メールマガジン第60号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(42)

 「空家対策は木材需要拡大のキーポイント」

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 「空家の急増」が社会の大きな問題として報道紙面を賑わせている。国土交通省の空家統計5年毎に発表され、最新調査は平成25年度分(2013年)だから、次の統計発表は今年度の実態数字が纏められ来年7月になる。平成25年の空家総数は820万戸に達し、我が国の全建物数の13.5%になる。鹿児島市は13.9%と少し多い程度だが、鹿児島県は16.5%で、全国ワースト6位との事だ。驚くべきは、統計データの発表毎に空家総数も空家率も上昇し続けている。「15年後(2033年の予測」は、全国平均の空家率は30.2%となり、空家総数2,150万戸となる。空家率の全国平均が30%超とは、「あなたの両隣のどちらかが空家」となる訳で、地方では日本中がゴーストタウンに近い状態になるのだ。早く手を打たないと大変な事態が来る。

 

 空家が増え続ければ街の景観が損なわれるだけでなく、火災の誘発や倒壊の恐れから防災面の問題も大きくなり、犯罪の温床や防犯上の問題も心配される。ごみの不法投棄や衛生面からも問題が出て来る。近隣とのトラブル発生社会不安の原因となるだけでなく、不動産の有効活用の機会損失も拡大する等、国全体がガン疾患状況となり、日本を弱体化させる事になる。

 

 空家が増える原因には、「建物が建っている土地の固定資産税が、最大1/6まで優遇される特例」が大きな影響を与えている。「空家を解体すると、固定資産税が4倍強にも増える現在の税制」では、「空家を放置する人の方が節税となる」訳だから、空家が増えるのは判り切った話で、放置して来た国の責任は大きい。(しかし 政府や政治家をしっかり見張って来なかった「国民」にも責任がある。)

 

 アメリカ等では中古住宅の流通転売が盛んで、持主は「住宅取得時よりも転売時に高く売る」ため、休日は家族総出で建物や庭の管理と維持に大変な努力を続けている。その努力が「地域全体の美化と不動産価値の値上り」に繋がっている。(不動産価値は個別建物だけの評価よりも、地域全体の環境の与える影響が大きい事を日本人は忘れている)

 一方日本では「木造中古は20年経つと、建物の市場価値はゼロになる様な償却税法」が影響しているのは間違いない。

 

 政府もやっと重い腰を上げて、平成27年5月に「空家対策特別措置法」が施行された。保安上の危険性や衛生上の有害な問題が予想される場合は、行政が所有者に改善や助言を行い、改善されない場合は強制的な指導と対応が取れる様になった。改善勧告に従わない場合は、固定資産税の住宅用優遇措置が除外され、強制撤去費用も名義人へ請求される様になった。放置状態の空家は、周辺の不動産価値をも下げる訳だから当然の措置である。

 また「特定空家等」と指定されたり、土地の相続者不明の場合は、公共施設への接収が容易になった。今までの行政手法は、持家制度を税収面から優遇し過ぎたため、行政は空家になると防災や衛生面からも高額負担を強いられるのに、「イビツな住宅政策」が残されていた訳だ。空家が関係する事故や訴訟問題や、空家が周辺に悪影響を及ぼした時の損害賠償責任問題でも厳しくなって来ていて、空家の持主も考え直さなければならない時代となっている。整然と管理された地域の不動産価値は値上がりするが、空家が増えて活気を失っていく地域の不動産価値は低下するから、行政は「地域の美観維持や活性化対策等」からも、地域全体の再生のためにも、改正法の運用を徹底してもらいたい。

 

 空家率は地域間のバラツキが大きく、更に地方や田舎の空室率が大きくなっているから、地方振興面からも対策が急がれる。ところで都会の中心部の空家率も東京の千代田区36%で中央区28%と高い地区も出てきている。その原因は、18~25m2の投資用ワンルームマンションが数多く造られ、築30年等と古くなって利用率が低くなり、リフォームも放置されている物件が多くなり、結果として入居率が低くなっている。空家率が高い共同住宅内の空室は、次の利用者も入りたがらなくなり更に悪循環となっている。

 

 平成25年の空家の内訳は、①賃貸用住宅が53%、②売却用住宅が4%、③別荘等の二次的住宅が5%、④その他が39%となっている。「その他」の問題点は、「一戸建て木造が27%」と大半を占めている。賃貸も売却する気も薄い中途半端な空家に分類されている建物が分類されていて、更に木造住宅の評価を落としている事になっている。

 共同住宅や長屋の空室率は計10.5%だが、例えば長屋の一部に空家が在っても、全ての部屋が未使用の物件だけが空家としてカウントされる統計法から、実態はもっと多い事になる。又一人ッ子同士が結婚し自宅を建てた後に、両方の実家を相続すると3軒の家主となる等の社会現象も影響している。

 

 都市部で火災が起きると「劣悪な木造密集住宅が火災を大きくした!」と報道が騒ぐが、私に言わせれば「木造住宅が悪いのではなく、戦後に建てられた防災上問題が多い地区に、古く手入れの悪い住宅が密集状態で放置されている」事が主原因であって、「木材の責任」よりも、「密集地域の居住者や行政の管理不十分さ」が大きい事が問題である。(報道の影響力は大きいのだから、表現には反省を願いたいものだ。)

 

 それでは空家を増やさない対策にはどうすれば良いか。対策案には、①地域の人口減少を食い止める。②住宅の新築を制限する。③空家を取り壊す。④中古住宅の流通性を高める。⑤住宅以外の用途へ活用する案が考えられる。

 

 更に具体的に述べると、

 ①は、全国の行政が努力しているが殆ど成果は出ておらず、地方ほど難しい状況だ。

 ②は、新築指向の国民性の問題であるが、制限すると地域の経済活動を阻害する事となる。

 ③では、「放置した方が有利な現税制の更なる改正」や、環境悪化を招く物件は強制撤去するしかない。

 ④はリフォームした場合の優遇制度を拡充させる等と、市民の意識を変える必要がある。

 ⑤はリフォームする建築関係者の技能の活用で、もっと改善出来るし、規制緩和が期待される。

 

 来年6月に施行される「建築基準法の改定」では、改築許可条件が100m2以上から200m2以上へと緩和される。これを更に300m2まで緩和するなら、介護施設や飲食店等への転用の可能性を拡大できる。(私には古い法律が、日本の現状の改革を止めている事例と見えるので、時代の変化に合わせて改革改善して欲しいと思う)

 所で最近は殆どの市役所に空家担当者が置かれていて、鹿児島市役所には3名が配置され、市民から危険な空家の苦情が数多く寄せられる対策に追われているとの事だ。空家住宅と共に空き店舗の急増もあり、中心商店街のシャッター通り化が問題となっている。

 商店街の低迷は、地方の市民生活の質の低下となり町の活気を損なわせるので、「空家BANK制度」等を使って、行政は支援を始めている。空家店舗では、最近はリフォームの単語より、「リノベーション」の表現が使われる様になり、次の利用方法を考えてからの改造が増えており成果も上げている。所有者不明の物件は別にして、大半の空家所有者は「通常の生活には困っていない人が多い」事から、対策が遅れがちとなっているとの話だ。

 

 空家住宅も空きテナントも人口減少につながり、地域の活性化を失わせる問題だけに、行政は本気で早急に、不動産業界や地域住民と連携を強化して取り組んで貰いたい。

 

 昭和25年の建築基準法の制定以降の建物のリフォームは、確かに基準法をクリアーさせる必要はある。地震等の人命に関する安全管理基準は遵守すべきだが、全ての新基準を守らせる必要があるかは、議論が分かれるところである。

 そこで参考になるのが、近年の古民家の活用状況の変化である。

 

 今も残っている昭和10年以前に建築された建物は、使用材料が太い事もあって構造的にも丈夫だ。何よりも築後90年以上も自然災害に耐えて来た実績を見直すべきと思う。熊本地震でも、戦後の住宅が数多く倒壊したのに、築90年以上の古民家は多数残った実態を参考にすべきである。古い建物でも「柱と梁と土台の構造材と屋根がしっかり」していれば、改造は大工の腕とデザイン次第で見違える様に改装できる。築90年以上の古民家は安易に解体撤去せず、現在の生活に使い易い様に内部を改造する事で、日本建築の伝統美風格を蘇らせ再活用した方が、「美しい日本の資源の有効活用法」として考え直したいと思う。

 

 今年6月の政府の観光立国推進閣僚会議では、「外国人旅行者4,000万人達成に向けた観光ビジョン2018」で、ダム・橋梁・港等の土木施設を観光資源として開放すると共に、「建築基準法を緩和し、古民家や歴史的建築物を観光街造りの中核として再生する」と方針を発表した。増え続ける外国人旅行者を地方に向かわせるには、「地方独特の資源の活用が重要」と思う。

 

 日本が誇る土木建築技術を観光資源化し活かす「インフラ・ツーリズム」等の掛け声を現実化するには、木材を上手に利用した伝統的木造建築を活用する事なのである。

 

 先日聞いた「古民家=過去のごみを、未来の宝へ変える活用術」の話は参考になるので書き加える。「講師の井上幸一氏」は、愛媛県松前町の大手木材屋を引継ぐも、木材販売のジリ貧状況に不安を感じた。その時に「樹齢千年の木材を使用した建物は、千年の寿命を保つ」との講演を聞き、木材屋でも「古材活用への業種転換」を目指した。そして豊後高田市飛騨高山の古民家活用で町興しに協力した事で評判を高め、古材商売から古民家を活用するビジネスへ転換し、更に新民家事業へと領域を広げて事業を成長させた。情緒ある街並み造りには、古民家の活用が手っ取り早く、しかも「本当の木材の価値を活かす」事ができた。

 

現在は国も交付金の一律支給方式から「ヤル気の高い部門や人への補助金支給へと政策転換」を始めている。地方創世の解決策は「地方にタネ」が数多く残り、過疎地だからこそチャンスが活かせると考えて本気で探すと、古民家の「解体」から「買いたい」へ転換する事が出来る。

古民家活用の一例(岐阜県高山市「よって館しもちょう」)

岐阜県空家等対策協議会 H28.7発行「空家等利活用事例集」

 

 在来工法は昭和25年(1950)に、建築基準法が制定された時に始まった訳だから、対象時期の問題で国交省と協議を始めてみた。すると「基準法制定以前の建物は現法の対象外で、古民家は違法に非ず」それ以前の物件は「伝統工法として、別に自主的管理基準を作る事が可能」である。民間でも明確に新基準を公表し、納得させられる基準であれば「新市場を造る」事が出来る様だ。また昭和56年に改正された耐震基準の改正より以降の建物は、「木造は地震に強い」事に、もっと自信を持ちPRすべきと指摘された。

 

 「空家対策は、発生の予防が大事」で、「地方活性化は地場の仕事造り」として取組む必要がある。「日向市の空家活用PJ」に取組んでみて、新しい移民を増やすより、Uターン組等への働き掛けや、又男よりも女性の関心層への取組む方が即効性があったそうだ。

 

 平成30年1月に始まった「所有者不明の土地活用制度」(該当土地の50%は山林との事)には、来年1月から運用開始される「休眠預金活用制度」を、民間主導の公益事業へも活用可能となるとの事だ。築90年以上の建物は手入れ次第で、活用と一緒に維持保存が出来る。持続可能な循環型建物の社会的市場(今流行で言うと、SDGS=Sustainable Development Goals かな!)を育てる方法として、古民家のハードを使って旅行会社等のソフトと提携する動きも始まっている。

 来年10月の消費税値上げ時には、「空家活用のエコポイント制度」の実現運動も重要だ。「古民家に価値が生れる政策」は、木造建築物の相対的評価をアップさせ、そして「木材の需要拡大」や「植林の再生産活動」にも繋がると期待する。

 

 「牧歌的な日本の農村風景は守り続ける価値は高い。農村地帯に点在する木造民家の活用は、日本文化を守り続ける必須条件」と思う。(白川郷や京都や奈良だけではない。山奥の棚田を借景にした田園風景も、重要な日本遺産である。)田園の中に最近のプレハブが建っては、情緒も何も無くなると思いませんか。日本の安心作物を作る源の農村民泊を推進するには、「東京が絶対に真似できない、日本伝来の自然資源の活用」こそが、地方の活気の取戻しに繋がると思う。古い町並み復活に取組んでいる旧頴娃町の石垣集落の町興し隊の活動は、その意気込みを評価したいものです。

 

 地方の古民家活用の運動を、逆に都会へ「木材活用の気運」として送り届けたいものだ。東京オリンピックのメイン会場となる国立競技場は、全国各県から寄贈される木材が化粧材として大量に使用されるそうだ。全容が皆の目の前に姿を現すのも来春に迫って来たが、木材関係者は其の機会を逃してはならない。

 (西園)