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★【稲田顧問】タツオが行く!(第50話)
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「これまでのタツオが行く!」(リンク)
50.品質管理
ここ数年私は鋼木混合構造建築に関する技術開発に取り組んでいるが、最近になって品質に関する問題が仕事を進める上で何かと気になることが多い。
例えば鋼構造フレームと木質部材を接合するためには多くの場合ボルトを使用することになるが、このボルト孔のクリアランスで物議を醸すことがある。例えばある人は、「建築基準法でボルト孔のクリアランスは1mmと決まっているのだから、それを守らなければ基準法違反になる」と言う。「1mmというのは本来鉄骨造の場合の規定だから、この場合は関係無いのではないか。それにこの製品はクリアランス4mmで審査機関の評定を受けている」と言うと今度は、「4mmなどでできるわけがない。木造の精度は鉄骨造とは異なる」と言われる。「集成材やCLTのようなエンジニアリングウッドの精度は決して悪くない」と言うと、「そもそも鉄骨の精度が悪い。とてもクリアランス4mmなどという管理はできない」と言う。「鉄骨造は基準法に従って1mmで管理しており、それで建物はできているのだから問題無いと思うが」と言うと最後は、「鉄骨造も実は1mmなどでは管理できていない」と開き直られてしまうこともある。
品質管理の問題は、1970年代から80年代にかけて、深刻な品質問題が発生し、その克服のためにTQCやISO9000のような品質管理システムの導入が進められた。その目的は、品質管理への経営層の関与と組織を超えて業界を横断する品質管理活動の推進であったと思う。全員参加や、継続的な品質改善への取り組みが重要なキーワードとなった。
たまたま時間があってネットを検索していたら、「鉄骨造建築物の品質管理」という文書がヒットしてきた。
https://www.kenken.go.jp/japanese/research/prd/list/topics/hinshitsu2/Chapter3.pdf
(国立研究開発法人 建築研究所ホームページより)
建築研究所の所管の文書のようであるが、読んでみると、品質管理の要件として、
・建築物が本来の目的・用途に必要な機能を有すること
・建築主の価値観・期待を満足すること
・法規制、規格、標準等を満足すること
・社会的要求に適合すること
・環境に関するニーズを考慮していること
・競争力のある価格で提供されること
・経済的に妥当な活動により提供されること
を掲げており、ISO9000が骨組みとなっていることが見て取れる。
「鉄骨工事品質管理要求調査票」を作成することにより、工事の特殊性を評価し適切な品質管理グレードが抽出されるような建付けとなっていることなど、品質管理の理念から具体的運用に至るまで、細かく規定されており、よくできた品質管理システムだと思う。そういえば最近このような品質システムの話を仕事の中で議論することが少なくなったことに気が付いた。
永年培われてきた各専門分野の努力の中で、我が国の建築物の品質は著しく向上したという見方もあると思うが、油断をすればあっと言う間に劣化してしまうのもまた品質である。「鋼木混合構造」という新しい技術分野の出現を機会に、細かい技術の話に拘るのではなく、品質管理の根幹の問題について改めて見直すことも必要ではないかと思う。その際品質改善に当たって、組織の経営層の関与とリーダーシップが不可欠であり、品質システムは経営システムそのものであることを、改めて思い起こすことが重要であると思う。
(稲田 達夫)