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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(41)
「6月に国会で建築基準法が改正。もっと話題に!」
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今年の通常国会は、森友や加計学園の「モリカケ問題」や「IRリゾート法」が話題になり過ぎて、混乱国会だったと思っている人が多い。確かに政治家や官僚には反省して貰いたい点は数多く有るが、単なる抵抗作戦に終始した野党の国会引延し作戦や新聞テレビの誘導的な報道姿勢が強くて、「市民の生活関連法案等については、十分な時間を割いての議論が出来なかった」事への責任は大きいと思う。
特に木材関連業界にとっては、大きな転換期となる「建築基準法の改正」が国会で成立している。ところが法改正の審議中の詳細情報を、国民はもとより建築や木材関係者等に、十分な話題と関心として広める事が出来なかったのは惜しい話である。
国会で6月27日に成立したが公布日は1年先だから、改正法の施行は来年6月となる。しかし「建築」は相当な事前準備を要するものだし、設計業務や数多い確認も必要だから、施工時になって取り組み始めるのでは遅いと思う。「新規物件に改正内容を早速に反映させる」には、来年6月なんて直ぐに来るから、明日からでも改正内容のポイントの広報活動と詳細についての議論を始めるべきと私は思う。
今回の改正の要点は「防火関係規定が見直され、中層の木造建築物が建て易くなり、内外装の材料として木材が使い易くなっている。そして今までは「高さ13m、軒高9m以上」の建築物は、耐火構造にする必要があった事から、木造建築は全般的に抑制されていた。現在の基準でも木造3階建は制約が大きかったが、今回の改正で「高さ16m以下で、且つ3階建以下」の建物は、耐火構造の条件が無くなった。
改正案では高さ16mへ緩和され、同時に軒高9mの規制が削除された事で、木造4階建も殆ど問題が無く建てられる様になった。
その上に「高さ16m以上または階層4以上の建物」でも、燃えしろ設計を活用すれば「壁や柱等の木材を通常より厚く(太く)する事で、石膏ボード等で覆わなくとも良い」事になる。防火規制が厳しかった防火地域や準防火地域でも「木材利用が緩和」され、不燃部材でなくとも「構造部材に木材をあらわしで使用する」ことが可能となる。
燃えしろ寸法 |
集成材(㎜) |
製材(JAS) |
大規模木造 |
25 |
30 |
準耐火構造 |
35 |
45 |
1時間耐火 |
45 |
60 |
※ 集成材等が製材品よりも規制数値が小さく有利なのは、製材品よりも乾燥材で割れや節等の
欠点が除去されているため、防火性能の評価が高いからである。
現在3階建以上では全ての柱・壁材料に、一律に防火性能を有する事を要求しているが、総合評価と性能規定化により、改正後は設計の自由度が広がると期待される。3階建以上は木造と言いながら柱や壁には石膏ボードが張り付けられたのに比べ、木材をあらわしで使える様になるから、「木材の長所と美しさが活かせる」事になる。(現行法は2階建までは、壁や柱では耐火構造は不要)
また戸建て住宅の他用途への変更(グループホーム等の福祉施設や飲食店等への用途変更のためのリフォーム)では、改修前の建築確認手続き条件が、「現在の100m2以上」から「200m2以上」へと緩和される。また木造3階建の改装では耐火構造が条件付きだったが、200m2迄は「迅速に避難できる方法を確保する」等の条件をクリアーすれば、「壁・柱を耐火構造とする改修は不要」となり、既存建物の改修転用が遣り易くなる。(増え続ける「木造空き家への条件緩和」でもある。)
「防火地域の3階建建築」には、外壁に60分、窓に20分、内部の柱等に60分の、一律の耐火性能が求められているが、改正法では「外壁と窓の防火性能を高める」事で、「建物内部の柱や壁材等をあらわしで使用する」設計が可能となる。
国交省は「木材利用の可能性が大幅に広がる。木の良さを活かした設計をし易くなる」と説明している。だから「国の規制緩和の方針に応えるのは、次は業界の役目」と言える。現在の防火・準防火地域では、外回り施設でも「2m以上の門や塀は不燃材料」とする条件付きだが、改正により一定の範囲では木材利用が可能となる。と言う事は「一目で木造と判る空間」が造り易くなると言う事だ。
これらの木材利用の緩和条件を聞くと、「今国会で成立した建築基準法改正」は、木材業界にとっては「期待以上の規制緩和であり、まさに追い風」である。だから一日も早く、もっと「設計事務所を始め一般市民へも話題提供し、来年6月には即活用できる様にするべきだ。
平成12年の基準法改正で「防火規制が性能規定化(明確化)」へと改正され、平成22年には公共建築物木造促進法が制定された。それに続き今回は「木材の耐火基準が改善」された事で、民間の建築物でも木造化と国産材利用拡大への道が広くなった訳である。
所で「幾ら木材利用面が規制緩和されても、その改正内容を一早く使ってくれる積極的な設計士さん達」がたくさん現れなければ、肝心な木材利用拡大は始まらない。そのために設計士等へ今回の改正情報を提供するのは、木材関係者の役目である。
「来年6月の改正法の施行後に情報提供を始めたのでは遅すぎる」と思うし、詳細な基準や条件が明らかになる前に議論を始め、その中で現場の要望を見つけ出し次の緩和希望要件を更に国へ訴えて行く事が大切である。
大手ハウスメーカーは早速に改正基準法について「改正を追い風に、保育園や宿泊施設を木造やCLTで建てる準備を進める。せっかく規制緩和して貰ったから、建設関連業界側が内容を勉強して使っていかなければならない」とか、「杉材の強度は、2×4工法でも問題無く使える」ので、「サイズや長尺材の供給やコスト面の課題を検討開始する」と発表している。大手ハウスメーカーは来年6月には即スタートダッシュする準備を始めているから、地場の木材関連業界が出遅れてはならない。大手が準備良くスタートダッシュし、地方の木材関連業界が後手を踏んだら、その差が大きくはなるばかりで狭める事は難しくなり、勝負にならなくなる。大手ハウスメーカーに出遅れてはならないのだ。
7月に国交省が全国の主要4都市で、「改正法の説明会開催」の案内を知ったので福岡会場を申し込んだが、時既に遅く参加出来なかった。鹿児島市や県内各地での「周知徹底のための法改正の講習会開催の計画は今のところ聞かない」ので、「木材関係者が設計事務所等へ働きかけ、協力して改正法の勉強会を一日も早く県内で開催できる様に、県等の関係機関に働きかけるべき」と思う。
今回私は「各改正点の詳細な解説が書けないレベル」なので、改正の項目を例示するだけに終わった。関係者が皆で一日も早く勉強する場を作る事と、来年の法改正の施行と同時に「木材を国交省の期待通りに使える」様に、「法改正の要点」だけでも判って貰いたいと思い書いてみた。
(西園)
【社長連載】「CLT建築の告示制定により以来木造建築は多層階の方向へ」より
山佐木材CLTによる事例 2階→3階→6階→10階へ
1.福岡県那賀川町「井上ビル」2階 平成29年度完成
2.鹿児島県姶良市「ロイヤルセンチュリー姶良」3階 平成29年度完成
3.高知県高知市「ST柳町I」3階 平成29年度完成
4.佐賀市「松尾建設本社ビル」6階(鉄骨造床木造) 平成30年度完成
5.宮城県仙台市「(仮称)泉区高森2丁目プロジェクト」10階建(木造+鉄骨造)、平成31年度の完成予定。