メールマガジン第42号>社長連載

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★【社長連載】 Woodistのつぶやき(9) 

 「我が国林業七不思議(解題編)再造林コストについて(承前)」

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私が思う「我が国林業七不思議」

  • 不思議その1.それでもなぜ皆伐するの?
  • 不思議その2.山元収益が確保できるくらいに丸太価格を上げられないの?
  • 不思議その3.再造林率を高める方法はあるの?そして実際にそれは可能?
  • 不思議その4.同じ山を長伐期、短伐期と簡単に切り替えられるものなの?
  • 不思議その5.他の林業国ではなぜ再造林コストが20万円以下なの?
  • 不思議その6.他の林業国ではなぜ伐採費が2000円以下なの?
  • 不思議その7.なぜ我が国で他の林業国並の低コスト林業が出来ないの?

 再造林コストについて(承前)

 我が国林業にとってまさに喫緊の課題である再造林コスト。今回は前々回に続き、取り上げます。カナダのデータは紹介しました。では我が国の現状はどうなのか。これは現場での現実のコストと言うよりは、国の「標準単価」と呼ばれるデータを比較対象としたいと思います。


日本カナダ比較 再造林コスト 

  平成26年標準単価 カナダバンクーバーで聴取
 地拵え 38万円      
苗木代 34万円 3000本植栽 10万円 植付費とも1000本植栽
植付費 30万円      
下刈り 69万円 5回実施 4万円 2回実施
除伐 30万円 2回実施 4万円 1回当2万円
間伐 54万円      

 

カナダの林業

カナダは経営森林の殆どが州有林です。細かい仕組みは知りませんが、製材木材業者は州政府の募集に応じて、入札で広大な林区の長期伐採ライセンスを取得します。その森林を長期(例えば15年)にわたり伐採から植栽、育林まで同一業者が行います。長期にわたって事業計画を立てられますから、苗畑なども自ら作ります。

 なお伐採ライセンスの入札の際、立木価格は木材の相場や景況により調整されると聞いたことがあります。昔その価格を聞いたとき、余りの安さに驚いたことがあります。とはいえ、伐採後に木材会社が再造林まですべて行って州政府は特に何をするわけでもないようなので、ある意味当然かもしれませんが。

カナダWFPの苗木工場 年間3000万本の苗木生産

苗畑の女性所長さん 品種の専門家とか ポット苗

 

地拵えについて

私たちのカナダでのヒアリングでは、地拵え費という項目は費用として数字が出てきませんでした。この時の回答者は上の写真の苗畑を運営している大規模林業会社のベテラン技術者だった人であり、費用が発生しているのに表記洩れ、と言うことは考えられません。

 恐らく本当にコストが掛かっていないのだと思います。

 事業者は伐採時に植栽時のことを念頭に置いて作業する、そして伐採後に日を置かず植栽すれば、要らないものなのかもしれません。

 またヨーロッパで実際に見たのは、伐採後に残材から薪を採取しています。通常の感覚で言えば、山に木材を残すのは誠に勿体ないので、何かに利用するはずです。

 

 以前見ましたが、我が国森林の皆伐跡地はまさに乱暴狼藉とも言うべき残材の山で、異様な感じを持ちました。ただ最近ではエネルギー利用が進んできたことから、大部改善されただろうと思います。

皆伐終了後の林地残材 十数年前

 

苗木+植付費について

日本64万円、カナダ10万円。6倍以上の差。

 但し我が国では3000本植栽、カナダでは1000本植栽です。

 従って1本当たりで言えば、日本210円、カナダ80円、差は2.6倍になります。1000本植栽のカナダでも50年くらいで皆伐して、収穫量は数百m3有ると聞いています。カナダの木材が特に品質が悪いとは聞きません。 

 我が国でも、植栽本数を減らせば数量に比例する分は単純に低減されることになります。

 1本当たりのコスト差については、苗木代、植付費と分けて検討してみるべきでしょう。

 

下刈り費について

 何と17倍の差で、金額では65万円の差。コスト差の最大の項目です。

 回数が5回と2回。                                                 

 そして1回当たりの費用の違い。我が国の場合、5回実施で総額69万円、単純割りで14万円で、一方カナダは2万円。

 

 植栽本数が少ないことは下刈りコストに同影響を及ぼすのか。あちこちで問い合わせたのですが、大方の人は「植栽本数を減らすと陽が入り下草が繁茂して、下刈費が増える」と言います。

 

 ただ一人高知県庁小野田氏からは「下刈りで手のかかるのは樹木周辺であり、植栽本数が少なければ下刈り費は低減する」との意見を得たことがあります。それだとカナダの低コストにいくらか理解への道が開けますが、手が掛かるのだったらカナダの現状に対してますます理解が遠のきます。

 

 故泉忠義氏は「壺刈りにすることでかなりコストダウンが出来る」と言っておられました。周到な氏のことですから、どこかにそのデータを公表しておられると思います。

 

 回数については、下刈り回数を減らしたら重大な不利益を生じるものなのでしょうか?1回当たり14万円を減らせないものならば、つる切りだけはきちんとやった上で、回数を減らした場合のコスト対収入比較をしてみたら如何でしょう。まして人手不足と言うことですから、試してみる価値はあるかもしれません。

 

 (代表取締役 佐々木 幸久)