メールマガジン第68号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第25話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

25.原点に帰って

 山佐木材が本拠とする鹿児島県大隅半島と、永年住み慣れた自宅のある横浜を行き来する生活を送るようになって丸2年になる。ここでは、なぜそのようなことになったのかということについて少し書いておきたい。
 元々私は、2000年頃から、日本建築学会の地球環境委員会、日本建築構造技術者協会の地球環境問題委員会等に籍を置くようになり、建築構造技術者の立場から、建築生産段階における環境影響をテーマとする活動に取り組んできた。当初は、主として鋼材、コンクリートを中心に構造材料の資源循環の問題について検討を行った。あるいは、旧丸ビル、日本工業倶楽部会館の解体調査を行った経験に基づいて、建物の寿命に関する問題などもテーマとしてきた。当時、カーボンニュートラルな材料と言われる木材活用の問題が、重要なテーマの一つであるという認識は持っていたが、それを積極的に取り組みテーマとするという姿勢は持っていなかった。

 それが、大きく流れが変わることになるのは、2009年に建築学会の地球環境委員長に当選してからである。委員長になると、新しいテーマを対象にWGを設置することができる。私は日頃から気になっていた木材活用の問題を本格的に検討するため、「地球環境時代における木材活用WG」を設置することにした。当初は、建築物の木質化を図ることにより、どの程度のCO2排出削減につながるかということをテーマとしてきた。しかし検討を進める中で、委員の方々から、むしろもっと大きな問題が存在することについての指摘を受けたのである。

 戦後しばらくの間、敗戦により荒廃した国土を復興するため、大量の木材を消費した結果、我が国の山は森林資源の枯渇の危機に瀕していた。この問題の解決の為、林野庁等が先導して、大規模な植林事業を展開した。これは、遠い将来を見据えた極めて有意義な事業であったとみるべきであろう。その後、数十年が経過し、その植林された樹木が成長し活用期を迎える中、森林資源の活用が必ずしもうまくは進んでいないという現実があることについて指摘を受けたのである。 


 今日、我が国の森林資源(人工林)の蓄積量は、30億m3に達している。しかも、成長した樹木は特に植林を行わなくても、成長(炭酸同化作用)により蓄積量は毎年増加する。試みに、統計データから森林の蓄積増加量を推計すると、森林資源は毎年約7,800万m3増加していることになる。一方国産木材の供給量は2,700万m3/年程度であるから、森林資源の使い方としては、まだまだ不足しているということになる。
 WGの議論の中で、国産森林資源の活用促進のためには以下のような視点が重要であることが明らかとなった。

① 我が国の新築着工木造率は35%であるが、その殆どは低層の戸建て住宅である。軸組み構造を基本とした低層戸建て住宅は、少ない材積にもかかわらず、高い耐震性を誇る優れた構造形式である。そのような我が国固有の技術の継承が損なわれることのないよう配慮することは重要である。


② 国産木材の需要拡大のため、外材を国産材に置き換えることは、国際的にも大量の木材消費国である日本としては、地球規模の森林資源の消費のバランスを崩すことにもなりかねないことから、地球環境的立場からもすべきではない。

 

③ 従って国産木材の新規需要分野を新たに立ち上げることが必要である。その一つの分野として、これまで殆ど木質構造が採用されることの無かった、多層の大規模非住宅建物(つまり事務所ビル等)に木材の積極活用を図るべきである。(それにより、将来的には新たに、3,000万m3を規模の木材需要の拡大に繋がる可能性がある。)

 

項目 計算結果
年間新築着工床面積  1.5億m2
非住宅非木造建築比率 40%
地上階比率 75%
CLT床厚 150mm
木材使用量(CLT) 675万m3
歩留まり 20%
木材使用量(丸太) 3375万m3

 

人工林の蓄積量:30.4億m3
人工林の材積年間増加量:7800万m3/年
年間国産木材消費量:2714万m3/年

●非住宅非木造建築の床木質化による
新規木材需要の増加量:3375万m3
年間国産木材消費量の予測:6089万m3



 

   その後、山佐木材の佐々木社長(現・会長)との出会い、超高層ビルに木材を使用する研究会の立ち上げ等を経て、今日の状況に至ったわけであるが、その辺については、また別の回で披露したいと思う。

 

(稲田 達夫)