メールマガジン第45号>社長連載

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★【社長連載】 Woodistのつぶやき(12) 

 我が国林業七不思議(解題編)

 

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私が思う「我が国林業七不思議」

  • 不思議その1.それでもなぜ皆伐するの?
  • 不思議その2.山元収益が確保できるくらいに丸太価格を上げられないの?
  • 不思議その3.再造林率を高める方法はあるの?そして実際にそれは可能?
  • 不思議その4.同じ山を長伐期、短伐期と簡単に切り替えられるものなの?
  • 不思議その5.他の林業国ではなぜ再造林コストが20万円以下なの?
  • 不思議その6.他の林業国ではなぜ伐採費が2000円以下なの?
  • 不思議その7.なぜ我が国で他の林業国並の低コスト林業が出来ないの?

今回は次の二つのテーマを考えることにします。

 

不思議その1.それでもなぜ皆伐するの? 

不思議その3.再造林率を高める方法はあるの?そして実際にそれは可能?

 

 現在皆伐が非常に盛んです。ほんの十年前に主流であった間伐主体でなく、こうも皆伐志向へ急激に変わったのはなぜでしょうか。

 

 私はその理由を次の4点によるものだろうと考えています。

1.戦後植林してきた森林が成長し、「伐期が来た」と発信され始めた。

2.価格はともかく需要は旺盛である。

3.山主が高齢化し、後継者もないこととて経済性を無視しても早期に換金したい。

4.素材生産業者が意欲的である。

 

一つずつ検証してみましょう。

 

本当に伐期が来ているのか①コストの観点

 木材はある程度大きく(単木材積が大きく)なることで伐採コストが大きく下がります。現在の単木材積の水準では、皆伐しても十分な収益を得られません。このことは本シリーズ7号で述べましたので、こちらをご覧下さい。

 

本当に伐期が来ているのか②材質の観点

 木材の材質は一般的に植えてからの年数がたつほど(樹齢が高いほど)良くなります。カラマツは若齢時には特に欠陥が現れ、年数経過時にその欠陥が消えて強度も高い良材になっていくことが産地では広く知られています。スギはおとなしい木なので若齢時にもそり曲がりなどの欠陥がカラマツほどには現れませんが、それでも強度が出ないなどある程度年数が経った方がよいことは概ね同じなのです。

 私たちは平成元年以来、我が国で初めてスギの構造用集成材を実用化しようと試みました。その時に樹齢ごとにスギの材質を調べました。この時熱心なご指導をして戴いたのが中村徳孫先生でした。

 (中村徳孫氏 故人  元宮崎大学教授、同大学農学部長。

     木材材質、乾燥、機械加工などの専門家。人間学の大家でもあった)

 

 この時の調査で、40年生、55年生、65年生、80年生の丸太を購入、同じ寸法に製材、乾燥して材質試験(たわみ、曲げ)をした結果、見事に年数による傾向が出たのです。弱いと言われるスギでも80年生にもなると平均ヤングは90にもなり、このまま100年生ともなればスギとは思えない高い強度性能が得られるだろうと十分に推測できました。

 「スギは弱い」と言われていますが、現在の40年生程度ではスギ本来の実力が発揮できていないと考えられるのです。

 

なぜ需要が旺盛なのか

 永年続くデフレに対し、第二次安倍内閣は強力な対策を行い、その結果円の為替相場が大きく変わりました。私たちには大変良い方向に変わったと感じられました。1ドル120円になることで木材輸出の試みが始まりました。建築部材の国産材化への取り組みが非常に盛んになってきたのも、為替事情が現状のようになったことに大きく与っていると言えましょう。

 今また若干円高に振れ、100円、110円になっていますが、苦戦ではあっても一旦始まった国産材化への流れが変わることは無いでしょう。

 ただしこれが以前のように80円という超円高にもなると事情が全く異なります。輸出どころか世界中から木材が我が国に流入し、国産材ブームは大きな打撃を受けるでしょう。

 

山主の高齢化

 私たちの住む地域では既に都市部へ移住し、持ち主が地元にいないまま放置されている、もしくはされようとしている山がかなりあります。時々立木を底地の山ごと買ってくれと頼まれることがあります。また役場に山の寄付を申し入れることもよくあり、ただ受け入れ体制が整わず断っているということです。

 伐採時期に来たと思われる今、子供たちはよそに行き帰ってくる見込みもない、自分も高齢になり、ここで伐ってお金に換えて生活の足しにしよう、と考えるのは無理もないことで、それを責めることは出来ません。

 子供たちが山への関心が全く無いとすれば、費用のかさむ再造林が行われないこともやむをえないと考えられます。林業が儲かる儲からないとは次元の違う、大きな社会構造の崩壊を目前にしているものと考えられ、別種の対策が必要になってきます。

 

素材生産業者が意欲的である

 素材生産業者が意欲的で事業に熱心であれば当然山主に働きかけ、伐採活動は盛んになるでしょう。

 なぜ意欲的になってきたのでしょう。それは林野庁の人材育成(緑の雇用など)や、高性能林業機械の導入促進策が功を奏し、林業事業体の力がついてきていることが上げられます。

 もう一つ考えられるのが、偏りはありますが一部事業体ではかなりの利益が出るようになったと考えられるのです。

 木材の径が太くなり、つまり単木材積が大きくなってきたので、伐採コストがかなり低下しているはずなのです。しかし伐採費として通用している価格は従来の、単木材積がより小さかった頃から続いている価格に決まっているので、そこに差額が生じていることが考えられます。

 

単木材積に応じた伐採歩掛かり表を作成する

 単木材積が大きくなれば伐採コストは下がる、であれば単木材積ごとの伐採費歩掛かりを作成、伐採予定の山の平均径級から平均単木材積を算出、それに基づく伐採費、そして立木代を行政が指導してあげられれば山元の収入はもっと増大するのです。

 

再造林の問題

 鹿児島県の再造林率は全国で最低らしい、最近私の耳にも入り、私の耳に入るくらいですからかなり多くの人に知られるようになりました。鹿児島県内でもこの不名誉に心を痛める人もいて、次第に危機感がささやかれています。

 事実再造林が行われなければ次第に森林資源は減少し、今のような旺盛な皆伐が行われていけば、資源枯渇の恐れもあります。大隅地区は都会流出者が多く、放置林になっている山林も多いのです。優良な山が伐られ、手入れもままならない放置林のみが残る、

 当社は使用する木材をすべて持続可能な森林由来のものにしたいと考えています。今2件結んでいる「丸太供給協定」では、間伐材もしくは皆伐の場合再造林することを条件としています。国有林のシステム販売制度による調達分も含めれば、購入する木材の60%以上が持続可能な森林からの調達になります。県下すべての買い方がこれを条件にするようになれば、再造林問題は解決するのでしょう。少しでもこの考え方を広めていきたいと考えています。

 再造林には多額の資金が必要です。そして多くの人手を要するので大々的に行うのは無理があります。私は皆伐+再造林半分、間伐半分くらいが今の林業の実力ではないかと考えています。              

 (代表取締役 佐々木 幸久)