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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(28)
「県営体育館や県営サッカー場の木造化推進運動を」
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東京千駄ヶ谷の国立競技場が取り壊されて、2020年の東京オリンピックの主会場となる「新国立競技場」の建設が順調に進んでいると聞く。私が21歳の時に東京オリンピックが開催され、そのメイン会場として、当時の日本人に新しい夢を与えた開会式が行われた場所だ。
当時貧乏学生だった私達には、高い入場券を手に入れる事等はまさに高根の花だった。不人気で未だ残り席が売れ残っているな競技を探し、国立競技場の観覧席に、せめて座る経験だけでもしたい」と考えた。今のサッカー人気からすれば考えられない話と思われるだろうが、「大きな競技場を満席にするだけの人気は、当時は程遠い状況だった日本サッカーの試合」を見に行った。
貧乏学生は一番安い席だったゴール後側の最上段の席で観戦した事を思い出す。真っ青の日本晴れの下で、選手は芥子粒ほどにしか見えない席から、大学の同級生達が活躍した日本サッカー初の国際勝利の瞬間を見た体験は、今になれば大変幸運だったと思う。
その時に初めてスタンドの急な階段を最上階まで上り、試合が始まるまでの間は競技場全体や神宮外苑の杜を見渡したものだ。鹿児島の田舎から出て2年の私はコンクリートの塊の大競技場に「当時の新しい時代と、新しい建築物の姿」を発見した記憶が鮮明に蘇る。高度成長期の最盛期にあった当時の、大型建築物の建設では古い伝統的な木造施設には目もくれる事無く、大手ゼネコンを先頭にして「コンクリート製の怪物」を新工法を採用して街を造り変えて行くのが、当時の近代化だと思っていた。
その後社会人となり、当時同期入社の連中が木材部門配属へ誰も見向きもしなかった事から、「誰か行かなければならないのだろう! 誰も手を挙げないなら俺が行く」と手を挙げたのが縁で、木材業界と関係が出来て逆に古い業界で合ったが故の改革に取組み、興味を持つ事になった訳である。
当時の建築基準法の解釈は、「木材は火事に弱く、耐久性と強度計算に不向きな材料だから、大型物件や公共建築物には使わせない!」のが、当然みたいな時代が続いた。その様な時の約40年前に、私は初めてアメリカ・カナダ等を訪ね大型木造施設を見学する機会を得た。当時の日本と違い、既に「5階建で7万人が入る、アメリカン・フットボール屋内競技場」や、「陸上競技場の大きな木造スタンド」等が、大断面集成材等を使用し建設されている事例を、これでもかこれでもかと見せ付けられた。泊った9階建の高級リゾートホテルが「木造だ」と聞き、信じ難い顔をしていると近くの新築現場を案内して貰う機会も得た。構造体には大断面集成材や新しい木材加工商品を使って、ドンドン大型木造建設に取り組んで居る現場に遭遇し、当時の日本との大きな違いに衝撃を得たものだ。又内外装材でも、「いかにも建物に歴史を感じさせ、古さを強調するために、デザインや仕上げに、木材の特徴を有効」に生かしている。
米軍の大型艦艇の大岸壁は、「軍艦を傷つかせないため、岸壁を防腐処理木材で作っている」施設例や、更に近くの「木造消防署」を見て驚く私達を、案内した現地外人の方が「日本は木の文化の国と聞いていたが」と、逆に驚かれた事が大きな刺激となった。
日本で時代を経て、木材利用の条件緩和がその後少しづつ進み、昨年は「3階建の木造学校施設の建設」が可能となり、「10階建の木造ビル建築計画」が現実となって来ているのは衆知の通りだ。しかし半世紀を越す65年もの間に、「木造敬遠の教育と思想の影響を受けた、庶民の思考は簡単には元に戻らない状況」となってしまった様で、木製品の活用が復権するまでに至っていない。
56年ぶりに再び2020年に開催される、東京オリンピックの施設準備が着々と進んでいる。私が21歳の時に見て感動した「コンクリートの塊の旧国立競技場」は取り壊され、「新国立競技場」の建設工事が進んでいるが、基本構想での最も大きな違いは、「新国立競技場は、『和の伝統を最大限生かすデザイン』を実現する手法として、木材が大量に取り込まれている」事だと私は思う。
新国立競技場の設計者の隈研吾氏を始め、最近の著名な建築家は「和文化を建物設計に取り込むには、『木材の良さを上手に取り入れる』事が入口だ」と考えて居る様に感ずる。過去30年間も木材関連の仕事に取組み、70才を過ぎて再び木材関連業界と縁が出来た私から見れば、良い意味での時代のウネリを感ずる。この傾向を木材に縁を持つ人達は、活かして貰いたいものだ。
大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JV作成
(引用)新国立競技場 (http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/)
東京オリンピック開催の年の秋に、鹿児島国体も開催されるので、県内施設の改築や新計画の準備が進んでいる様だ。大都会で開催される東京オリンピックでは、メインの新国立競技場だけでなく、多くの諸施設で「木材を採用した設計事例が次々に話題」となり、紙面を賑わせている。
低炭素化社会の実現のためにも、「地方振興は地材地産から」と私は思うのだが、しかし地元紙面等を見る限りでは「東京での木材をレジェンドとして評価する動向」に比べて、鹿児島は単なる普通の木造程度と考えて、施設面の木材活用面に大きな格差が感じられてならない。既に現役を降りた私の情報不足からの心配なら問題無いが、極一部の木材関係者を除いては、地場産材活用の話題作りや働き掛けが不足していると危惧している。(酒の席で言っているだけでは、大きな方針は簡単には動かないものだ。)
鹿児島の歴史と文化を復権するために、「鹿児島城の御楼門」が完成すれば、県民の木材活用と効果についての意識は大きく変わると期待するが、鹿児島国体前には間に合わない様だ。その県産材活用の気運を国体関連施設で先取りして貰いたい。特に鹿児島県は一次産業が経済実績に占め、農業と漁業は主要産業として改革に積極的に取り組まれているだけに、近隣県に遅れている林材業の活性化に注目し直してもらい、公共関係の木造施工例が増える事を期待する。
大館樹海ドーム(おおだてじゅかいドーム)
1997年7月11日完成。
ドームの屋根は樹齢60年以上の秋田杉25,000本を使い、アーチ状にしたもので、
高さや面積では東大寺大仏殿を上回り、国内最大の木造建築であるとされる。
新しい知事は選挙前公約では、「ドーム式スタジアムや、県立体育館やサッカー場等の夢の有る建設計画」が数多く語られた。そこで私が期待するのは「夢だけではなく、まず具体的に造り始める」事である。そして公共建築物には「公共建築物の木造化推進法の趣旨」に沿って、地材地消による故郷振興策に取り組んで貰いたい。東京オリンピック関連施設での、和文化表現の木材活用事例を参考」にして、是非とも県産材振興を前面に押し出して、実現して欲しいものである。声を上げずに静かに外から遠巻きに見ているだけで、現在の行政や業界代表に任せていると、結果として従来型思考に終わってしまうのではと心配する。また木材関係者は「公共建築物への木材利用促進の具体的運動を、もっと大きな声」で今すぐに始めないと、最大の県産材復活のチャンスである国体関連施設での木材利用にも、手遅れとなってしまうのではと提案する次第である。
(西園)