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★【社長連載】 Woodistのつぶやき(16)
暫く自由で無責任な「つぶやき」を
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9回にわたって「我が国林業の七不思議」について述べてきた。いささか根を詰め過ぎたように思う。気楽につぶやいているうちは楽しいけれども、これを実現しようとか是非に広めたいと思うとなかなか大変なことになる。つぶやいているうちが「華」というものである。
日々の仕事や暮らしの中で、印象的なことどもを書き留めることにしよう。
また50年間(山佐産業20年、山佐木材30年)の永い仕事人生のなかで、様々な出来事があった。快哉を叫ぶようなうまくいったこともあり、深刻な痛手を蒙る失敗もあった。その間に多くの人と出会い、心に残る人々、恩人とも巡り会うことが出来た。
これらのことを思いつくまま気の向くまま書いてみよう。暫く自由で無責任な「つぶやき」を楽しもうと思う。
松尾建設様本社ビル木床工事
鉄骨ビルに木床利用、そのいきさつ
「超高層ビルに木材を使用する研究会」稲田達夫会長(当時福岡大学教授)を中心にして、鉄骨ビルなどに木床(CLT)を使用するための研究を続けてきた。幸い林野庁の委託事業を受託することを得た。数多くの実験や試験を行い、データも整って鉄骨木床で2時間耐火の、国土交通大臣認定書を受けることが出来た(平成28年5月24日付、国住指第48号)。鉄骨ビルにいつでもCLTの床利用可能な環境が整った。
松尾建設様との出会い
同社は、佐賀市を本拠とする九州でも最大手の建設会社であり、同時に創業140年近い九州随一の老舗優良企業である。この度本社ビルを建設することになり、その建設に当たり「九州発の技術は最初に九州で使い、広めるべき」とのご判断があり、稲田教授に打診があった。
本社ビルに当社CLT採用
紆余曲折を経て、本棟である6階建て鉄骨ビルに、2時間耐火の認定を持つ当社CLTによる木床工事の採用が決定、会議室棟である木造低層階の木構造工事と共に当社へご下命戴いた。
木床工事の施工
3年間にわたり稲田教授を中心に進めた商品開発であったが、現場ではまた多くの課題が噴出した。松尾建設の分厚い技術陣の工夫や発明には実に多くの示唆と解決策を与えて戴き、仕事は概ね順調に進捗した。
これらを基に、今稲田顧問を中心に第2期の改良木床技術開発に取り組みを始めるところである。
木床見学会
鉄骨ビルに木床という我が国初めての試みに、関係者の関心は高く、「超高層ビルに木材を使用する研究会」でも見学会を企画した。
ところが松尾建設様の見学会に向けての意欲は、私たちの想像を絶するものだった。見学会参加者用の説明パンフレットは実に立派なものだった。説明会場としてエアコン付きの立派な建物をわざわざ工事現場の隣に建設された。
説明に感激する
同社技術部長さんの40分に及ぶ詳細な説明。
私たちは建設関係者に、なぜ木造建築を推進しているのか、環境や国内資源、持続可能で国内自給可能な資源である木材の優位性など、永年にわたって何度も何度も説き続けてきた。徒労感を覚えることも一再ならずあったことも白状しておこう。
そして今日、私はかつて私たちが使い続けてきた資料を以て、建築技術者から熱心に木材利用の必要性を説き付けられている。まさか夢ではないだろうか。
スライド映写のため暗くした照明の中で、夢の感涙と笑みとが交互に浮かぶのを押さえきれない至福の時間だった。
説明会場での説明資料
林業関係者にはなじみ深い齢級表が
愛媛県前知事 加戸守之氏のこと
最近一部マスコミや総合雑誌などで加戸氏のお名前が出た。かつて氏の謦咳に接したことがあり、興味を覚えた。
愛媛県武道館建設に携わる
愛媛県松山市に出来る武道館の木質構造部の二次加工を当社が担当することになり、愛媛県内関係者との往来が始まった。この時の知事が加戸守行氏であった。
私たちはこの建設工事の中で、元請け(竹中工務店ほか)から数えて二次下請けの関係であるから、契約の前後で知事と直接接触することはあり得ない。しかし関係者の間では氏の名前は一種畏敬の念を以て語られていた。
この施設は木造としては全国的にも最大規模であったことから話題を集めた。その後この工事が進捗し、あるいは完成する中で、県や新聞、放送局のイベントで何度か加戸知事にもお目に掛かり、あるいは席を同じくする機会があった。誠に謹直な威厳のある方で、こちらも緊張感を以て応対した記憶がある。
加計学園のことである。新聞テレビの集中的な報道により、輿論も沸騰し、安倍首相の対応に瑕疵があり、失点があるものと感ぜられた。他には何の理由も考えられない安倍内閣の支持率低下が顕著になった。
しかし一連の騒動の最中、加戸氏の発言がごく一部ながら紹介された。気になってその発言の全容を見たところ、報道とは全く異なる様相が見えてきた。私には加戸氏の発言が全く正しく感ぜられる。政府への世間並みの私の不安は氏の発言ですべて氷解した。
私たちの周辺でも行政の様々な規制の厚い壁が感じられることがある。木造建築の堅い厳しい規制が永年続いていた。「なぜこんなことが規制されるのだろう」とその不合理さに切歯扼腕したことは私たちでも何度もある。
地方行政の要路にあっては前例踏襲の中央官庁の鉄壁を打ち破るには、選挙で選ばれた政治家を頼る以外無いこともあるだろう。
その当たり前のこと、愛媛県広く四国にどうしても必要な案件を加戸知事は熱意を持って当たった。熱心な努力が稔り、ついに行政の怠慢が覆り、愛媛県を初めとする地方の悲願は達せられた。おめでとう、それだけのことではないか。
マスコミでは一方の役人OBの発言のみが大量に報じられ、加戸前知事の扱いは殆ど無かった。私はたまたま加戸知事のことを知っていたので、報道の一瞬に現れたことに関心を持ち、探して国会での陳述すべてを知ることを得た。
マスコミには情報はすべて公開して戴くことを切に望むものだ。事実さえ明らかであれば、事の善悪の判断は私たちでも出来る。
(代表取締役 佐々木 幸久)