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★【稲田顧問】タツオが行く!(第47話)
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「これまでのタツオが行く!」(リンク)
47.環境問題と経済
つい最近まで、ウッドショックという言葉をよく耳にしたが、同じような話題が鉄骨関係者の間でも広がっている。鋼板や柱材(コラム等)の入手が困難になっているのだという。昨年は、高力ボルトが中々手に入らないという話をよく聞いたが、同じような状況が製品の形を変えて今も続いているということのようである。
鋼材の入手が難しいという話は、昔も聞いたことがある。特に私がよく覚えているのは、2001年頃、私が丸の内の再開発計画に携わっていた頃の事であるが、鋼材の入手が難しく6か月前までに手配をかけないと、納期に間に合わないかもしれないと脅されたりしたものである。鋼材を6か月前に手配するなどと言うのは建築の設計のスケジュール感から考えてもあり得ないような話に思えたので、それでは日本以外の会社から鋼材を仕入れようということになって、韓国の鋼材メーカー、「ポハンスチールコーポレーション(POSCO)」に海外出張を敢行した。POSCOは当時としては、世界最大規模を誇る製鐵所であったが、操業開始に当たっては日本の製鉄所の手助けがあったという話を聞いていた。
POSCOを訪問してまず驚いたのは、同社の経営陣が多分40歳代と大変若く見えたことと、技術者の多くが海外の留学経験がありその殆どが博士の学位を取得していることであった。このような布陣であったから、多分我々の要望にも十分応えてもらえるものと大いに期待したのであるが、必ずしもそうはならなかった。
理由としては、
①POSCOの鋼材は韓国国内市場向けが殆どであり、生産能力から見ても海外に輸出するような余裕は
ない。
②技術的に日本の製鐵所を頼りにしている所は多くあり、日本の市場に進出することで、その関係を
壊したく無い。
というようなことであった。と言うわけで我々の思惑は残念ながら思い通りにはならなかったのであるが、当時の日本の技術的ポジションが少しわかったような気がしたものであった。
当時鋼材の入手が困難になった理由としては、鋼材の多くが経済的にも活況を呈している自動車業界に流れているということのようであったが、考えてみればこれも仕方のないことであったのかもしれない。なぜならば、日本の建設業(国内市場)はかなり特殊な経済的状況にあった。というのは、多くの産業分野が右肩上がりの成長を示す中、国内建築市場だけは縮小傾向にあった。例えば、年間新築着工床面積で見ると、1974年には約3億m2であったものが、2001年には2億m2、現在は1.5億m2と縮小傾向にある。鉄骨造建物の比率は大きくは変わらないことから、市場として縮小していることは間違い無いと思われる。
理由としては、一つには戦後復興の厳しい経済環境の中で品質的にも優良とは言えない建物が多く建設されたが、それらの建物はいずれもが短命であった。その後、環境圧力もあって建物を大事に使おうとする気運が生まれ、建設される建物も高質化したことにより、建物寿命は延伸することとなった。その結果、年間新築着工床面積は縮小傾向となったのである。
このように考えると、建物寿命が延伸したこと自体は、環境問題の視点から考えても、基本的に大変良いことであり、この傾向はカーボンニュートラルの流れを考えれば、今後もさらに進むことになる。一方でこのような傾向がさらに進めば、建設業界は他分野に比べ必ずしも魅力的市場とは言えず、素材供給が他分野に優先されるのもやむを得ないようにも思えるのである。
原発と再生可能エネルギーのバランスの問題、新型コロナ感染拡大抑制と営業自粛の問題など、環境問題と経済のトレードオフの問題は様々な場面で生じている。
ウッドショックや鋼材価格高騰の問題の背景には意外と大きな問題が潜んでいるようにも思うのは考えすぎなのだろうか。
(稲田 達夫)