メールマガジン第45号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(27)

 「不動産投資は「新築」「木造」「3階建て」アパートで始めなさい!」を読んで

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 一昨年に改正された「相続税への課税強化」への節税対策からか、「賃貸住宅建設数の増加」が顕著である。逆に肝心の賃貸住宅の利用数の基礎となる「我が国の総人口」は、10年前から減少に転じ高齢者人口割合は年々高くなっている。そして賃貸住宅の利用者として期待される、勤労者や若者の人口割合の低下傾向は止まらない。賃貸住宅の供給増に比べ、需要候補の人口が減ると言うギャップは益々大きくなる訳だ。

 私には今回の課税強化は、「日本の人口問題」に反する事を証明していると思えてならない。先日の新聞には「鹿児島県の空き家総数が10万戸を超える」と紹介されていたが、本当の需給バランスの内実はどうなっているのだろうか。

 現在、木材業界の端クレに関係している者として、木材利用の主需要先である「建築件数が増加する」状況は歓迎すべきと思うから、波風を立てる様な発言は差し控えるが、しかし問題点の整理は必要であろう。

 

 

 先日本屋を覗いていたら、「不動産投資は「新築」「木造」「3階建て」アパートで始めなさい!」(田脇宗城氏 著)という刺激的なタイトルが目に付いたので釣られて買ってみた。

 日銀のマイナス金利政策を取上げるまでも無いが、現在は超低金利時代だからこそ、庶民の投資として、「木造・3階建・新築のアパート建設を推奨する」と執筆者は主張している。著者の期待に応えて「木造・3階建・新築の物件」が数多く建つなら、「木材需要量が増える」事に繋がるので、林材業界には有難い話である。

 しかも現状の「3階建賃貸住宅の受注業者」は、大半が大手プレハブ業者やRC造指向の建築者が占めていると思われるだけに、「木材需要の奪回策」となる嬉しい話である。私の今回の読書感想文が、賃貸住宅を検討している人に幾らかでも参考となり、結果として木材需要拡大に役立てばと期待して、紹介文を書いてみる訳である。

 

 最近の賃貸住宅業界の話題として、Airbnb(世界最大の民泊予約サイト)が快調な事や、日本でも民泊施設の営業条件の緩和決定等は明るい材料とされる。外国人旅行客が急増し、都市部では出張族の宿の手配にも影響していると聞くだけに、日本でもこの機会を活かし規制緩和され民泊施設の開放が進み、地方の林材業界へも良い影響の及ぶ事を期待する。

 著者は「素人が不動産投資へ取組む」場合は、中古物件の購入による取組み開始は危険が伴うから避けて、出来るだけ新築木造物件で取組むのが無難だとアドバイスする。立地条件と入居率等を丁寧に試算検討するならば、ハイリスクな株式投資等よりは不動産の方が粗利率の計算は確かな様だ。

 もしRC造で建設すれば、15年周期で大型補修費が必要となり、その上に経年劣化も大きく、最後の解体費が思いの外高くつく。投資開始の時に借りる銀行の融資条件は、「土地+建物の合計積算評価法の担保力」で決まるから、入居条件の細かな収益性までは確認されない場合も多く、銀行の融資が決まったからと言って、肝心の回収率が保障された訳ではない事に注意が必要である。

 中古物件の紹介に不動産屋が関わると、斡旋手数料の問題が出てくる。不動産屋が「賃貸住宅の管理」まで請負う場合も多いので、「家賃の収入保証」が付いていても「管理会社の手数料の確保」が優先されてしまう場合も多いと考えておく必要がある。

 

 「木造・3階建・新築の賃貸住宅」なら、部屋数が多く採り易い事が最大のメリットである。最近はオリンピック特需の影響等も有り、RC造や鉄骨造建築の資材等は値上りしていて、建築総コストは急騰している。ゼネコンの手持ち仕事量は多く、安値競争してまで次の仕事量を確保しなくなっている状況も理解しておくべきである。

 一方、木材は値下がり状況が続いていて、地方経済の低迷の影響もあり、地方の木造住宅の建築コストは弱含み状況にある。又銀行の融資条件は新築物件が断然有利で、中古物件の購入の場合の融資条件よりも利息率は低くなる。投資は資金の早期回収と安定性を重視すべきであり、建物評価基準は年々低下する事も考えておく必要がある。

 

 木造建築は間取りの自由度が高く、変形した土地では木造が有利に設計し易い。特に三角土地の場合は、四角な土地よりも取引価格が安い例も多く、その地に木造新築を建てるなら、効率的な設計の賃貸建築が建設し易い。

 法定減価償却年数木造で22年RC造は47年と規定されているので、減価償却年数が長いと建物が丈夫で負担が少ないと単純に考える人が居る。しかし実は年間経費として木造建物の方が、毎年の経費算入が大きくなる事から、逆に節税に繋がる事になる。更に22年目での建替え更新も可能となる訳で、「スクラップ&ビルドを考えれば、木造賃貸住宅の経営の妙味」と言う不動産プロは多い。長寿命の建物は、生活スタイルでは時代遅れになる可能性が大きく、入居条件の時代変化に遅れる原因にもなる。

 賃貸住宅では1階の入居希望者は少なく、空室率が高くなる可能性が大きい。高い土地代に負担割合が小さい建物を建てたい時は、建築し易い木造3階建が有利である

角部屋の入居率が高い実績が有り、角部屋を多く造れる賃貸条件が経営では有利となる。特に2階以上の角部屋の家賃は、中央部に有る部屋より割高な設定が可能となる。

 立地条件は、都会では駅から15分の距離が有利と言われるが、地方は車移動が多く駐車場付きが条件となる等の、各地区特有の優先条件を良く調べて取組む必要がある。

 賃貸住宅の経営では土地の最大性能を引き出す事が肝要である。都市計画地域内の土地は、建蔽率と容積率が設定されているから、2階建しか建てられない土地や、3階建に適した土地があり、容積率300%以上の土地なら「4階建て以上の建築」が有利と言われる。

 

 不動産投資では事前にクリアーすべき課題が数多くある訳だが、又一方では「木造3階建て」が少ない現状は、「何故なのか」も考える事も重要である。

 3階建の建築には建築確認申請が必要となり、更に「地震と防火対策」から同時に構造計算の作成が義務付けられている。具体的例ではサイディングの最低厚基準は、2階建なら14㎜厚で良いが、3階建では16㎜厚以上と決められている。厚手のサイディングを採用すれば、防火性能の良さを逆にPR出来るし、わずかな壁厚の差でも見た目の豪華さが増すので、活かせば有利な賃貸条件と出来る。

 所で一昨年から、「延床面積3000m2以下なら、木造3階建の学校建築も可能」と、大幅に建築条件が緩和されている。しかし緩和情報が広く行き渡っていない問題がある。

 全国で木造消防署も建築され始めているが、防火対策をレベルアップすれば、木造でも思いのほか規制緩和が進んでいる事実も知って欲しい。

 

 木造3階建のデメリットも述べると、構造計算書を添付した確認申請の提出が義務付けられていて少し手間が掛るが、逆に「有利な入居募集条件」としてPRする事も出来る。

 防音性能に配慮し、定期的にシロアリ予防を施工すれば、財産価値の維持は出来るし、有利な賃貸住宅の条件整備として活かせる事にもなる。

 大手住宅会社は2階建物件を優先的に営業しているが、それは申請手続きが3階建物件よりも簡単だからと言われている。賃貸住宅のオーナーの立場からすれば、木造3階建も検討して貰いたいはずだ。

 

 入居率予測と入居促進費(契約時に1ヶ月分が敷金相場)は建築前に検討すべき課題である。家族向け住宅は40㎡以上なら、不動産取得税の節税が出来るが、単身者向けの狭い部屋では税金は割高となる。家族向け用や地方の物件では駐車場付の要望が多いが、銀行の融資対象とならない場合が有る。

 子供の居る家族向け用では、隣室との騒音対策からRC造が好まれ、一戸建への入居希望が多くなり、更に修繕費が嵩む事も考えておく必要が有る。単身者向け賃貸住宅は狭い土地でも建設可能だが、入居者の入れ替わりが激しく、家賃の滞納も起きる可能性も考えておく必要もある。

 「家賃相場は入居率75%」が検討ラインと言われ、又単身者向けの利用者では、20歳後半から30才前半の居住率が安定しているとのデーターがある。又 コンビニやスーパーやコインランドリーが近くに在り、治安が良い所が好まれ、部屋は暗くなりがちな東向きより、明るい西向きの入居率が高い事も納得出来る。学生向け用では、社会環境で入居率の変動が有る事を考え、長く住んで貰う条件を整える事が重要である。又共用部分としてのゴミ捨て場・駐輪場・エントランス周り・廊下を綺麗にして、清潔感を保つ等の維持対策への要求も大きい。最近は防犯対策から、ウェブカメラの設置やオートロック付き等も重要視され、又バスとトイレは分離式が好まれ、独立式の洗面台やウォークインクローゼット、更に大きめシューズボックスや浴室乾燥機と室内用物干しの設備も入居条件の要望として増えている。

 2口ガスコンロ(高齢者向けにはIHコンロを)や広めの収納装置や宅配ボックス、更に共用部分に自動販売機の設置による差別化も話題となっているそうだ。

 建物の寿命を考慮すると共に、10年先までの時代を先取りした設備投資をしておく事が、トータルコストとしては結果的には割安となる様で、インターネット回線や温水洗浄便座等は、まだ後付けでも良い設備との事だ。

 

 家賃の設定基準は「新築後3か月で満室となる」のが最も適正だそうだ。短期間で満室となるのは料金設定が安過ぎで、もし高過ぎる様な時は状況を見て下げる事が出来る。途中からの値上げは難しいと考えておくべきとの指摘は、確かにそうだろう。

不動産は購入前に、北側道路(南側道路が陽当り良好)、前面道路4M(広いと高層建築が可能に)、角地(角地緩和と建蔽率の10%上乗せ規定がある。土地相場は高くても、通りで目立つ効果は大きい)等については、十分に点検しとくべきである。

 また古い建物の建っている土地は、解体費を差引き取引する必要があるが、逆に買い得の場合もあるそうだ。

 銀行から有利な借入条件を受けるには良い紹介者が居ると優利で、銀行間の融資競争を活用すると共に、銀行毎の特徴(不動産の担保力評価)等も下調べしておくべきとは指摘通りである。

 

 賃貸住宅の経営は1棟目が順調に回転し始めたら、次の2棟目へ取組んだ人の成功率が高い。低金利時代こそが当にチャンスで、新築物件で事業に取り組む方が、銀行融資も30年条件や低金利も可能となり、賃貸事業での成功確率は高いとの事だ。

 好立地の格安土地に知恵を絞って、ローコストの木造新築で外観のデザイン性も考慮し、時代の要求に合った設備機器類を備えるなら、今が賃貸住宅の経営に取組むチャンスとの事だ。今後の人口減少時代に向けても、「同業者との競合に如何に勝ち残れる対策を考えるか」だと著者は言うが、何の事業分野でも肝は同じ事である。

 

 指南書を読み終えて、「新築・木造・3階建て」は有利な投資とのアドバイスだが、目標の結果が出るまで20年は掛る様だから、既に74才の私には「残念ながら、今からでは遅い」事も教えられた。しかし若い皆様に参考になればと思い纏めてみた。皆さんは「木造・3階建て・新築」で堅実に副収入を確保して、将来の長寿化社会に備えて下さい。それが地方の林材業の活性化に繋がれば、それが私の切なる願いでもある。

 (西園)