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★【社長連載】 Woodistのつぶやき(13) 

 我が国林業七不思議(解題編)

 「なぜ我が国で他の林業国並の低コスト林業が出来ないの?」

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私が思う「我が国林業七不思議」

  • 不思議その1.それでもなぜ皆伐するの?
  • 不思議その2.山元収益が確保できるくらいに丸太価格を上げられないの?
  • 不思議その3.再造林率を高める方法はあるの?そして実際にそれは可能?
  • 不思議その4.同じ山を長伐期、短伐期と簡単に切り替えられるものなの?
  • 不思議その5.他の林業国ではなぜ再造林コストが20万円以下なの?
  • 不思議その6.他の林業国ではなぜ伐採費が2000円以下なの?
  • 不思議その7.なぜ我が国で他の林業国並の低コスト林業が出来ないの?

 昨年12月号(Woodistのつぶやき(6) )で「我が国林業七不思議」を提起、今年1月号からこれについて私の考えを述べてきました。いよいよ残る一つがこのテーマです。 

  • 不思議その7.なぜ我が国で他の林業国並の低コスト林業が出来ないの?

 我が国では戦後のある時期、「拡大造林」と名付けられたプロジェクトが大々的に全国的に行われました。実は外国のある林学者が我が国の「拡大造林」は、むしろ「樹種転換」と言った方が正しい、と述べた論考を読んだことがあります(「イギリス人が見た日本林業の将来」ピーター ブランドン著 熊崎実訳 築地書館)。要するに裸の山や荒れ地に植えたわけではない、と言うことです。

 

 私が子供の頃、父の工場の隣が「熊本営林局 鹿屋営林署 高山(こうやま)事業所」でした。自宅は工場の一画にあったので、事業所に到着する森林鉄道を良く目にしました。丸太を満載したトロッコをディーゼル機関車で何両も引いて到着します。この頃私が目にしていた丸太は、樫や椎、桜等の天然広葉樹で、トロッコ一台に2メートルくらいの丸太が1本だけやっと載っている、と言うような大きなものが印象に残っています。

 帰りはこれに米、味噌、醤油、焼酎などを満載して、伐採作業者たちが家族で暮らしている「二股(ふたまた)事業所」に上って行くのです。高山町川上二股地区にあった伐採事業のための大きな事業所で、そこで働く従業者の子弟のための小学校もありました。

 

 あの時のような丸太が今も残っていれば、というのは繰り言になります。恐らくは軍からの除隊者やかつて勢力圏にあった海外から引き揚げてきた膨大な数の国民は外地であらかた財産を失い、郷里に帰って職もなく非常な不安があったに違いありません。多くの国民に職を与えることは国家存続のためにも喫緊の対策であったはずです。わずかに残った資源である国有林の天然林を伐り、得られたその膨大な資金と、併せて地方にあっては巨大な借入金とで全国的な植林事業を行ったのでしょう。

 植林された樹種として最も多いのがスギ、ついで西ではヒノキ、東ではカラマツが植えられています。ちなみにこの頃の植栽本数は1ヘクタール当たり3000本を基本としていました。

 今この植え付け本数は多すぎるという意見があって、これからの再造林の際に植え付け本数を若干減らす動きもあります。なぜこの本数に決めたのかいろいろな人に聞いてみましたが、よく分かりませんでした。この時期林業専門家が腰を据えて林業国家百年の基本プランを作ったものかどうか疑問です。

 恐らく以前はもっと多くて4000本くらいだったのを、少し省力化して3000本くらいにした、というのがことの真相かもしれません。いずれにせよ植栽本数に関する合理的に説明のつく実務上の基準は寡聞にして知りません。

 今これらの山が早いところでは50年くらいになって、堰を切ったように各地で大々的な皆伐が始まっています。

 45年で皆伐した場合の林業収支の簡単な試算をしてみました。そして今直ちに皆伐せず、間伐・択伐を続けながら90年で皆伐した場合も併せて試算してみましたが、大変に面白い結果が得られました。

 

 皆伐した場合の山元所得

   45年で皆伐 山元所得194万円  

            内訳 皆伐時所得176万円+間伐所得18万円

   90年で皆伐  山元所得706万円

             内訳 皆伐時所得442万円+間伐所得264万円 

 

3,000本/ha植栽 45年皆伐  年間生長量 12m3/ha

  0年 10年 20年 30年 45年  
残存本数 3,000 2,700 2,400 2,100 1,500  
蓄積 m3 120 240 330 410  
単木 m3     0.1 0.16 0.27  
伐採本数   300 300 600 1,500  
伐採 m3   0 30 100 410  
伐採経費     12,600 10,000 7,700  
立木代     △600 2,000 4,300  
 立木代     △18千 200千 1760千 1942千 

 

3,000本/ha植栽 90年皆伐  年間生長量 12m3/ha  

 

0年

10年 20年 30年 45年 60年 75年 90年  
残存本数 3,000 2,700 2,400 2,100 1,500 1,050 750 500  
蓄積 m3 0 120 240 330 410 470 510 540  
単木 m3     0.1 0.16 0.27 0.45 0.68 1.08  
伐採本数   300

300

600 450 300 250 500  
伐採 m3   0 30 100 120 140 150 540  
伐採経費     12,600 10,000 7,700 5,900 4,800 3,800  
立木代 m3     △600 2,000 4,300 6,100 7,200 8,200  
 立木代 ha     △18千 200千 516千 854千

1,080千

4,428千  7,060千

 これに再造林コストが掛かります。現在の我が国の標準的再造林コストは、私は高すぎると思いますが、3月の本欄(Woodistのつぶやき(9))で紹介したように、1ヘクタール当たり255万円(平成26年標準単価)なのです。

 

 もし45年皆伐で90年間林業をやるとすれば、

  所得は194万円×2回=388万円、

  再造林コストは255万円×2回=510万円なので

 差し引き122万円の赤字ですね。事業としては絶対に成立しません。 

 

 ですから、現状の再造林コストはむちゃくちゃです。これは真剣に取り組んでコストダウン、それも数%というレベルではなくて、何分の一とかのレベルだろうと思います。

 それと併せて、この試算結果で分かることですが3000本植林してある山は、40~50年で皆伐してはいけないのです。

 では海外の短伐期林業で植栽している植え付け本数で行けばどうなのでしょう。45年で皆伐した場合 1ヘクタール当たり1100本植栽。これを先ほどの私流試算で計算してみました。

 

 山元所得   434万円  内訳 皆伐時所得268万円+間伐所得166万円

 

 

短伐期を念頭に置いた、新しい再造林の収穫モデルケース

 

 1,100本/ha植栽 45年皆伐  年間生長量 12m3/ha 

  0年 10年 20年 30年 40年 50年  
残存本数 1,100 1,000

700

500

500 350  
蓄積 m3 0 120 240 320 320 340  
単木 m3     0.34 0.58 0.64 0.97  
伐採本数   100 300 200 150 350  
伐採 m3   70 90 100 340  
 伐採経費     7,000 5,200 5,000 4,100  
立木代 m3     5,000 6,800 7,000 7,900  
立木代 ha     350千 612千 700千 2986千 4348千
               

                      

 それではなぜ今「堰を切ったように」皆伐が始まったのか。

 

 さる森林組合長は、「それは高齢の山主が待ちきれない」からだと喝破しました。若い頃植林し、猛暑の中下刈り、つる切りに励んだ山を子供達は見向きもしない。残しても感謝もされないだろう、であるならば伐採していくらかにでも換金して自分で使ってしまおう。組合長の言葉から想像するとこのような情景でしょうか。

 

 もしこのようなことであるならば、全国でも有数の高齢化率と都市部への流出率、そして全国トップの森林の小規模所有とくれば、再造林率が30%台と全国最低という事実は大変納得がいきます。小手先の対策で、これが80%台に改善できるとは信じられません。

 

 では秘策があるのか。次回に検討しましょう。

 (代表取締役 佐々木 幸久)