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★【シリーズ】CLT(Cross Laminated Timber)(65)
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「床CLT構造の木造橋耐久性向上技術の開発」
~鹿児島県庁内木歩道橋の架け替え工事の事例紹介~
令和2年度の補助事業「外構部の木質化対策支援事業(企画提案型実証事業)床CLT構造の木造橋耐久性向上技術の開発」にて、鹿児島県庁内木歩道橋の架け替え工事を行いました。
本橋は、鹿児島市鴨池新町にある鹿児島県庁の庁舎東側(桜島側)の庭園部にあり、平成8年に架設された写真1.1のような歩行者専用の歩道橋です。隣接して写真1.2のような車道規格の木橋もあります。
橋長8.0m、支間長7.5m、有効幅員2.5mで、主桁には断面が150×550mmのベイマツ構造用湾曲集成材が使用されていました。
供用中に保守工事が何度か行われています。
平成17年には側面の高欄の付け替え、木部の塗装、および床板の取り換えが実施されました。
写真1.3は平成17の保守工事完成時です。写真1.4は平成28年の状況ですが、周囲の植生が高欄部に侵入しているのが分かります。
木橋の解体・撤去と劣化部分の調査
既存木橋の解体・撤去を、令和2年11月初旬に行いました。解体時に観察された劣化状況を報告します。
幅員方向に主桁の湾曲集成材が3本配置されていますが、床版材を撤去した主桁の上部面の劣化が激しく、また横断勾配により雨水が両端部に集まるため主桁両端部が激しく劣化していました。
桁端部の劣化は多くの木橋で見られます。木口面が露出していること、また泥が溜まりやすく閉塞空間になりやすいことによります。本橋の場合、桁端部がコンクリートで覆われていることも不利になっていました。また高欄材部分が主桁材の外側に固定されており、外側主桁はその接触面に劣化が見られ、高欄材側も同様に接触面の劣化が見られました。
新しい橋の設計では、高欄の形状や固定方法に検討が必要であり、管理では周囲の植生が橋に及ばない配慮が必要ということになりました。
新設木橋の概要
① 橋長 8.0m ②支間長 7.5m ③有効幅員 2.5m ④高欄の高さ1m以上
床版に用いるCLTには、表面の撥水効果と木材内部への水の侵入を阻止する効果が見込めるラッピング手法を試みました。
主要構造部材である主桁、対傾構および水平ブレスの薬剤処理は、加圧処理法としました。木材に使用される保存処理薬剤には様々な種類がありますが、中には金属の錆の発生を促す薬剤があるため、接合部に金物を使用する場合には、薬剤の適切な選択が求められます。
木歩道橋架設状況
耐久性能向上技術が関与する製造・施工時の課題検討
木橋の耐久性に対して、材料製作・施工で留意した点
1)CLTラッピングとの取り合う、ラグスクリュ-ボルトの打ち込みを注意。
(ラグスクリューボルトの頭を材にめり込ませないよう配慮)
2)集成材の木口にエポキシ接着剤を塗布し、木口からの水侵入を軽減する。
3)仕上げ塗装3回塗布(工場2回+現場1回)
4)ラッピング塗装材のCLT施工時の吊り込みにラグスクリューボルトを利用して施工を行う。
※耐久性向上へ今回の木歩道橋で施工上の留意点として上記のような施工を行いました。
維持管理の重要性
木材の腐朽や気象劣化は、木橋の利用者に不安を与えるだけでなく、安全性も徐々に低下していくことになります。また木橋が利用されている間は、炭素が固定されている状況にあるため、地球環境の観点からも、より長く利用することが求められます。
良好な状況を長く維持していくためには、木橋を定期的に点検し、必要に応じて補修や修繕を行う必要があり、このような行為を維持管理といいますが、腐朽が進行した段階で修繕する事後の維持管理に対し、計画的に点検、診断、補修を行い、機能低下や劣化を察知して故障を未然に防ぐ予防的な維持管理があります。
予防的な維持管理では、点検や診断、定期的な塗り替え、部品の取り替え等を実施します。腐朽や蟻害が進行してからでは修繕費用が高額になる可能性があるため、設計計画の段階で、専門的立場から維持管理計画を策定することが望まれます。
※今回の鹿児島県庁内木歩道橋改修工事でご紹介してきた工事の中に、新技術として採用した施工内容を簡単にご説明します。
1)ラッピング工法--CLT床版と床版受材にホウ酸塩塗布後施工(今回2社の工法を採用)
A) 製品名:オートンウルトラコート工法
B) 製品名:ハイボンドクリア工法
2)主桁(中央部):サムライ杉集成材(鉄筋挿入集成材 210×576断面)
3)メンテナンスを考えた消耗部品(取り換え可能)として150mm厚CLT床版の上に36mmのCLT床版を設置し取り換え可能としている。また高欄の支柱・笠木も腐朽や蟻害などの状態による取り換え可能な接合としている。
おわりに
今回の補助事業「外構部の木質化対策支援事業(企画提案型実証事業)床CLT構造の木造橋耐久性向上技術の開発」において、委員として木橋におけるさまざまな注意点や新技術のご提案を頂きました。
謝辞
鹿児島県庁内木歩道橋改修工事の実施にあたり、
委員長:原田浩司様
委員:北海道大学 佐々木貴信教授
委員:京都大学 小松 幸平名誉教授
委員:福岡大学 渡辺 浩教授
委員:鹿児島大学 塩屋 晋一教授
技術検討委員会の皆様にご協力頂きました。ここに記して、深く感謝の意を表します。
山佐木材株式会社 建設部