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★【大学研究室だより】 南京林業大学(その4)・小松幸平先生より
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ご無沙汰いたしております。今回は6月2日から1ヶ月の間南京に滞在しました。本編では、その間体験した印象深い出来事の幾つかをお伝えします。
6月は、ここ南京林業大学 材料科学・工学院でも卒業のシーズンです。卒業式に先立ち開催された修士論文の試問会に、私も審査委員の一人として参加する機会を得ました。写真1は試問会が始まる直前の教室の様子で、果物や飲み物が用意されてリラックスした雰囲気でした。
【写真1】 修士論文試問会開始直前の様子
勿論、私の所属する闕研究室の修士の学生さん4人は、それぞれ優秀な成績で合格証を受け取ることができました。写真2は闕研究室の修士卒業生と一緒に撮った記念写真です。黄色の襟リボンが「工学」を意味するそうです。ちなみに教官は赤のガウンを着ます。
【写真2】 修士卒業生との合同写真
そうこうするうちに、闕副教授に吉報がもたらされました。闕先生が教授に昇進することが学院の上部機関で内定されました。まだ正式な辞令が下りる前でしたが、そんな事にはお構いなく、私の独断で昇進祝賀パーティーを南京市内で一番の人気スポットである“Nanjing1912”街のレトロなレストランで開催しました。研究室の全員が参加し、闕先生の教授昇進内定を祝福しました(写真3)。そしてその後はカラオケで更に盛り上がりました(写真4)。この流れは、アジア共通ですね(インドネシア、台湾も同じでした)。
【写真3】 闕 澤利先生(左)教授昇進祝賀会
【写真4】二次会はカラオケ。
それにつけても、闕研究室の院生は誰もがプロ顔負けの歌唱力で、完全に脱帽でした。
6月上旬に入り、南京林業大学 材料科学・工学院木構造建築学部創立10周年記念式典が盛大に開催されました。私が2007年に南京林業大学に呼ばれて木構造の特別講義をしてから早や10年が経過し(写真5)、この木構造建築学部も中国社会において、木構造の発展を支える一つの重要な研究組織として広く認識され始めたように感じました。
【写真5】(引用文献1より)2007年撮影の木造建築専攻第1期生との合同写真。
私の右側の3名が教官で、右から2人目が闕先生。
式典には中国各地の著名な建築系や木質材料系の大学・研究所の研究者が招待され、それぞれの組織における木構造研究の現状と将来の展望が発表されました。ただ、私はそういう趣旨で発表するものとは教えられていませんでしたので、かなり難しい内容の木質系門型ラーメンの実験と解析の照合事例を延々と発表しました。授業の一部として記念式典への参加を義務づけられていた大多数の学生諸君には、恐らく迷惑な発表だったかもしれません。
【写真6】難しい木質門型ラーメンの構造解析の話をする「空気の読めない発表者」
6月末になって、次回9月以降に予定している集成材ラーメン架構の試験体製作に関する打合せのために、中国高速鉄道に乗って上海の集成材製造・設計会社に出張しました。途中、中国の高速鉄道が2本並行して走っている箇所があり、私の乗っていた列車からもう一方の路線を全速力で疾走する高速列車・「和諧号」の雄志を撮影することに成功しました(写真7)。新幹線が全速力で並行して走る区間の無い日本では、まず考えられないエキサイティングな光景でした。
【写真7】 自分の乗っている高速鉄道と平行して敷設されているもう一方の路線を全力疾走する和階号。
上海郊外の集成材工場は非常に大きな工場で、一辺300~400mmもありそうな大きな断面の柱部材を製造している所(写真8)を見学しました。
社長の説明によると、中国の設計者は鉄筋コンクリートの建物に慣れているので、平気でコンクリート並の大断面の集成材の角柱を要求することが多いそうです。このような大断面の角柱を造るためには幅矧ぎ接着が必要ですが、この工場でも幅矧ぎ接着が当たり前のように使われていました。ちなみに、同行した大学院生は近くに置いてあった作業工程表を見て、ラミナはフィンランド製であると説明してくれました。
【写真8】上海の集成材工場で見た30~40cm角の集成材柱。木口面の孔はグルーインロット工法によって柱を基礎に固定するための鉄筋用先孔。
翌日、上海から南京に戻って修士の学生が研究テーマとしている平行弦トラスの実験に立ち会いました。この研究は闕先生が今年から3年計画で実行することになっている「斜め打ちスクリューを利用した木構造の研究」という比較的大きな科学研究費に関わる研究の一部です。斜め打ちスクリューは引張荷重に対して高い性能を発揮することがヨーロッパの研究者によって公表されており、現在各国でその応用研究が盛んになっているホットな研究課題です。
我々の試験体の場合、写真9に示すように弦材の外側からスクリューを斜めに斜材に打ち込んでワーレントラスを構成するものです。この形態は、ドイツの研究者の先行研究事例を見本に、何とか科研費の趣旨である「斜めスクリュー」を利用しているという形態をアピールできるように私が提案した苦肉の策です。写真9から分かるように、弦材と圧縮斜材に対しては、確かに「斜めスクリュー」として機能していますが、引張斜材に対しては「斜めスクリュー」ではなく「平行スクリュー」として機能しているので、課題の趣旨遵守率としては75%ぐらいかなと自己採点しています。
【写真9】「斜め打ちスクリュー」による木質平行弦トラスの構造説明写真。
実験パラメータとして引張斜材に打つスクリューの列を1~3列まで変化させる。
写真10は実験室の万能試験機で平行弦トラスに中央集中荷重を載荷している様子を示しています。日本製のデータ収録機器には合計30チャンネルまで計測機を接続できますが、それ以上の測定チャンネルになると、中国製のスイッチボックスを接続することになります。残念なことに、この国産スイッチボックスは日本製の収録機器と連結して動かすことが出来ません。データを収録するには別のコンピュータで制御する必要があり、かつ和製と中国製の測定タイミングを精密に同期させることが難しく、後のデータ解析が複雑になるため、測定チャンネルを30までに抑える方向で検討しました。今回はやむを得ずスパンの片側のみひずみや接合部の相対辷りなどの測定を行いました。
【写真10】中央集中荷重を受ける木質平行弦トラス。
測定チャンネル数の関係で、スパンの片側のみ計測。
以上、今回の6月期の南京滞在は、非常に多忙かつ充実したエキサイティングな一ヶ月でした。この調子でいくと、次回の9月期の滞在は、もっと多忙で興奮することの多い1ヶ月になりそうです。
(小松 幸平)
引用文献
1)Japan Wood Products Information & Research Center :“南京林業大学で木造建築専攻科設立”、Info for Wood Export-海外市場情報、Vol.2、No.40、2008.