メールマガジン第47号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(29)

 「20階建て木造高層ビルも、不可能ではない」

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 欧州では90年代からCLTに関する研究開発が進み、2000年代になると、8~10階建のマンションや、中・大規模の商業施設や公共施設等、様々な建築物が木造で建てられるようになった。最近では、カナダに18階建ての木造建築物が建てられるなど、更に木造の高層化が進んでいる。 

 ref:日本経済新聞より「高さ世界一」日本の先行くカナダ18階高層木造 

 

 しかし日本では「木造は2階建までしか建てられない」と思いこんでいる国民が多い。それは昭和50年代前半までは、「3階建て木造建築は困難」だった訳だから、そう思う人が多いのも止むを得ない話だ。

 しかし敗戦後の復興期を乗り越え経済力が回復し、極端な木材不足時代も峠を越えて、又より生活環境の改善をとの意識が高まって来た事で日本の伝統的建築物を見直す動きが始まり、「木造建築物の素晴らしさを再評価する運動」も進展して来た。今から考えれば、当時の国産材利用では木質部が未成熟な間伐材が多く、更に節約志向の行き過ぎから寸法の小さい歩切れ品を使ったり、木材の弱点を無視した安易な設計で家を建てる事例も有り、「丈夫な木造住宅」には程遠かった事実は大いに反省しなければならない。

 国民一人当りの所得が未だ低かった戦後復興時代は、「住宅建設でも質は後回しにされ、まずは量の確保が優先された」事は致し方無い時期だった訳だ。しかも戦争でハゲ山になった山林や国土は住宅用に木材を活用する前に、何よりも国土の荒廃整備が優先され「治山治水の役目」がより重要視されて、「木材の利用制限」を国会や土木建築学会で決議する時代も有った事を、多くの国民が忘れているが困った話である。

 

 日本人は「熱しやすく冷めやすい」と言われるが、戦後25年間は当にその悪影響が木材利用分野を直撃していたと言える。当時は良質で十分な強度を持つ国産材の供給が間に合わず、不足分は輸入材へ頼る状況で、その上に国際収支の赤字対策からも「もっと木材の活用を!」とは言い難い時代だった。そこに逆に戦後復興期に「鉄やセメントや化学製品」等の業界が、国の強力な支援を受けて急速に競争力を付け、木材の需要分野に攻め込んで来た。その上に急激な時代変化に驚いていた国民も何時の間にか、「鉄やコンクリート等の新建材を利用した建築が、近代化の象徴だ」と思い込む様になってしまった。(その考えが未だ引きずっている所が有る。)

 今から振り返れば、当時の行き過ぎた木材利用抑制策は明らかに失政だったが、その様な考え方のブレの大きい事が日本民族の特性でもあるから、今後同じ様な失敗をしない事を願うものである。

 

 しかし生活に少しづつ余裕が出て来て、「形よりも内容を!」とか、「見た目よりも、本当に人に優しい住宅や環境造りを!」との考え方へ方向を見直す動きが始まり、同時に戦後植栽した山林も育って来て「質の良い国産材の供給量」も徐々に回復して来た。また「100年前の日本の木造建築は、どうして丈夫なのか? 木造に風格を感ずるのは何処が違うのか?」とか、逆に「戦後復興期に建てられた木造建築物は何故弱いのか?」を分析し再検討も始まった。そして「伝統的技術力を活かし木造建築の本当の良さを見直し、丈夫で人間が住み易い木造住宅を建てる方法を一から考え直す」運動等により、「新しい木造建築物の有るべき姿」も明らかにされて来た。

 

 木材や木造建築物の特徴は、極端に目立つ様な長所は少ない代りに、自然産品だからこその「各分野で中庸であるが、総合点で良さがある」事や、人間には優しい特徴となる事が再評価される様にもなって来た。「中庸の良さ」の素晴らしさは、なかなか理解してもらい難い所もあるが、しかし人間の生活環境を造る上で、最も重要視されなければならない点は「人間生活に優しい材料」を使う事から始めるべきと言う事である。「鉄やコンクリートや化成品」等の工業製品は、一面では木材よりも優れた長所が有る代りに、「人間への優しさの総合点」では「自然産品の木材」には及ばないのが現実である。それは工業製品の最初の生産目標が「木材の短所に追いつく事」を目指していた事からも判って貰えると思う。競合品に勝つには長所を攻めるよりも、短所を克服する方が手っ取り早いし判り易いから、競合製品が「木材の弱点である、燃える・腐る」の克服対策に、優先的に取り組んだ訳である。そして木材の弱点に勝る分野の製品情報の提供と宣伝を集中させた結果、販売量を増やし製品の生産性を高め、コスト低下にもつながりシェアーを拡大して来た。

 

 民主党が一時政権を取った時に、「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズを使ったが、コンクリート等の工業製品が、簡単には人間の生活環境をバランス良く改善は出来なかった例と似ていると思えてならない。だから木材関係者は「建築材料では、コンクリートから木材へ」とのキャッチフレーズを使ってみては如何かと提案する。(「コンクリートも木材も、夫々の特徴を活かして!」が、もっと多くの賛同者を得易いかもしれないが。)

 自然や環境に優しく低炭素化時代の要求にも適い、持続的な供給が可能で人間生活の環境造りに優しい材料を積極的に使う事が、「人間の幸せ実現」のためには重要だと同じだと言う事だ。

 林材関係者と木材活用に関心の高い設計士や建設業者が相連携して、「木の文化の国・日本」の伝統を再点検し、「新しい発想による木材活用と木造建築」へ取組む事が必要である。(インバウンド客が、日本の木造古寺や歴史的遺産物を訪ねている状況を、日本人も見習う必要が有る。)

 人間教育も同じ様に、建築でも「長所を活かし、短所を工夫して補う」事が大切で、長所を探すだけでは人も成長出来ない様に、人間生活に最適の住環境を提供する事は簡単では無い。

 木材の長所を活かす具体的方法は、夫々の分野の専門家に任せるとして、木材利用の弱点改善には、まずは「防火対策」への取り組みが肝要である。そして万全に対処出来れば木材利用分野は大きく広がるのは間違いない。又我が国では「木造の防火対策の規制緩和」が、この30年間に相当に進んでいる実態を、国民へもっと知らせる必要が有る。

 

 「木材建築物への評価が復活」し始めた転機は、2010年に公共建築物木材利用促進法が施行され、公共建築物での木造化が進み始めた事で役人の考え方が変わり、連れられて一般国民の目線も変わって来ている。木造建築物の拡大にネックとなっていた規制緩和が進み、その結果として大規模の木造建設事例が増えて来ている。

 更に2016年には、それまでは「子供達の命を守るとの表現」が強過ぎて、特に厳しかった学校建築でも防火対応基準が見直された。「木は燃えるとの表層的現象よりも、延焼時間を延ばし人々が安全に逃げる時間を確保する方が合理的だ」と解釈が緩和された事で、3階建て建築面積3,000㎡以下なら木造化が許可される事となり、全国各地で「3階建て木造校舎」の建築事例が増えている。

 それ以前は、一定の面積や高さ等を越す大規模木造建設では、個別の性能試験等を実施し審査に合格する必要が有ったが、今では標準的規定が明示され、それ等の条件をクリアーすれば個別審査は不要となっている。その結果かなり自由に木材を利用した設計や建築が出来る時代が始まった。最近は大手ゼネコンが熱心に木造化の研究に取組み、「1時間や2時間の耐火構造の特認事例」が増える等大きく改善されて来ている。また東京都心部の防火規制地区内でも、許容面積の基準内なら、4階建て木造住宅はかなり自由に建てられる時代になっている。

 そして構造部分は鉄骨だが、床に木材を採用した混構造の10階建てビルの建築計画が仙台市で既に決まっている。

 

 それでは「最大で何階建てビルまで、木造建築が可能か」と言うと、詳しい条件は建築の専門家に確認して欲しいが、我が国でも「木造高層ビル20階建て」の計画に、先進的な設計コンサルタント達が本気で取組んでいる。「20階建てビルの各階の耐火基準」の構想の要点を記すと、1~6階では「3時間耐火構造」とし、7~16階を「2時間耐火構造」とする等、下層階が十分に防火基準をクリアーすれば、17~20階は「1時間耐火構造」の建設計画は不可能ではないそうだ。但し現状は個別認定が前提なので、安全を証明するための各種実験を実施し、安全性が確認する等の審査合格が条件だが、建築認可の可能性は十分に有るそうだ。

 

 大規模木造建築の障害は「木は燃えると言う現象」への対応策だから、建物の加重を支える柱・梁・構造壁・床等の主要構造木材部を石膏ボードで覆い、その外側を更に木材で覆って三層構造とすると、人目には純木造と見える。その様な構造で国交大臣の特例認定を取れれば、日本でも「20階建ての木造ビルも可能」との事だから、日本人の知恵を結集して岩盤規制を打破し、一日も早く実現出来ればと願う所である。

 山佐木材が生産販売しているCLT(直交集成板)が、大規模木造建築物の壁や床材としての採用事例が増えているが、更に高いレベルで防火基準をクリアー出来れば、一段と木造化が進む時代がすぐそこまで来ている。

 

追記:山佐木材が加圧式防腐防蟻加工に採用している薬剤「ホウ酸」は、他社では更に工夫を加えて、「防火対策用」とした利用事例も有る事を付記しておく。 

 (西園)