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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(22)
「大分県の県産木材利用の先進性」
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平成29年正月の私は、大分市に住む次女宅で孫達と過ごした。
孫達が元旦に、一昨年10月に完成した、OPAM(大分県立美術館)の見学へ行くと言うので私も付いて行った。
OPAM(大分県立美術館)
この数年の大分市街地開発は、計画的に都市整備が進められていると実感できるが、特に駅前地区の整備は、昨年の22階建てJR大分駅の完成や駅前広場の一新等で、見違える様に綺麗に判り易くなっている。以前から大分市の目玉的建物だったオアシスビル(NHK大分放送局や劇場や結婚式場等も入居)に隣接し、今回一体的に建築計画された「OPAMビル」は、坂茂建築設計が設計し鹿島建設が建築しただけに、建物だけでも見学価値が有る。
坂茂氏は東京都出身の60才、現職は京都造形芸術大学環境デザイン科教授だ。阪神大震災後に「長田区・紙の協会」や、東日本大震災後にも女川町の「コンテナ多層仮設住宅」等の設計でも知られ、フランス芸術文化勲章も受章している。大分との縁は、氏の若い時代に大分県出身の磯崎新アトリエで修業した縁から、準地元関係者と思われているのだろう。
立地場所の寿町は市街地の中心部で、大分駅からはガリレア竹町商店街等のアーケードの続く繁華街を通り抜け、徒歩15分程度の便利な場所である。オアシスビルとOPAMビルは、道路を跨ぐ80Mのペデストリアデッキで連結されているから、雨の日でも傘無しで大分駅からも行き来が出来る。
広い道路に面した3階建ての建物外観はガラスのカーテンウォールで覆われ、1階のミュージアムショップと2階のカフェ等の「1・2層の吹き抜けアトリューム」の内部が見通せ、明るく感じの良い16,000m2の建物だ。地域規制基準は商業地域で準防火規制地域なので、鉄骨一部RC造で建築されているが、外から見える3階の窓内側に組み込まれている格子状の木材骨組構造が目立つので、デザイン性を考えての耐震構造補強材である事が判る。
鋼鉄製やRC造の耐震補強材が丸見えだと、如何にも補強材に取り囲まれていると息苦しく感じるものだが、木製の補強材が利用されると見るからに柔らかく、デザイン的にも優れている。他の建築物でも今後は大いに参考にして活用して貰いたいものだ。
大分県の担当者に聞いたら、「325×330mm角の格子状の垂直利用部分の木材の中芯に鉄骨を入れて、対火対策から被覆材料として木材を利用している。木材は全て大分県産材を利用したかったが、耐震設計の構造計算をクリアーするために、縦横利用の構造強度の必要な部分だけは長野県産カラマツ集成材を使用している」とのことだ。外観からは大径の構造用集成木材を使用している様に見えるから、「木材振興県としてのPR」にも大いに役立っている。
筋違部分の240×240角材には大分県産スギ材を使用している。大分県材だけにこだわらず、強度確保の必要な部分には長野県産カラマツ材の利用等と、少しでも国産材を利用しようとした配慮も参考とすべきだ。
平成22年、国は「公共建築物における木材利用促進に関する法律」を制定し、木材利用拡大に取組んでいるが、大分県内の各市役所でも「市の公共建築物に、木材利用を進める基本方針」が制定されていて、木造建築事例が拡大しているそうだ。OPAMビルもその一環として設計され、大量の国産材が採用されている。
外観から見える部分だけで無く、建物内の床や壁や天井の内部内装材にも「大分県産材のスギやヒノキ」が品良く上手に使われている。天井材に大量の杉材が使われているが、特に3階天井には「別府市特産品の竹加工技術を参考としての組屋根デザイン」が採用され、100×180角の日田杉集成材が使用されている。木材を利用した天井格子は圧迫感が少なく、建物に落ち着きを感じさせている。
更に家具類にも上手に木材をデザインした製品が多く使われていて親近感が有り、ちょいと座りたくなる感じがとても素晴しい。建物も家具類でもデザイン力の重要性を、私達に良く判らせてくれる建物だ。OPAMビルの総木材利用量は360m3だそうだが、「大分県はおんせん県だけでなく、木材利用の先進県を目指して、文化施設に木材を積極的に活用している」との思いが伝わって来る建物だ。
JR大分駅前広場のバス昇降場の長いキャノピーの天井板も、地場産スギ材が大量に利用されている。
所で駅前広場に建っている大友宗麟像の横には、フランシスコ・ザビエル像も今回移築されて、「豊後の国は西洋文化を早くから取り込んで来た」との歴史を、市民だけでなく旅行客にも伝えようとしている。
考えてみればザビエルは、薩摩藩出身のヤジローに案内されて鹿児島へ上陸し、日本での滞在日数では一番長い期間を鹿児島で過ごしたのに、その記念碑的な石造建築物だった旧ザビエル教会は、歴史的な価値も高く威厳も有ったのに、更新新築の際に県内に移築場所を確保出来ず、今は福岡県宗像に再建されてしまっている。
古くて歴史的価値の有る建築文化財を、鹿児島では守る事の出来ない例が多い事が残念である。(現在取り壊し中の鹿児島銀行本部の建築でも同じ愚を犯していると聞き、鹿児島を代表する銀行でも簡単に歴史を捨てる鹿児島県民性とは、何故なのだろうかと考えさせられる。)
駅の横手に在るバスターミナル入口には、木材業界の新技術開発商品として話題の「CLTを利用した木造バス停留所」が置かれて多くの人に利用されていた。半年前まで駅前広場に配置されていた「木造CLTを採用した観光案内所」は、地域整備が完了したとの事で撤去されていたが、惜しい気がした。所でバス停留所や駅前広場の木材を利用したキャノピーの建設は大分市が建てたのだそうだ。同じ県庁所在地の鹿児島市でも、もっと木材活用に取組めないものだろうか。
所で、平成2年に磯崎新氏がデザインした湯布院駅は建設当時も、おしゃれな木造施設として大いに話題になったが、今でも旅情を感じさせる駅舎建物だ。最近改装された日田駅も、また日田市民交流会館「パトリア日田」でも大量の木材が採用され、伝統を大切にした落ち着いた街の雰囲気作りに貢献している。大分県豊後大野市には一昨年、2階建て木造消防署も建築されている。
パトリア日田
大分大学の学生交流会館にも、宮崎大学の学生会館にも瀟洒な木造施設が新築されていると聞く。熊本空港にも熊本駅にも、鹿児島県内の同類施設よりは、「話題を集めている木材利用建築物」が数多い。熊本地震後の復興住宅建設でも熊本県は、「逆にチャンスと捕えて、地震に強い木造建築物を見直す機会として取り組んでいる」と聞く。
「鹿児島県も木材振興には努力している」との説明は聞くが、話題になる様な大型の木造建物は、鹿児島県内にも鹿児島市内にも如何にも少ない。もっと県民が隣県との格差を話題とするべきだと私は考える。
追記:JR大分駅屋上の「スカイスパ」は21階が露天風呂になっていて、正月は少し風が冷たかったが、西の久住山へ沈む太陽を眺めての眺望は素晴らしかった。大分の温泉は別府以外も多士済々だが、大分にまた新しい名物温泉が誕生したと言える。
駐車場代込の料金@1500も損した気にならなかった。
(西園)