メールマガジン第48号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(30)

 「日本遺産と木造建築物」

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 世界遺産は報道に良く取り上げられるが、皆さん御存意の通りに「文化遺産と自然遺産」が有る。日本の世界遺産第一号は、1993年「自然遺産」として屋久島と白神山地ブナ林が、また同年「文化遺産」に古都京都と姫路城の4件が指定された。その後変遷を経て、今では日本からの指定申請は年1件へと窓口が厳しくなり、現在までに自然遺産4件と文化遺産11件の計17件の世界遺産が指定されている。自然遺産の4件は、屋久島と白神山地の他に知床半島小笠原諸島が指定されているが、森林や自然の景観の保護状況が指定対象となっている。文化遺産は、地域特性が残っている文化や景観や社会環境と、歴史的構築物等とがセットとなり構成されている。即ち文化遺産の指定構成物件には下記表の通り、日本では原爆ドームと国立西洋美術館のコルビジェ建築を除いては、ほとんどに木造建築物が組み入れられている。

 

指定年度 種類 指定物件 地域 主な指定対象物
1993 自然 屋久島 原生林・屋久杉・照葉樹林・苔の森
1993 自然 白神山地 青森秋田・ブナ原生林・十二湖
1993 文化 法隆寺と仏教建造物 金堂・五重塔・仏像等国宝19件、聖徳太子
1993 文化 姫路城 姫路城・天守閣
1994 文化 古都京都の文化財(京宇治大津) 清水寺鹿苑寺・慈照寺・天龍寺・二条城
1995 文化 白川郷・五箇山の合掌造り集落 白川郷(萩町・明善寺)五箇山(菅沼・相合)
1996 文化 原爆ドーム 広島原爆ドーム
1996 文化 厳島神社 宮島・厳島神社大鳥居・五重塔
1998 文化 古都奈良の文化財 東大寺・春日寺・興福寺・薬師寺・唐招提寺
1999 文化 日光の社寺 東照宮・陽明門・二荒山神社・輪王寺
2000 文化 琉球王国の城と関連遺産 首里城・守礼門・謝名園
2004 文化 紀伊山地の霊場と参詣道  熊野古道・熊野三山・金剛峯寺・熊野本宮
2005 自然 知床 知床海域・サケ・エゾシカ対策
2007 文化 石見銀山遺跡と文化的景観 大森銀山・代官所跡・鞆の浦港と道
2011 自然 小笠原諸島 父島・母島・東洋のガラパゴス
2011 文化 平泉・仏門浄土の建築・庭園 中尊寺・金色堂・毛越寺
2013 文化 富士信仰の対象と芸術の源泉 山頂の信仰遺跡・登山網・浅間神社
2014 文化 富岡製糸場と絹産業遺構群 養蚕・製糸・絹織物・旧田島弥平・高山社跡
2015 文化

明治日本の産業革命

製鉄・製鋼・造船・石炭

集成館・反射炉・関之尾・寺山炭窯・橋野鉱山

三池炭鉱・三角港・萩・韮山・グラバー邸

2016 文化 コルビジェの建築 上野国立西洋美術館と独仏ベルギースイス等
2017 文化 神宿る島・沖ノ島・宗像神社 沖ノ島・宗像神社・古墳群
屋久島
屋久島
白神山地ブナ林
白神山地ブナ林

 

 日本遺産の指定は2014年に始まった。世界遺産の指定を受けるには及ばないが、日本の代表的文化財として価値の有る物件を保護し活用する目的で、この3年間に54件が指定されている。しかし指定地域では報道に取上げられ盛り上るが、世界遺産ほどには全国的へ報道されないので、未だ国民の認知度は低いのが現状である。

 政府は2020年東京オリンピックまでに、計100件程度の「日本遺産」を指定し、今後4000万人までに増やしたいインバウンド客の訪問候補地として整備し、「日本らしい風習と景観」を観光資源として活用すると共に、地域振興に役立てようとしている。

 日本遺産指定物件も、訪ねて見れば日本各地の重要文化財である事が納得出来る。日本的文化遺産として国民に再認知してもらいたいし、また指定物件を良く見れば「木造建築物が中核」となっている。「国産材振興をテーマとしてシリーズ」を書いている私としては、日本遺産を知ってもらう事が「即 木造建築物の良さの再発見となり、木造の良さを今の世代に活用して貰う参考例」になると思うので、今回取り上げる訳である。

 

 指定や管轄は文化庁文化財記念物課で、「日本遺産の目的」は次の通りに規定されている。「日本の各地の歴史的経緯や地域の風土に根差した伝承・風習等を踏まえたストーリーの元に、文化財をパッケージ化し活用化を図る必要が有る。そこで文化庁は、地域の歴史的魅力や特色を通して、我が国の文化・伝統を語るストーリーを『日本遺産(Japan Heritage)』として認定し、そのストーリーを語る上で不可欠な魅力ある有形・無形の様々な文化財群を総合的に活用する取り組みを支援する。従来の文化財保護は個々の遺産を「点」として指定保存して来たが、保存重視では「地域の魅力」は伝わらない。日本遺産は点在する遺産を「面」として活用発信するもので、地域のブランド化・アイデンティティーを再確認し、一体的に整備し国内外へ効果的に発信する。」とされている。

 指定は2014年(平成27年度)に始まり、3年間で54件が認定され「地域の活性化」に役立てる対策として取り組まれているが、現在の県別認定数では片寄りが見られ、九州では長崎県が3件指定されているのに比べ、鹿児島県と宮崎県はゼロである。

 神社仏閣や街並み等の歴史的景観を背景とする指定物件には、「木の文化の国」と言われる我が国では木造建築物が認定採用されている事例が当然の様に多くなっている。このことは「日本文化は木造建築物と切っても切れない関係が有る」事を、国民にもインバウンド客にも認知してもらう機会でもある。54件の認定件数のうち、主要構成物件に木造建築物が組込まれている例を纏めたのが下記表で41件になる。

 

番号 タイトル 地域 主な木造建築物件

1

近世日本の教育遺産 日田(咸宜園)水戸(弘道館)足利(足利学校
2 かかあ天下と絹織物 群馬中之条(富沢家住宅)桐生市(後藤織物)
3 加賀前田家の町民文化の高岡市 金屋町伝建地区地区・前田利長菩提寺曹洞宗寺院
4 若狭の往来文化遺産と鯖街道 若狭(若桜街道宿場町)・小浜(旧料亭蓬嶋楼・西組地区)
5 信長のおもてなしと戦国城下町 岐阜城跡・川原町の街並・長良川の鵜飼漁と船上遊覧
6 祈る皇女斎王のみやこ 三重県 明和町(竹神社
7 琵琶湖と水辺景観 東近江(五個荘金堂伝建地区)米原(伊吹山西麓地区)
8 日本茶800年の歴史散歩 宇治山田(永谷宗円生家)木津川(上狛茶問屋街)萬福寺
9 丹波篠山デカンショ節 篠山市 鳳鳴酒造・丸山集落・青山歴史村
10 六根清浄と六感治癒の地鳥取県 三朝(三徳山・三仏寺奥院・三朝温泉)
11 津和野今昔 津和野殿町
12 尾道水道と箱庭的都市 天寧寺塔婆・浄土寺本堂・坂道と路地の景観
13 四国遍路 回遊型巡礼路 高知(竹林寺)香川(本山寺)愛媛(太山寺)
14 古代日本の「西の都」 大宰府(太宰府天満宮・戒壇院)
15 国境の島 壱岐と対馬・五島 対馬(金石城址)壱岐市(原の辻遺跡)五島(三井楽)
16 相良700年の保守と進取の文化 人吉(青井阿蘇神社)湯前(城泉寺阿弥陀堂)
17 政宗が生んだ伊達な文化 仙台(大崎八幡宮)松島(瑞巌寺)塩釜市(塩竃神社)
18 自然と信仰 出羽三山 庄内(月山神社)鶴岡(旧遠藤家・大日坊仁王門)
19 会津の三十三観音巡り 会津若松(さざえ堂)下郷町大内宿・猪苗代三十三観音
20 大久保利通最後の夢 一本の水路・安積疎水・郡山(開成館・旧安積中学校)
21 北総四都市江戸紀行 佐倉の武家屋敷・成田山門前街並・香取市伝建地区・銚子
22 いざ鎌倉 歴史と文化の街 鶴岡八幡宮・建長寺円覚寺・鎌倉文学館 古我低
23 木曽路はすべて山の中 山守り 南木曽(妻籠宿)大通寺鐘楼門
24 飛騨匠の技・こころ 飛騨国分寺三重塔・荒城神社・飛騨大工一門の建築
25 美林連なる造林発祥の地吉野 黒滝村旧役場庁舎・吉野水分神社・金剛山寺本堂
26 鯨とともに生きる 大地町(燈明崎 山見台)
27 日本最大の大山牛馬市 大神山神社奥宮・大山町所子伝建地区
28 出雲の国たたら風土記鉄づくり 安来(金屋子神社)雲南(田部家土蔵群と街並み)
29 日本陶器のふるさと肥前 有田内山伝建地区・波佐見(福重家住宅)
30 ニシンの繁栄が息づく町 江差 江差の街並・旧中村家住宅・旧檜山爾志郡役所庁舎
31  北前舩寄港地・船主集落  函館(高田屋屋敷跡)酒田(本間家別邸)新潟(旧斎藤家)
32 サムライゆかりのシルク 鶴岡 松ヶ丘開墾場・庄内藩校致道館・旧風間家住宅
33 忍びの里 甲賀・伊賀 甲賀(油日神社)伊賀(忍町・壬生野地域中世城館群)
34 300年を紡ぐ 丹後縮緬回廊 与謝野(ちりめん街道町並)京丹後市金毘羅神社
35 銀の馬車道 鉱石の道 生野鉱山関連遺構
36 最初の一滴 醤油醸造発祥の地 紀州湯浅町伝建地区・角長(加納家)戸津井家・大田家
37 日が沈む整地出雲 出雲市 出雲大社本殿・日御崎神社
38 一厘の綿花から始まる倉敷物語 倉敷川端伝建地区・大原美術館・むかし下津井回船問屋
39 森林鉄道から日本一ゆずロード 旧馬路営林署・奈半利(主屋離れ蔵)
40 関門のノスタルジア海峡 門司港駅本屋・旧門司三井倶楽部本館
41 菊池川流域 今昔水稲物語 玉名(菊池川流域船着場と港町)
全54件中、木造建築物関係物件が41件。他13件も参考のために書き加えると ●熱狂のキリコ祭り(輪島・七尾) ●飛鳥を翔る女性(明日香村・樫原) ●大山参り(神奈川伊勢原市)●火焔型土器(信濃川流域) ●碧玉と石文化(石川県小松市) ●古事記と淡路(銅鐸・渦潮) ●鎮守府(横須賀・呉・佐世保) ●海賊文化(芸予村上水軍) ●足袋の町(行田) ●最古の国道(大阪・堺・明日香) ●和歌の浦(和歌山・海南) ●六古窯(備前・瀬戸・常滑) ●耶馬渓(中津・玖珠)

 

日本遺産認定第1号「近世日本の教育遺産群 -学ぶ心・礼節の本源-」 

日本遺産ポータルサイトより

https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/index.html

 

 この事実を「我が国での木造建築物の需要拡大の参考」にしないのは勿体無い、当に「温故知新こそが、木造復活の道筋である」と私は考える訳だ。

 所で、鹿児島県関係者からは「世界遺産の来年有力候補の奄美・徳之島を含めれば、3件も有る県は日本中の他県には無い。日本遺産申請までは考えていない」等との声が聞こえるのは残念だ。日本遺産指定条件に適した対象は、鹿児島県内には未だ未だ相当数あると思うので、指定へ早期に着手する必要が有ると提案したい。

 例えば「薩摩藩が明治維新で活躍した原点とも言える、『麓制度と郷中教育』の街並と教育制度」や、「日本神話の始まり関連の『三山陵と日本の国造り神話』の関係地」とか。更に「薩摩藩時代に始まる焼酎文化」等は、他県の先行指定事例に比べ見劣りしない物件で、鹿児島県振興の長期的視点に立てば、何としても活用すべきと思う。何故鹿児島県や関係市町村では動き出そうとしないのか、不思議に思うのは私だけでは無いと考える。

 

 日本の木造建築への認識を、戦後の貧乏時代の住宅建築レベルから早期に脱却し、明治や江戸や奈良時代まで含めての「我が国の木造建築物に籠められた、宮大工の工夫や施工術」を再評価するキッカケとして欲しい。更に最新の木工加工技術や木造の維持保存対策まで加味して「最新の木造建築物施工力」を再構築すれば、「着物に代表される和装文化、健康食と高く評価される和食文化」と同様に、「日本人だからこそ出来た和風木造建築物木材活用技能」を、「和風衣食住のセット」で売り出す事を今後の夢の有る課題とすべき思う。

 (西園)