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★【大学研究室だより】台湾國立成功大學・小松幸平先生より
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お久しぶりです。
私は現在、台湾の台南市にある國立成功大學建築学系の研究室で大学院教育のお手伝いをさせて貰っています。
【写真1】は私の居る研究棟で、3階の右端に居ます。やや古いRCの建物を鉄骨で耐震補強した建物です。
成功大學と聞くと、何やらビジネスで儲けて成功する方法を教える大學かと勘違いする人もいるかもしれませんが、違います。
名前の由来は、台湾をオランダの植民地支配から解放した国民的英雄、”鄭成功”の名前から来ています。日本の近松門左衛門は、彼の英雄的活躍を題材に「国性爺合戦」を創作したそうですが、鄭成功の他に、国性爺という名前もよく使われています。
【写真2】は、鄭成功(国性爺)がオランダ支配から台湾の独立を勝ち取った象徴の一つ台南郊外の安平古堡 (Fort Zeelandia、ゼーランディア城) で台湾の行く末を見守りつづける鄭成功像です。
成功大學は元々日本が創設した台南高等工業学校が前身ですので、工学系は全般的に評価が高いようです。特に建築は國立大學では台湾唯一らしく(台湾大學には土木しかないので)、教員や学生のプライドは非常に高いものを感じます。いまでは、医学系、生命科学系、航空宇宙系、その他殆ど全ての学部を有する総合大学です。
【写真3】は昔の校舎を大学の歴史を展示する博物館として再生させた建物です。
こちらの大學の講義は1回150分です。間に10分の休憩を2回取りますが、1回の講義で用意すべき教材は日本の2倍以上の量が必要です。講義は英語ですので、教材の準備が大変です。講義が終わって次の講義までの一週間は、全て講義資料作成の為に費やされ、あちこち出歩くなどということは全くできない厳しい每日が続いています。
受講者は大学院生十数名で、建築系と土木系が混ざっています。英語の授業は数少ないので、海外からの留学生にとっては格好の単位取得可能授業と見なされるようです。
台湾には、【写真4】のような伝統建築と自然公園や特別の目的を持った建物、そして日本統治時代に立てられた古い建物以外に木造建築は存在しませんので、この国で木造の講義が本当に受け入れられるのか、当初は自信がありませんでした。しかしやっていくうちに、欠席者も思ったほどは出ず、皆さん結構熱心に授業を聴いているようなので、今のところ何とか受け入れて貰っているようです。
さて、【写真5】は成功大學の名物でもある熔樹(バンヤンツリー:ガジャマルの樹)の植わっている広場です。この大木は昭和天皇が皇太子の頃お手植えされたもので、市民の憩いの場になっています。朝早くから多くの人達が、この大樹の周りに集まって、太極拳や武術をしたり、あるいは樹の周りに座ってじっと樹木の霊気を全身に浴びたりしています。
熔樹やその他の樹木には必ず台湾リス(正式名:赤腹樹木リス)が住み着いています。【写真6】に示すように人間を恐れることもなく、平気で地面に降りてきます。
リスは愛嬌があってかわいい存在ですが、面白いのは大學の犬です。各キャンパスには学生が管理している犬が必ず居て、他所から入ってくる犬を追い出す時はハッスルしますが、普段は【写真7】のように大抵ごろ寝をしています。
こちらでは、木構造の講義が主たる仕事ですが、大学院生の博士論文研究の面倒も少しだけ見ています。
【写真8】は、博士後期課程のYeoさんの実験風景で、台湾の伝統的木造建築のモデル試験体に屋根荷重に相当する鉄の錘を母屋の位置に天秤棒の要領で前後にぶら下げて設置して行きます。この実験では、天井クレーンを操作して錘の量を増加させたり減少させたりしながら、同時に正負繰り返しの水平力を横からのオイルジャッキで作用させるという極めて難しい作業が必要です。
私が考えた方法ではありませんが、この何とも難しい危険な実験は延々二日掛かりの難作業でした。
成功大學での研究というのは、実はこの実験が唯一です。これ以外では、台北の振動台実験施設を使っての集成材2層門型ラーメンの実験がありますが、紙面の関係で、またの機会に紹介させていただきます。
(小松幸平)