・施行された。

 ここ数年の目覚しい法整備のスピードに遅れることなく、技術開発のスピードをあげ、将来の木材利用拡大に向け、これまでに事例の少ない非木造分野への木材利用の可能性が求められている。

 本稿では、弊社における鋼構造オフィスビル床のCLT化の取り組みについて紹介する。

 

1.2 超高層ビルに木材を使用する研究会

 平成25年10月、CLTのJAS化の機運が高まる中、福岡大学工学部稲田達夫教授を会長とする「超高層ビルに木材を使用する研究会」(以下「研究会」)が発足した。

 研究会の趣意は、わが国では、従来ほとんど木質構造が適用されることのなかった非住宅中・大規模建築物のうち、特に超高層ビルにターゲットを絞り、従来コンクリートで構成された床・壁・天井などを国産の木質材料に置き換えることにある。木材の大量使用を促進し、木質材料の新たな市場開拓を通じて、国土保全と地球環境の両面からの問題解決を図ろうとするものである。 

 

2.鋼構造オフィスビル床のCLT化

2.1 新規市場の開拓

 研究会の試算では、非住宅非木造建築物の床に木材を使用できれば、表1のとおり丸太換算量にして1000万m3超の木材利用が新たに期待できる。

 まずは、非木造分野のオフィスビルの床に照準を合わせた。現行では床はデッキプレートが主流となっているが、4m以下のモジュールであれば木材で置き換えの可能性があるなどCLTを手掛けるには良い条件がそろっており、最終的に必要な条件となるのは、1時間耐火性能もしくは2時間耐火性能を有することである。

 

2.2 鋼構造建築物の床の木質化における利点と問題点

<利 点>

①建物の軽量化 

②建築計画上の自由度拡大

③テナント誘致の優位性

④製品化の容易さ 

⑤熟練工不足への対応

⑥森林資源の有効活用

⑦地球環境問題への貢献

<問題点>

①建設費用の問題

②構造性能の問題

③施工性の問題

④防耐火の問題

⑤遮音性の問題

などがあげられ、これらを一つ一つ解決していくことが課題となった。

 

2.3 林野庁委託事業

 平成26年度から28年度にかけて、林野庁委託事業を受け、鉄骨造とCLT木床との組み合わせについて、上記問題点に関する確認試験を行いデータの集積を行った。

・鉄骨梁とCLT床の接合法

・CLT床同士の接合法

・鉄骨梁とCLT壁の接合法

・試設計(設計図書、標準図等の準備)

・施工性の確認

・CLT床の耐火性能を有する被覆仕様の検討

・繰り返し荷重下被覆材の脱落防止、吊りボルトの熱橋について

・耐火被覆の仕様検討

(上面、下面、木口、鋼材接面)

・遮音性能の把握、歩行時の振動

・二時間耐火床システムの開発

 

写真1 施工性試験の様子

出典:自社撮影

 

写真2 被覆材取付の様子

出典:自社撮影

 

3.耐火性能確認試験

3.1 小型耐火炉による確認試験

 二時間耐火床システムの開発を目的とし、合理的な被覆材の選定を行うため小型炉を用いた要素試験について紹介する。

 

3.1.1 被覆仕様

 耐火被覆材の特徴を簡単に以下に示す。

 強化石膏ボード:内部に結晶水がある間は100℃近くを保持する性質を有する。ただし、内部の水分が蒸発すると脆性的な崩れ方を起こす。

 ケイ酸カルシウム板:強化石膏ボードと比較すると温度上昇が大きく見られるが、1000℃近い熱を長時間受けても形状を保持する性質を有する。

 ALC板(軽量気泡コンクリートパネル):性質としてはケイ酸カルシウムに近く、長時間火炎を受けても形状を保持する。力学的な性能としてケイ酸カルシウムより強度と剛性が高ければ天井材の吊り具の取り付け等は容易になるものと推察される。

 即ち、形状保持能力を有するケイカル板やALC板を加熱側へ配置し、温度上昇を抑制する効果を有する強化石膏ボードを内部層に配置することにより、より合理的に耐火性能を向上させることができるというものである。

 二カ年にわたる委託事業で行った被覆材仕様の性能についての一部分を紹介する。

ケイカル板仕様:ケイ酸カルシウム15mm +強化石膏ボード15mm ×3 枚貼り(計60mm)

ALC 板仕様:ALC 板36mm +強化石膏ボード15mm×2 枚貼り(計66mm)

ケイカル板仕様:ケイ酸カルシウム15mm +強化石膏ボード21mm×2枚貼り(計57mm)

ALC 板仕様:ALC 板36mm +強化石膏ボード21mm×1枚貼り(計57mm)

 

3.1.2 試験方法

 要素試験は,国立研究開発法人森林総合研究所の小型耐火炉を使用した(写真3)。加熱はISO834標準加熱温度曲線に従い、加熱時間は2 時間とし、その後は炉内に試験体を設置したまま、加熱時間の3 倍時間にあたる6時間放置した。

 温度測定は、試験体内部の温度をφ2.3mm のシース型熱電対で、CLT 裏面の温度を素線φ0.65mm のディスク付き熱電対で測定した。

写真3 小型耐火炉

出典:福岡大学工学部 倉富洋氏

 

3.1.3 試験結果

 ④の仕様以外は、二時間耐火性能を有している結果となった。時系列的には、①、②の結果を受けて、施工枚数を減らしたコスト低減の仕様案が③、④であった。④のALC板仕様では写真4のとおり一部に炭化が見られ、強化石膏ボード21㎜1枚では厳しく、30㎜は確保した方が良いと判断した。

写真4 ④のALC仕様でのCLTの焦げ

出典:福岡大学工学部 倉富洋氏

 

3.2 大型炉による下面載荷加熱試験

 小型耐火炉により良好であった仕様において、一般財団法人建材試験センター(以下「建材試験センター」という)で実施した下面載荷試験について紹介する。

 

3.2.1 試験方法

 試験は、建材試験センターが定めた「防耐火性能試験・評価業務方法書」の耐火性能試験・評価方法に基づく耐火性能試験。要求耐火時間:480分(加熱時間120分,試験時間480分以上)に基づき実施した。

 温度測定位置は、加熱側各被覆材間およびCLT パネル表面、CLT パネルから30mm 内部と60mm 内部及び裏面温度を測定した。

 載荷荷重:当時は基準強度が定められていなかったため、建築基準法令第85 条における床荷重事務所相当2,900 N/m2 とした。

 

3.2.2 試験体

 前述の小型耐火炉の結果を受けて、

 下面被覆材仕様(共通)

 ケイ酸カルシウム15mm +強化石膏ボード21mm×2枚貼り(計57mm)

 上面被覆材仕様

 A試験体:ALC 板36mm +強化石膏ボード15mm×2 枚貼り(計66mm)ALC:旭化成建材 ユカテック

 B試験体:ケイ酸カルシウム15mm +強化石膏ボード21mm×2枚貼り(計57mm)とした。

 

3.2.3 試験結果

 試験体A,Bともに、CLT加熱側表面温度は、200℃に達していなかったが、写真5のとおりCLT目地部分に焦げが発生し、不合格と判定された。

 焦げの発生した部分は、CLTに直交して配置された内側の強化石膏ボードの目地部分でもあった。小型炉との相違点を考えると、小型炉では目地を設けていなかったこと。載荷による曲げ変形に強化石膏ボードが追従していなかったためなどと推察された。予算の都合で、この解決までは至っていないが、小型炉では目地部分を設けて試験を実施する。目地部分の処理も検討するなど今後への課題を発見できた。

写真5 ○印はCLT目地部分の焦げ

出典:自社撮影

 

 これらの経緯を経て最終的に、

 上面被覆材仕様:ALC 板36mm +強化石膏ボード15mm×2 枚貼り(計66mm)ALC:旭化成建材 ユカテック

 下面被覆材仕様:ケイ酸カルシウム15mm +強化石膏ボード15mm ×3 枚貼り(計60mm)

の組み合わせにおいて、床二時間耐火構造の仕様を確定し、試験を実施した。下面加熱試験の判定結果を表2に示す。 

出典:建材試験センター 矢垰 和彦氏

 

4.終わりに

 平成28年5月24日付で「床二時間耐火構造」の国土交通省からの大臣認定を取得することができた。ここでは、床二時間耐火構造の大臣認定取得までの取り組みとして、結果が伴わなかったものも紹介させていただいた。

 CLTに限らず、木質材料の今後の需要拡大には、防耐火についてどのように性能付与するか避けては通れない課題である。試験成果を共有し、業界の発展に繋がればと願う。

 来年には、鉄骨フレームに床二時間耐火構造のCLTを採用した全国初となる中高層ビルが九州に誕生する。稲田会長をはじめ超高層ビルに木材を使用する研究会会員各位のご尽力に謝意を表する。

 末筆ながら、超高層ビルに木材を使用する研究会に対する関係省庁のご支援とご指導の賜物と深く感謝している。

 

村田 忠(山佐木材㈱ CLT部 部長)


引用文献

1) 稲田達夫「建築分野における木材活用のシナリオ」」『木材工業』Vol.66,No.12:572~576頁、2011

2) 「鋼構造オフィスビル床のCLT化」(木質耐火部材開発)研究成果報告書、平成27年度 林野庁委託事業 CLT等新たな製品・技術の開発・普及事業(木質耐火部材開発)