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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(49)
「ホウ酸処理木材の野外試験3年目の報告」
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年号が「令和」と新しくなって最初のメルマガです。宜しくお願いします。
ところで「令和の『令』は『霊』の簡略字で、『計り知れないほど神々しく、とても素晴らしい』との意味が有るのに、何故か勘違いして「命令の令だ」と批判する報道や一部の政治家が居たのは不思議でした。日本最初の独自歌集である万葉集に由来する新年号だから、国民の多くが「日本語の奥深さを表す和風文化の語彙」だと祝ったと同じ様に、皆が素直に解釈すべきだったと私は思う。
そして日本の伝統文化の一つである「木造建築物や国産木材活用に取り組む」事も大切だと考え頂き、「国産材の育林と木材活用の更なる両立」を、令和の時代には是非実現したいものです。
今回は「ホウ酸系薬剤(DOT)の、防腐処理効果の野外試験3年目の調査報告」を纏めて報告する。(試験は開始5年目になれば、もっと顕著な結果が出て来ると期待しているが、とりあえず中間報告として参考にして頂ければと思う。)
木材には多くの長所があるが、自然素材だけに弱点もある。戦後暫くは木材の弱点に注目し過ぎて、木材利用に厳しかった時代も続いた。しかし最近の10年は「弱点の補正対策に十分に取り組むならば、木材の長所を再評価し活用する時代」へと改革されて来ている。伝統的に育んできた木材活用の技術と知恵と、そして新しい対策を活かして木材利用面を更に発展させたいものだ。
木材の弱点の一つは「木材は10~15度以上の気温環境に置かれ、更に水に濡れるか湿度70%以上の環境の条件が揃うと、腐朽菌や白蟻が繁殖し始める」問題がある。と言う事は我が国の西日本地区の春3月~秋11月は、木材住宅の耐久性や維持面では厳しい気象条件にあると言える。それでは北海道や東北や、また冬の間は腐朽や白蟻問題は起き無いかと言えば、別の新しい問題が起きている。
戦後の昭和25年に制定された建築基準法では、「住宅は防火と耐震対策が重視」されたことから、布基礎工法が採用された。その後、省エネ断熱対策も重視されて、冷暖房設備の設置も増えて来た。そのため居住者からは見え難い「建物の床下部分」は、省エネ断熱が完備されて来た事で寒冷地でも外部との通気が不十分となり、結果として「白蟻や腐朽菌が繁殖し易い最適な温湿度環境」となっている。
家造りで良く聞かれる「この家の床下は土間コンクリート打ちしたから、白蟻の心配は無用」との素人的説明に、安心するのは早い。白蟻は建物外に地下巣を作り、そこから地下を通り、土間コンクリートの僅かな空隙を通り抜けて布基礎に蟻道を作り、建物へ這い上がる例が数多く見られる。建物内へ立上っている電気や水道等の床下配管の僅かな隙間から侵入している被害事故例は枚挙にいとまが無い。土間コンを打つと逆に地下の営巣探しが難しくなり、徹底的な駆除工事が困難となる場合が多い。最近は配管周りに「ホウ酸(DOT)入りの充填剤を塗り込める施工例」が増えているのは適切な工法である。
木材は再生可能な資源であり、人間に適した居住環境を提供してくれる建築資材である。しかも戦後の我が国では植林に努力した事から、現在は木材の総需要量を全て国産材で賄っても、まだ輸出が可能なほどの森林資源が育っている。空中のCO2を吸収し酸素を吐き出すことで、地球環境の低炭素化対策に貢献する資源であると共に「国内で100%を自給出来る、日本では数少ない資源」でもある。現在の床下密閉式工法で断熱性能を優先する住宅建築で使用される主要構造材は、十分な木材保存処理を行う必要がある。その対策として加圧注入木材の採用が急増して来た。木造住宅の建設現場の白蟻防除処理に殺虫効果が高い薬剤を使う時は、環境や家の居住者への影響にも配慮する事が大切である。白蟻へ長期間の殺虫効果を発揮する薬剤は、また居住者(特に妊産婦や乳幼児)や環境にも多大な薬害を与える可能性が高いことから、「木材保存剤の選定は重要」である。
「腐朽菌や白蟻害から木造住宅を守る保全効果と、地球の環境対策や居住者の健康安全」の三つの条件をバランス良く満たすには、何よりも一番先に「人々の健康への安全面」から考える事が大切である。それには「ホウ酸(DOT)に勝るものは無い」と言われている。しかし「ホウ酸(DOT)は水分や高湿度の環境下では、溶脱する弱点」を持っている。だからホウ酸系薬剤の処理は「屋外や接地条件下の使用」は避けた方が良い。
薬剤を予防剤として使用する時は、濃度管理と施工方法に留意する必要がある。山佐木材では加圧注入缶を設置し、15%濃度の薬剤で木材処理をしている。又施工現場での予防処理が必要な場合は、散布用には濃度20%以上の作業液の使用を推奨している。ホウ酸系薬剤は高濃度で処理すれば、木材の深部にまで浸透する「後期浸潤性」の優れた特徴を活かす事が肝要である。
最近の白蟻駆除業では、「残留効果が5年程度の農薬系合成薬剤の使用例」が多い事から、昔に比べて長期的な防蟻効果が期待出来難い問題が出ている。その上に最近の木造住宅は省エネ対策が重視されて、高断熱性と高気密性も求められることから、「5年毎の床下や壁面内の定期的な防蟻再処理施工が難しい建物構造」となっている。だから「5年目以降の木造住宅の維持対策」をどうするかが、木造住宅の長寿化対策の大きな問題と言える。また居住環境への配慮から施工方法も改善されて、「ベイト工法」が増えているのは時代の要請であろう。
太平洋戦争以前に建てられた木造建築では、日本の気候条件と木材の長所短所を考慮し、「各地域の条件に適した樹種を選定した上に、腐朽やシロアリ蟻害等を受け難い様な施工対策を考えて建築」して来た。そして「木造建築物の維持や保守作業を定期的に行う」等の木造建築物の伝統的な管理法も確立され実行されて来ていた。(現在施工中の鹿児島城の御楼門の施工準備段階では「束石は自然石の丸形を使い、その上に乗る柱材の木口面部分は、束石の丸みに合わせて加工している。木口面からの水分の吸収を減らす」等の、日本の伝統工法を丁寧に忠実に取り入れているそうだ。その加工細部に注目して欲しい。)
アメリカや豪州やニュージーランドでは、「ホウ酸(DOT)は、人間にも環境にも優しい総合力」が評価され、50年も前から住宅建築用として全面的に採用されている。しかし日本では利用者が直接に見学し確認できる様な「国内での野外試験地」が少なかった事もあり、ホウ酸系薬剤処理は、米国式建物管理基準の影響の強い沖縄地区を除いては認知度が低いのが現状である。
日本本土でのホウ酸(DOT)普及を目指すために、山佐木材では大隅森林管理署の協力を得て、大隅半島の東串良海岸柏原国有林地を借りて、平成27年(2015年)11月から「ホウ酸系薬剤処理材の大規模で長期的な野外試験」に、着手している。木造建築関係者の要望が有れば試験状況を公開し、「木材保存試験の見える化」へ取組んでいる。多くの人々に「木造住宅でのホウ酸(DOT)処理の有効性」を見て、納得した上で採用して頂きたいものである。
試験項目
試験材設置総数は、①30㎜角×150㎜試験材を、8樹種類×各5本×6処理法×2セット=480本。②接地試験用には2樹種×各5本×5.5処理法=55本。③追加の15%加圧処理材を50+8=58本。④120㎜角×200㎜の切断試験体が81+93=174本。更に⑤EPS試験が2種類×5組=10組。総計777試験材の大規模な長期的屋外試験に取組んでいる。今回は開始後3年目の概略を報告するものである。
試験材の食害状況の調査判定の等級:「0=健全。10=表面の一部に浅い食害有り。30=表面の一部に内部までの食害有り。50=内部の広い範囲に食害が有る。100=食害によって試験材の形が崩れている。」との判定結果の食害指数の平均値である。現地調査の確認は、外部の専門家にお願いしている。
木材は自然素材だから、腐朽菌や白蟻蟻害には特異な結果が見られる場合も有るが、総合的な統計結果をまとめてみる。(尚 第2試験地は現状では食害が見られないので、今回は第1試験地と、第3及び第4試験地の調査データを集計し分析した。)
現状分析
⦿「集計表①の30㎜角のJAS規定の試験」では、注入品(10%加圧・10%真空・15%真空・15%加圧方式)の被害度は、20%塗布試験材の「半分」である。比較試験用の無処理材の被害度は「2.3倍」の差が出ている。「注入方法による効果の差」はあると言える。
樹種毎の被害度の格差は、注入品では米栂の被害割合が大きい。他の樹種間では大きな格差は今の所現れていない。
⦿「集計表②の接地使用状況での試験」では、ホワイトファーの被害度が大きい。また比較素材はホウ酸系薬剤処理材の被害度に比べて大きい。ホウ酸(DOT)処理の保存効果が表れていると推定出来る。
⦿「集計表③の120㎜角材の試験」では、注入品(10%加圧・10%真空・15%真空)の被害度は、20%塗布試験材の3割程度と低い。無処理の比較試験材との被害度の差は、3割程度である。(明らかに注入処理品の優位性が見られる。)「樹種別の比較」では、注入品では他の樹種に比べて、米栂と米松と杉辺材のグリーン材の食害割合が大きい。比較用の素材では米栂の被害が大きい。(国産材に加圧注入した場合の優位性が見られる)
山佐木材は「九州唯一のホウ酸(DOT)の加圧処理を行っている事業所」である。一度現場を見学された上で、相談される事を期待します。
(西園)