メールマガジン第64号>稲田顧問

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★【稲田顧問】タツオが行く!(第21話)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「これまでのタツオが行く!」(リンク

21.年頭所感

  今月は年頭ということもあるので、第20話までとは少し異なるが、昨年の活動の反省と今年の抱負について、述べておこうと思う。

 

(1)昨年の活動を振り返って

a)超高層ビルに木材を使用する研究会

 「超高層ビルに木材を使用する研究会」は、木質混構造建物(特に柱梁S造、床CLT構造建物)の開発・普及を目的として、2013年秋に発足した研究会である。発足のきっかけは、私の福岡大学在職中、現在研究会の理事・監事を引き受けて下さっている山佐木材の佐々木社長とオーシカの梶原さんが研究室に訪ねて来られた事に端を発する。その後、佐々木社長、梶原さん、九州大学名誉教授の村瀬先生と私の4人で中洲の割烹に於いて会食したおり、研究会を発足しようということになった。

 2013年10月に第1回の定時総会を開催して以来、昨年10月には第6回の定時総会、記念シンポジウム開催するに至っている。その間、林野庁さんから補助事業を受託し、「柱梁S造、床CLT構造建物」の接合部およびCLT床の2時間耐火工法の開発・普及に努め、松尾建設新本店ビルを初めとする、実プロジェクトへの適用支援を行うなど、積極的な活動を展開してきた。

 2018年度には、松尾建設新本店ビル等の実績データを踏まえて、施工方法の改善およびCLT製造工程の見直しによるローコスト化を目指して、再度林野庁の補助事業を受託し、同工法のさらなる改良を目指している。結果としては、関係各社の協力も得て、接合部および耐火被覆について、新方式についての性能確認を行い、ローコスト化についての目途をある程度立てることができた。

 

b)建築鉄骨構造技術支援協会(SASST)

 昨年6月の定時総会において、理事長職を宇都宮大学名誉教授の田中淳夫先生から引き継いだ。 その後10月には、恒例となっている「鉄骨技術フォーラム」を、また11月には海外研修(シンガポール)を主催するなど、活発な活動を展開してきた。

 鉄骨技術フォーラムは、「鉄骨造建築物の構造設計・部材製作等における疑問に答える」をテーマに、事前に参加者から募った鉄骨造建築物の設計・製作等に関わる質問・疑問に対し、SASSTの役員が回答した後、会場と意見交換を行うという形式のイベントである。今回で、連続4年目の開催となるが、全国から85名の専門家の参加を得、極めて活発な意見交換を行うことができた。フォーラムの意見交換を通して、鉄骨構造のような既に確立していると思われる技術分野においても、現場では解決されていない問題がまだまだ多く存在することを改めて知ることができた。

 

c)その他の学協会等における活動

1) JSCA地球環境問題委員会

 2001年に特別委員会の位置づけで発足して以来、当初の10年間は委員長を務めるなど、建築構造分野と地球環境問題の関わりについて、私が特に力を入れて活動を行ってきた委員会である。2018年には、「地球環境時代における木材活用」と題し、JSCAの機関誌「structure4月号」の主集を企画し、40頁に亙る特集記事を掲載することができた。「structure7月号」では、「中大規模ビル型建物への木材活用に関する提言」を委員会提言としてまとめ、併せて2050年に向けた「ビジョン」と「ロードマップ」を寄稿した。

 今後はこれらの提言・ビジョン・ロードマップをJSCAの総意として認めて頂くよう、さらに働きかけを行ってゆきたいと思っている。

 

2) 日本建築学会

 どうしても縦割りとなりがちな学会活動にあって、従来木質混構造に関する研究活動が殆ど行われては来なかったことに対し、分野横断的な研究活動の必要性を痛感し、学会の社会ニーズ委員会に「森林資源活用促進を目的とした、超高層建築物を含む多層大規模木質混構造建築物の建設に関する調査研究」をテーマに、「大規模木質混構造建築物特別調査委員会」の設置申請を行った。申請に当たっては、様々な専門分野の方々17名にお声がけをし、貴重なご意見を頂きながら申請書にまとめたが、結果としては、残念ながら不採択となった。しかし、多くの方々から賛同と励ましのお言葉を頂きテーマの重要性を改めて再認識した。是非来期も再挑戦したいと思っている。

 

(2)新年を迎えての抱負

 ここでは、各協会等の立場からは少し離れて、個人的スタンスからの新年の抱負を述べてみたいと思う。

 

a) トラストエンジにおける木鋼混構造建築事業の立ち上げ

 トラストエンジは、福岡大学を定年退職した際に、将来の活動拠点となることを想定して、長年の親友である、元駒井ハルテックにおられた横山幸夫さんと共同で設立した、株式会社である。横山さんが社長を務め、私も役員として名を連ねている。具体的な事業としては、横山さんが鉄骨系のコンサルタント業務を中心に先行しており、殆どの売り上げは横山さんの尽力による。私も、今年こそは、木鋼混構造をテーマに新しい事業を立ち上げたいと思っている。具体的には、トーネジの岡部氏の協力を得て林野庁の補助事業で培ったLSBおよびドリフトピンのノウハウの事業化を目論んでいる。これらの接合具は、今回はCLT床を想定して開発したものであるが、本来の応用分野はさらに広いと考えられる。一方で、木鋼混構造においては、構造性能以外に耐火性能の問題など関わる専門領域も多く、ディテールも複雑となる。実プロジェクトに応用するためには、設計事務所等との情報の収集と連携を密に行うコンサルタント的な役割が求められる。取り敢えずは、関係組織間の協力体制を整備し、役割分担の明確化を進め、徐々にではあるが体制固めを行ってゆきたいと考えている。将来的には、木鋼混構造建築システム普及のためのコンサルティング事業を、トラストエンジの一つの柱となるように育ててゆきたいと考えている。

 

b) 新しい建築システムの立ち上げ

 昨年の個人的な成果としては、多くの新しい人脈が発掘できたことが上げられる。専門性の異なる2つの協会の会長と理事長を兼任することについては、若干の躊躇いはあったが、結果としては、「二兎追うものの強み」を活かして、面白い人間関係が築けたのではないかと思っている。 

 例えば、前述のトーネジの岡部さんと知り合ったのは3年前にSASSTの理事に就任してからである。もし、SASSTの理事就任を断っていたら、岡部さんとの関係も得られず、昨年の林野庁の補助事業も現在のような展開にはならなかったのではないかと思う。

 現在目論んでいるのは、SASSTの会員企業の得意分野である建築二次部材に用いられる軽量鉄骨と「薄板によるCLT」の木質混構造建築の可能性についてである。内装材として使用するか、低層の住宅向けの技術とするか、未知数ではあるが、私の周辺には様々な専門家が存在する。2つの協会の得意分野を活かした製品開発ができればというのが、今年の私の個人的な抱負の一つである。

 

(稲田 達夫)