メールマガジン第88号>会長連載

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★【会長連載】 Woodistのつぶやき(45)

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糖尿との付き合い

 もうすぐ75歳になるが、幸い今のところ血圧、コレステロールなどさしたることもなく、薬に頼らず生活できている。血糖値も以前のように正常だろうと思っていたが、3月某日久しぶりに、家の近くにある高山胃腸科・外科病院で血液検査を受けたところ、血糖値を示す2つの指標ともに上限値を20%ほど超えていた。

 薬によらず食事療法に取り組む事を、会社の産業医も務めて戴いている南曲医師に伝え、2ヶ月後の再検査を予約して帰る。そして5月初旬再検査の結果、血糖値については130から、今回90にまで下がっていた。この2ヶ月間、以前やっていた糖質制限食に徹したのである。

 

 十数年前だったろうか、ある夜「文藝春秋」を拾い読みしていて、糖尿病についての論文が目にとまった。実はこの頃健康診断の血液検査で、血糖値、高コレステロールなど、10項目に基準値越えの注意マークが付いていたのである。血糖値を下げる薬も処方され服用していた。併せてバランスよい食事、総カロリーの制限などの栄養指導も受けて、食品ごとの「80カロリー1単位」なども覚えようとしていた。

 文藝春秋の論文は私には驚くべきものだった。ざるそば1枚が300カロリー、ビフテキ1枚が1,000カロリーとして、糖尿の観点からどちらが好ましい食事かと言えば、それは問題なくビフテキである。糖尿の問題は総カロリーにあるのではなく、糖質の取り過ぎにある。そして今言われている「バランス良い食事」として推奨している食事のカロリー配分は、炭水化物(糖質)の比率が高過ぎる。アルコールは体内で糖には転換できないので、カロリーがあるとはいっても糖尿には関係ない、などなど。

 独自の糖尿病治療法を唱える著者は、論文を読んでいて伺えるが一種の異端児らしい。しかし私にはこの論文の趣旨が、アルコールは関係ないも含めて、非常に納得できた。そしてインシュリンを使わずとも糖尿病を克服できるということに、満腔の賛同を覚えた。

 著者はどなたであったろうか、中身に引きこまれて著者の確認を怠った。今にして思えば、糖尿病治療にいちはやく糖質制限食を取り入れ、非常に成果を上げておられる京都の江部医師であったろうか。

 

 当時から様々な合併症を引き起こす糖尿病は怖い、ガンよりも怖いという認識を持っていた。家内にこの論文を見せて、「これ明日の朝から実行する」と宣言した。翌朝から自分の食事の中から徹底して糖質を排除した。大好きなご飯。パン(ビールにカツサンドのうまさ!)。スパゲティ。芋(さつま芋、じゃが芋、里芋)。羊羹。などなどとしばらくお別れである。

 家では家内の協力でどうにかなるが、外食の時はつらい。普通の食堂で丼物、ラーメン、うどん、定食などから糖質を排除しようとすると、喰うものがない。

 年一度健康診断でお世話になっていた園田クリニックで、この食事体制を始めてから1ヶ月に一度、検査を受けた。「君のは少しやり過ぎだよ」と園田先生に言われながらも、結果は面白いように出た。引っかかっていた注意マーク10項目のうち、1ヶ月目にまず3項目、2ヶ月目には6項目、3ヶ月目には9項目が標準値内に収まった。1項目残ったが、「それは生まれつきのようなもので、気にしなくていいよ」とのこと。

 不思議に思ったのは、アルコール摂取に関係すると言われる指標(γGTP)の数値が、3ヶ月前より半減していたことである。実は糖質制限食の影響か、飲酒量はむしろ以前より増えていたのだが。

 その疑問に園田先生は、「君の肝臓は以前は肝臓の組織内に脂肪がたまった脂肪肝の状態だった。今見ると肝臓の脂肪がすっかり取れて、肝臓本来の健全な組織に変わっている。それで肝機能が正常に働いたんだろう」という大変明快な説明で、嬉しく納得した。

 意図したわけではないが、体重が10㎏減った。ちなみにこれは二十歳台の頃の体重である。ただ鏡で顔を見ると自分ながらいかにも貧相な顔貌になって、家内からも人からもずいぶん言われた。病気かとも心配された。

 

 爾来さすがにあの3ケ月の徹底した糖質制限食はやめて、一日に一食のみは許すことにした。それでもご飯だと茶碗に軽く半分ほど。酒は糖質の入っていないもの、日本酒、ビールにもそういうものがちゃんとあるので、取り寄せている。あとは焼酎。これでその後の年1回の検査でも特に異常は出なかった。

 それがまさかの先日の検査結果。気の緩みか。猛省して再び2ヶ月間、あの頃と同じように徹底した制限食に切り替えた結果が、血糖値の大幅減少である。ただもう一つの指標であるA1cの数値の下がりがいま一つであり、引き続き食事に気をつけているところである。 

(佐々木 幸久)